ep10-7

「さて、それじゃあルキーニ君には別の薬を……」

 ガルフストリームが今度は別の棚から何かを取り出そうと引き出しを開閉する。

 ルキーニはそれを見て慌てて手と首を左右に振った。その表情は青ざめている。

「待ってっ! あー、アハハ! 僕にはそういうお薬はまだちょっと早すぎるかも!」

 頑なに拒むルキーニを見て、ガルフストリームは表情を明るくする。

「そうですか! 実は薬以外にも試してみたいものがあるんですよ。その昔、若い女が溺れたという悲劇的伝説がある泉で……」

「けっこうです!」

 ガルフストリームの言葉を遮ったルキーニは着替えを済ませたツガルの後ろに隠れてしまった。

「……そうかい。それじゃあ皆、また明日来てくれ。入念に準備しておくからね」

 ガルフストリームに見送られ、一同は背筋が凍るような思いで謁見の間を後にした。

「お大事にどうぞ~」

 白い魔城の出入り口で例の白衣を着た門番に見送られ、一行はひとまずグスタフの館へ戻る事となった。

「おかえりなさいませ、グスタフ様」

「ウム。出迎えご苦労」

 館では再びメイドたちがずらりと並んで一行を迎え入れた。

「わあー、すごいねグスタフ。お城みたいな建物に住んでるなぁとは思ったけど、中は本当にお城なんだね!」

「何だと思ったのだ。というかルキーニ! お前なぜついてきている!」

「えー? 折角だから皆と一緒にバカンスしたいなって思ってさ~」

「帰れ、お前の分の食事は用意していない」

「あーっ、そんなこと言っていいのかなー? ボク、王様だぞ! えらいんだぞ!」

 ルキーニが胸を張ってグスタフに迫る。

 押されるように後ろに下がったグスタフはがっくりと肩を落としてため息を吐き、近くにいたメイドに指示を出す。

「ディナーを一人分追加だ。あと犬用のジャーキーもな。ルームメイクをしてある空き部屋はあるか?」

「やったぁ!」

 小犬を振り回して喜ぶルキーニ。

 根負けしたグスタフを遠巻きに見て、ツガルとソニアは彼を憐れんだ。

「グスタフさまって、相変わらず身分の高い方に弱いのですね……」

「悪いヤツじゃねぇんだけどなぁ」

 2人が見守る中、グスタフはあれよあれよと言う間にルキーニを肩車させられ、部屋まで案内させられていた。

「……まるで忠犬ですわね」

「どちらかというと馬だな。顔つき的にも」

 グスタフが廊下の先に消えていくのを見守り、残された面々も各自の部屋へと戻っていった。

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