ep8-9
「落ち着きなさい、ツガル」
ソニアはツガルのもとへ駆け寄ろうとしたが、マミヤに押し留められてしまった。
「あの様子はただ事ではない、危険だからソニアは下がっていたまえ」
「でも……!」
ソニアは引き下がらない。
マミヤにかばわれながらツガルに向かって叫ぶ。
「ツガル! 忘れてしまったのですか!? 貴方自身が魔王の娘の魂そのものなのですよ! 貴方が貴方でなくなってしまったら、一体わたくしは何者だというのですか!? わたくしは今でこそソニアとして女らしくなろうと努めていますが、それでもわたくしが男だったという事は決して忘れてはいません! あなたが女だったことも!」
ソニアの悲痛な叫びが果たして届いているのか。
ツガルは思考を停止してしまったかのように無表情にソニアを眺める。
そんなツガルに畳み掛けるようにソニアはまくしたてる。
「本当に、あなたって人は! 体が入れ替わってしまっても平然と順応して、突然女になってしまって戸惑うわたくしをからかって、そのくせ心から男になることは拒み続けて、それを受け入れてしまったら今度は急に自分の中の女の部分を否定して! あなたって人は……!」
「よしよし、落ち着きたまえソニア。さてツガル。私からすればキミが自分を否定しようと構わないさ。でもね、その体を無闇に傷つけるのは見過ごせないんだ」
ツガルはマミヤに睨みつけられても動じない。
その様子を見てマミヤは額に手を当てヤレヤレとため息を吐く。
「まさに、心ここにあらずか。キミが元お姫さまでないなら、キミは一体何者なんだろうね? 興味はあるが、落ち着いて話せる雰囲気ではないね。さて……」
マミヤはソニアを押し留めていた手を離して、左右に揺れ始める。視線は移動ルートの確認。動き始めてからでは速すぎて彼女自身でも認識できないのだ。
マミヤの揺れが治まり、「フッ……!」短い呼吸音がひとつ。その時には既に決着がついていた。
「当て身!」
一瞬でツガルの背後をとらえたマミヤがツガルの首筋に手刀を叩き込んだ。
「ちょっと寝ていてもら……当て身!」
マミヤの手刀を受けても倒れないツガルに、手心のない一撃が見舞われる。ようやくツガルが床に倒れた。
「ちょっと寝ていてもらうよ。さてソニア。ツガルを離れ小屋まで運ぼう。手伝ってくれるかい?」
何事も無かったかのように振る舞いマミヤはツガルの右脇を背負うように持ち上げた。
慌ててソニアも気絶したツガルの左脇の下に納まった。
そうやって2人で、意識のないツガルの体をマミヤの私邸まで運ぶのだった。
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