ep7-7

「さぁさぁ。こっちだよ、ツガルくん!」

 ルキーニに導かれて、ツガルとグスタフはソニアの部屋の前までやってきた。

「おお、遅かったなルキーニ……って、おい! そやつらを連れてきてどうする!」

 ルキーニと一緒にいた小犬がやはり人語を喋りながら歯をむき出しにしてツガルを威嚇する。

「ああ、彼らは大丈夫だよモツァレラ。だって……ゴニョゴニョ」

「フムフム……何っ!? そ、そうか、ならば仕方ない」

 ルキーニに何やら耳打ちされてモツァレラは引き下がった。

「そこを通していただいてもよろしくて? ワンちゃん」

「わ、わん」

 ツガルが小犬に話しかけると、小犬は急に犬の振りをしてすごすごと道をあけた。

「おい、ルキーニ。大魔王の秘法は……」

「わかってるよう、モツァレラ。まずは彼らを元に……」

 ツガルは後ろでひそひそと話す小犬とルキーニのことを取り敢えず放念し、ソニアの部屋の前でバリアを張る王妃マリアのもとへ寄った。

 マリアの肩越しに部屋を覗くと、そこには光の翼を生やしたソニアが虚ろな瞳で宙に浮きながら虚空を眺めていた。そして時折、手を伸ばす。

 ソニアの伸ばした指先に光の翼の粒子が集まり、空中に魔力回路を自在に描いていく。

 魔力回路は即時起動され、光の束が発射される。

「おいおいおい、なんだあれは……。空中に魔力回路だと? 平面に描かざるを得ない魔力回路の制約を飛び越えた、規格外の力だな」

 グスタフが唸る。魔力回路を行使する者からすれば、ソニアの行っていることはそれまでの常識を打ち破る程の能力である事が分かる。

「これが魔王メイルシュトロームの力か……なるほど、貴族どもが欲しがるわけだ」

「あら、グスタフ。貴方もあの力が欲しくてソニアを追い求めていたのではありませんの?」

「フン、見くびってくれるなツガルよ。私はただひとりの男としてソニア姫に惚れ込んだまでよ」

「……つまり、今までソニアの力のことも知らずに他の貴族と張り合っていたというわけですのね?」

「当然だ。見合いの写真が送られてきた時から一目見て是非我が妻にと思い詰めて来たのだ。ソニア姫の素性を調べる間も無かったわ、ハッハッハ!」

「呆れた……」

 自惚れて笑うグスタフを置いておき、ツガルはソニアの攻撃を必死に抑え込むマリアのそばに寄った。

 すると、それまでほかの音にかき消されて聞こえなかった、弱々しい少女の声が聞こえてきた。

「ツガル……ツガルに会わせてよ……」

 朦朧としながらもソニアはそう呟いていた。

 それを聞いたツガルはマリアのバリアも押しのけて一歩近づき、叫んだ。

「ソニア! わたくしです! ツガルです! 会いに来ましたよ!」

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