ep7-2
「なん……って威力だ……」
マミヤは呆然と夜空を眺める。
極太の光の束が通った跡として、厚い雲の一部分だけがぽっかりと穴が空いて星空が見えていた。
「今のは、何だ? 魔王の魔法か?」
「あれは……ソニア?」
2人が見守る中、2撃目が発射された。今度は真横になぎ払うように水平に打ち出される。城に引火して夜が朱に染まる。流れ弾が地面にぶち当たり、弧を描くように森を焼いた。
「城が燃えているぞ、大丈夫なのか?」
「これはチャンスですわ。マミヤ、貴方は先王を。囚人を捕らえるための地下牢がありますので、この混乱に乗じて潜入してください。わたくしはソニアを助けに行きます!」
事態は一刻を争う。ツガルが走り出そうとしたところを、マミヤが手を掴んで止めた。
「……!? どうしました?」
「いや、あー、ハハハ。キミの事はなんと呼べば良いかなと。事が済んで合流するときに困るだろう」
「ああ。それでしたら今まで通りツガルとお呼びください。今はわたくしがツガルなのですから」
「そ、そうか。なあ、ツガル。もう一度私の名前を呼んでくれないか?」
「……マミヤ?」
「うん、そう。なんだか照れるな、その顔にそう呼ばれるのは。ありがとう、ツガル。おかげでもう少し頑張れそうだ」
「それは、どういたしまして」
「……お兄様も、私のことを『マミヤ様』と呼んでいたんだ。義理とはいえ兄妹なのに王族の私に遠慮してな。いつか、ただ『マミヤ』と呼んで貰いたかったんだよ。それがこんな所でこんな形で叶ってしまった。……済まない、こんな時に」
マミヤは感情を吐露する。いつもの気丈な態度は影を潜め、これまでこらえてきた想いが溢れ出しているようだった。
ツガルはそんなマミヤに改めて向き直り、胸に抱き寄せて優しく頭を撫でてやる。
「よしよし。貴方も大変でしたわね、マミヤ。この男が無遠慮に優しさを振り撒くものだから、皆それに惹かれてしまうのですね。困ったものです。必ず助け出して、後で2人でとっちめてやりましょう」
ぽんぽん。
ツガルに頭を撫でられる度に、マミヤの目から雫が零れ落ちる様だった。
城から3撃目が放たれた音で2人は城に視線をやる。
「ツガル、お兄様を任せたぞ」
「もちろん、お任せくださ……んっ!」
マミヤに呼ばれて振り向いた顔を両手で掴まれ、ツガルは唇を塞がれた。
「……!?」
「……っ、行くぞツガル! この次元の扉の前でまた落ち合おう!」
マミヤは赤くなった顔を見せぬように走り出し、行ってしまった。
「……今のは、油断しましたわ」
残されたツガルもまた、赤くなった頬を冷ますように足早に夜風の中を走り、燃え上がるメイルシュトローム城へ向かった。
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