ep6-13

「それで、マミヤ様。計画とは一体?」

「ウム……。簡単に言うと、先王を魔王国から連れ戻そうと考えているのだ。我が国の元国王とはいえ、魔王国内で暗殺事件を起こしたとあっては身柄を魔王国の司法に委ねるのが筋であろう。しかし我が国の勇者が魔王の手に落ち処刑されたとあっては我が国民に示しがつかん……。逸脱行為とはわかった上で、せめて我が国で先王を捕らえたいのだ。そのために魔王国に潜入し先王の脱獄を手助けする。あわよくば、先王を捕らえて我が国に連れ帰りたい。

 しかし、事は急を要する。今から船で魔王国に行っても間に合わぬかもしれない。そこでこの魔力回路の転送魔法で直接先王のもとへ行き、連れ帰ろうというわけだ」

 マミヤは床に魔力回路を描きながらツガルの問いに答えていた。

「しかし問題があってな」

 そう言ってマミヤは回路を描く手を止めて溜め息をつく。

「この転送魔法は一方通行でな、一度魔王国に行ってしまってはもう戻ることができなくなってしまうのだ」

 マミヤは筆を置き、お手上げ状態だと言わんばかりに肩をすくめてみせる。

 ツガルはマミヤのそばに立ち、床に描かれた魔力回路を数秒眺める。しばらくしてマミヤが置いた筆を取り、その回路にスラスラと追加の線を足していく。

「失礼いたしますわ……。ここの論理回路に入る前にループを作って繰り返させるようにすれば……」

「んん……?」

「ホラ、これで開きっぱなしの転送ゲートが出来ましたわ。こちらの空いているスペースに手動オンオフのスイッチも作りましょう」

「なるほど。必要な時だけ起動できる様に魔力回路の中に魔力を貯める仕組みを入れたのか。それは良いな!」

 マミヤが苦労して描いた部分をツガルがスラスラと清書しながら上書きでなおしていく。

 マミヤは初めのうちは感心していたが、やがて怪訝な表情でツガルの表情を覗き込む。

 そして出来上がった魔力回路への讃辞もそこそこに、マミヤは明確な疑念をツガルにぶつけた。

「お兄様……? 否」

 マミヤの顔が、唇同士が触れそうな位置にまで近づいてきてようやくツガルも自分の失態に気付いた。

「どうもおかしいと思っていたのだよ。記憶を失っていたと言うから、思い出話が通じないのも諦めた。その女口調も、記憶を失ったせいかもしれない。しかしね」

 マミヤはツガルの両目の奥をしっかりと見据えて問い詰める。

「記憶を失ったなら、今まで無かった知識が急に増えることはないんだ。少なくとも私が知っているお兄様は魔力回路なんてものに触れる機会もなかったし、原理を解明し再構築できるほどの知識はなかったはず。剣術の稽古で見せてくれた剣技は本物だったから、その体はお兄様そのものだろう。しかし……」

 正体がバレたか?

 諦めも焦りも押し殺してツガルはマミヤの言葉を待つ。

「キミは誰だい?」

 ついにその言葉が、ツガルの中の少女に向けて投げかけられたのだった。

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