ep6-2
「なるほど! スラム育ちの身寄りのない少年だったツガルがこの東国アイゼンの王女の命を偶然助けた事がきっかけで国王に気に入られて養子となったものの王室関係者に良く思われなかった為に王宮騎士団に落ち着いたという訳だったのですね!」
「オレが言ったことの繰り返しじゃねえか……」
ツガルは王宮騎士団長アカシ・ゴルトから事のあらましを概ね聞いた。
「養子であれ、王家に入った者だから『王子』と?」
「あー、それなんだがなぁ」
アカシ団長は口よどんで頭を掻いたり天井を見上げたりしてごまかそうとしたが、ツガルの問いただす視線に堪えかねて意を決したように語り出した。
「お前には言うまいと思ってたんだが、記憶喪失ってんなら話してやる。聞いて記憶が戻るかもしれないからな」
前置きを挟んでアカシ団長は続ける。
「実はお前の親は先王とその侍女じゃないかって言われてるんだ。王家の中にも勢力争いがあってな……。継承権を巡って、幼いお前がスラムに追放されたとも、逆に勢力争いから守るためにスラムに身を隠されたとも言われてる。なにせ、お前が生まれた頃に先王が退位し現王が即位したのだからな。
現王は先王の弟だ。もし先王に子が居ると分かれば王位には就けなかっただろう」
老兵だからこそ知りうる当時の状況を思い出したのか、アカシ団長は深いため息を吐く。
「そうでしたか。しかし先程の話だとツガルは……わたくしは偶然の様に王家に拾われたそうですが、なぜスラム育ちの貧民のわたくしを現王は養子に……?」
ツガルの問いを待ち構えていたかのように、アカシ団長はニヤリと笑って答える。
「ひとつは、現王の子に男が産まれなかった事。いま現王には12人の子がいるが全て女子だ。女王を認めないこの国では王家が途絶えることになる。そこで、王家の血が流れる男子であるお前を再び王家に連れ戻す必要が出てきたわけだ。
そこでふたつめ。王女を助けた時、王家にのみ受け継がれるはずの力をお前は持っていた。現王には発現しなかった力だ。
そう、お前のケタ外れたあの剣技は勇者王の正統な後継者としての証って訳だ」
全てを語り終えたアカシ団長は、憑き物が落ちたような清々しい表情をしていた。
「現王も驚いただろうよ。まさか王家から消えたはずの先王の隠し子が現れるなんてな」
ツガルはアカシ団長の話を聞いて、静かに自分の胸に手を添えた。
この体の元の持ち主の出自を知れたことを嬉しく思った。
そして何より、元からこのツガルという男は人を助けるために力を振るう強く優しい人物なのだと知れたことが嬉しいと思ったのだった。
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