第98話正体不明者

「うーん、どうしたもんか?」


 エレーヌがパンを食べている姿を見ながら僕は頭を悩ませていた。


「……はぐはぐ? です」


 食事をしながら首を傾げるシンシアの頭を撫でる。

 なにせ神界に来てから想定外の事態ばかり起こっているからだ。


 僕としては神界で目立つことなく無難に切り抜けて3年目に突入したかった。

 だが、エレーヌとシンシアが神界に来た時点でそれは不可能なのかもしれない。


「なにせ……ね」


 僕は目の前に置かれたものを見る。


「それ、奥に隠してあったから見つけてきたんだよ」


 褒めて欲しそうにしているエレーヌ。


「シンシアも見つけた。です」


 撫でられながらそう主張するシンシア。


「まさか、神器がこんなところにあるとはね……」


 僕は溜息を吐くと二人から目を逸らした。






「二人に聞きたいんだけど。この神器って本当にダンジョンにあったのか?」


 もしかして僕が仕舞わすれた神器を偶々持っていたという可能性はないだろうか?

 右手で触れれば増やせるのが僕の能力なのだ。記憶にはないが、どこぞで紛失してしまいインベントリの数をきっちりさせたくて増やしてしまった可能性はある。


「うん、そうだよ。そっちの奥からなんか妙な気配がしてさ。気になって行ってみたら置いてあったの」


 エレーヌはダンジョンの奥の方を指差した。


 なんの変哲もない場所だった。岩の陰になっているから見つけるのは容易ではないのだが、エレーヌとシンシアは妙な勘の良さを持っている。


「隠した人間もまさかこんな二人がいるとは思うまい……」


 不思議そうに見上げてくる二人と視線を合わせると、僕はその人物に若干同情した。


「とりあえずこれはエレーヌとシンシアの物にしていいよ」


「えっ? トード君が使うんじゃないの?」


「です」


「僕のインベントリは既にこのアイテムで埋まっているからね。これ以上は収納できないし。所有権は最初に発見した二人にある。それに神器は持っていると何かと便利だからね」


「そこまで言うなら貰っておこうかな……」


「いただく。です」


 よし、取り敢えずこれで問題ない。

 神器はエレーヌのアイテムボックスに仕舞ったので目立つことはない。


「ひとまずこの場所は駄目だな」


 ここに神器があったということは誰かが置いたということだ。

 回収に来る可能性が高いのでエレーヌとシンシアをそのまま待機させてしまうと鉢合わせになりかねない。


「仕方ないから二人は僕の部屋に泊まってもらうよ」


 また違う場所に潜伏させて変なものを発見されると頭痛の種になる。

 それだったらあてがわれた部屋に身を隠してもらった方が良いだろう。


「やった。ベッドで寝れるんだね」


「お風呂も入る。です」


 はしゃぐ二人をよそに僕は新たなアイテムを取り出すのだった。



     ★


「たしか……ここに置かれているって……」


 ダンジョンの奥で明かりをつけずに何者かが動いていた。

 探るような手つきで恐る恐る手を伸ばす。


「ん、これかしら?」


 何やら岩ではない硬いものに触れたので引っ張ろうとすると……。


「トラップ発動」


「えっ? きゃああああああああ」


 トラップメイカーの罠が発動してとりもちが不審者に襲い掛かる。


「よし、捕獲完了っと」


「な、なにこれ。なんですかっ!?」


 じたばたと動くがとりもちで動きが制限されていく。そんな中、明りの魔法が発動し不審者の正体が明らかになった。


「ひっ! だ、だれっ!」


 その人物から怯えとともに質問が出る。

 正面には仮面とマントを身に着けた怪しげな男が立っていたからだ。


 男は低い声を出すとこういった。


「朝倉桜。こっちの質問に答えて貰おうか」






※報告


 本日は『13番目の転移者、異世界で神を目指す2』の発売日になります。


 あと『ダンジョンだらけの異世界に転生したけど僕の恩恵が最難関ダンジョンだった件』がこの度書籍化することになりました。

 併せて報告しておきます。


 どちらも自信作なので、もしよろしければ読んで頂ければと思います。


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【Web版】13番目の転移者、異世界で神を目指すスキル【アイテム増殖】を手に入れた僕は最強装備片手に異世界を満喫する まるせい(ベルナノレフ) @bellnanorefu

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