第93話策を弄する人間はイレギュラーに弱い

「これは……つまり。ここにダンジョンコアを入れたらSPを貰えるって事なんですかね?」


 僕は近くに立つ平松に確認のため声を掛けた。

 彼らがいつからここに居るのかわからないが、この注意書きを前になんの行動も起こしていないとは思えない。


「そ、それがだね…………」


 だが、平松は歯切れの悪い言葉を発すると周囲を見渡す。

 なるほど、そういう事ね。


「今の時点では流石にここにコアを入れるのは無理だ」


「そうね。誰が神の瞳を奪ったかわかったものじゃないもの。コアを入れた事でSPが増えたら証拠が消えてしまうかもしれないわ」


 平松と三島の各リーダーがそう言った。その視線は自分達のメンバーのみならず僕らにも向いている。

 どうやらお互いに牽制をしあっていたようだ。


 それにしても、声の主は意地が悪い。

 間違いなくどこかからこの状況をみてほくそ笑んでいる事だろう。


「そっか。それじゃあ、折角なので今取ってきたコアでも入れてみましょうか?」


 そんな空気に気付かないふりをすると僕は提案をしてみる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! それは抜け駆けじゃ無いの?」


「慎重に行動した方が良いと僕も思う」


 焦りを浮かべた平松と三島が止めに来る。


「抜け駆けって……別にそんなルールは無かったと思うんだけど?」


 僕はうんざりしたような演技をすると二人の目を正面から受け止める。そして……。


「そうだ。僕が入れるよりも神を目指してる上杉。入れてみたらどう?」


「お、俺っすか?」


「うん。確か君。いくつかダンジョンコア持ってきてたよね?」


 一緒に攻略した時のダンジョンコアも持っている。こうして話を進める事でこの場の同調圧力を緩和させるのが狙いだ。


 神を目指している平松と三島は唇をかみしめる。だが、疑いが掛かってる現時点では身動きが取れないでいる。


「じゃ、じゃあ入れてみるっすけど……」


 光男は素直に頷くと自分の部屋に保管してあるダンジョンコアを持ってきた。そして…………。


「入れるっすよ」


 コアを入れると箱の中が輝きだす。そして…………。


「ふ、増えてるっすよっ!」


 光男がステータスを確認すると周囲が騒めきだした。

 どうやらこの『コア回収ボックス』とやらは本物だったらしい。


 大喜びする相川さんと光男。それを暖かい目で見守る僕と亜理紗。

 そして、対照的に冷めている周囲の神候補。


 彼らは動けない。何故なら自分達にアリバイが無い事でこの場の発言力を著しく失っているからだ。

 だから僕は言う。


「そもそもなんですけど」


 その声が通ると周囲の視線は僕へと集中した。僕は全員を見渡すとやわらかな笑顔で見渡す。そして…………。


「神器を勝手にとっちゃ駄目なんてルールは無い訳ですよ。神の瞳は努力の末にSPを溜めた人間が必要としたから手に入れた。それを責める必要がどこにあるんですか?」


 アリバイがある人間の言葉はこの場に置いて尊重される。

 その言葉には自分の利が含まれていないからだ。


 僕は周りを見渡すと話を続けた。


「だから必要だというのなら誰が何を取ろうと責めたり詮索したりするの止めません?」


 そう話を締めくくるのだった。







「さて、そろそろ良いかな?」


 僕は通話のコールリングを嵌めると相手に短く指示をだす。

 これから行うのは下界で集めたダンジョンコアをここに取り寄せる事だ。


 僕らが最後に召喚されることになるのはある程度予想がついていた。

 前回の召喚順番からして人数が多いパーティーが優先されたからだ。


 最後に呼び出された上でダンジョンコアを風呂敷一杯にもっていけば当然目立つ。

 なので、今回はロックの魔法を利用させて貰った。


 持つべきものは弱みを握ったまお――友達である。

 彼は僕のお願いを快く引き受けてくれた。


 暫くすると相手側から「準備ができたから今から行くよ」と合図がある。

 言葉に間違いがあるが、エレーヌの残念さは今に始まったわけではない「解った」と返事をかえすにとどめておく。


 程なくして箱が到着する。この中には大量のダンジョンコアが入っているのだ。

 そして、これらのコアをあのボックスにぶち込めば台座のアイテムが手に入るのだ。

 僕と亜理紗はかなりレベルが上がっているので今ならそれぞれが神器を複数手に入れる事が出来る。全部取るには足りない計算では合ったが、コアを含めればそのほとんどを手中に収める事が出来るだろう。


 そうして開かれるであろう黄金の扉。皆を出し抜いてその先に迫る事が出来る。

 行動は迅速にすべき。出なければ先程の発言を受けて台座のアイテムを回収する人間が現れないとも限らない。


 あの言葉のお陰で、神器を手中に収めても咎められない空気を作り出したのだ。


 神の瞳は僕らのアリバイを作るのに役立つので渡したが、他に関しては使い方次第で差をつめられる危険なものもある。

 取られるリスクは考えているが、最小限で行きたい。


 僕は取りに行く順番を考えながら箱を開く。その中に想定外のトラブルメーカーが入っている事に気付かずに……。

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