第92話無能な味方

「ねえねえシンシアちゃん」


「なん……です?」


「トード君はなんて言ってたんだっけ?」


 二人は現在、家のリビングにて大型の箱を見ていた。


「『僕が合図したらこの結晶に魔力を注いで発動させてくれ』です」


 この箱の中には直哉が必要とするアイテムが入っている。

 

「そしたらどうなるって?」


 エレーヌはのほほんとした表情を浮かべるとシンシアに問いかけた。


「そうすると、この箱がトードーさんの手元に届く魔法が発動する。です」


 直哉はロックに頼み込むと全魔法のスキルで手元にあるアイテムを持ち主に送り届ける魔法を吸魔の結晶に入れて貰ったのだ。


「私達が集めたダンジョンコア。何に使うんだろうね?」


「さっぱり……です」


 魔王の力があれば転移を無効化するダンジョンコアすらも移動させられる。

 そう考えた直哉はこの方法で神界に大量のコアを運び込むつもりだった。


 エレーヌはあたりを注意深く見渡す。

 直哉からステラに「あの二人が妙な事始めたら逐一教えてくれ。釘を刺すから」と念押ししていたからだ。


「どうしたの。です?」


 シンシアは純粋なエメラルドの瞳をエレーヌに向けると首を傾げる。


「ねえ。この箱ってまだ荷物の余裕あるよね?」


「あるとおもう。です」


 蓋を開けて中を覗いてみると、二人が言うようにそこには二人が入り込める程度のスペースが開いている。


「そろそろトード君と離れて三日も経つんだよ。シンシアちゃんは寂しいと思わない?」


「思う。です」


 たかだか三日間。直哉にしてみれば神界で他の神候補を相手にするのはそれなりに面倒ではあったが、トラブルメーカーの二人が居ない事でそれなりに憑き物が落ちていた。


 だが、エレーヌとシンシアにしてみれば物足りない。一日の通話はそれぞれ10分にも満たない。そのくせステラの業務報告だけはきっちりと長時間取っているのだ。


 その事に不満を隠し切れなかったエレーヌは。


「だったらさ。これに入ればもしかするとトード君のところに行けるんじゃないのかな?」


 魔王ロックの魔法は神器などの効果すら打ち消す。そこにロックよりも高い魔力をもつエレーヌが魔力を篭めるのだ。結果に関しては直哉も予測済み。


 本来なら、シンシアは物分かりの良い性格だ。直哉の指示には従うし、怒られる可能性が高い場合はリスクを回避する道を選ぶ。


 だが、ステラへの嫉妬と、エレーヌの悪戯な提案。自身の寂しさもあってかその判断力を欠如させた。


「行く。です!」


「決まりだね。後はトード君の指示を待つのと、ステラちゃんに書き置きを残さなきゃね」


 直哉が敷いた神界での策略。それをぶち壊す核弾頭が今、セッティングされるのだった……。

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