第80話インベントリを整理してみた

「おはよう。皆は?」


 先日。亜理紗と部屋でしたせいで寝付けなかった僕は昼間近にベッドから起きた。


「おはようございます。亜理紗さんとエレーヌさんはダンジョンに行く為の準備で出掛けてますよ」


 あの二人はニーナやニースと組んでダンジョンに潜る事になったと昨晩聞いている。


「シンシアは?」


 試験に落ちたのは僕とシンシアだ。つまるところ暇人の筈。

 昨日は目が合わなかったので話をしていない。シンシアと話しておこうとも思ったのだが……。


「シンシアさんも出掛けてます」


「何処に行くって?」


「さあ?」


 僕の質問にステラは口元に手を当てると首を傾げる。


 僕はステラが運んでくる朝食を頂く。

 本日は自家製パンにサラダ。そしてスープだ。


 シルヴェスタのおっさんの仕込みなのか、僕もそこそこ教わっているのに同じ料理を作ってもステラには適わない。

 調味料の分量だったり、煮詰める時間とか要所要所のポイントがあるらしく、こればかりはいくらレベルを上げても追いつける気がしない。


「そっか……ふぁ~ぁ」


 食事をしながらもついつい欠伸が出てしまう。


「うーん。御主人様お疲れですか?」


「いや、ちょっと枕が合わなかったみたいでさ」


 僕は寝不足の理由を勘繰られたく無かったので咄嗟に枕のせいにしたのだが。


「……そうですか。では午後にでも新しい枕買ってきますね」


 暫く僕の表情をじーっと伺ったかと思えばステラは納得した様子でそう言った。








「さて。久しぶりに整理しますかね」


 食事を終えてステラが出掛けていくのを見送った僕は一人で地下へと降りた。

 階段を下りてドアを開けると木の香りと微かに染み付いた酒の匂いが鼻腔をかすめる。


 ここは元々ワインセラーとして利用されていたらしく、温度と湿度を管理する魔道具が壁に埋め込まれているので適度に涼しい。


 かなり広めに作られた地下室は大量の荷物を押し込んでも問題なく。僕は購入する前から利用方法を決めていた。


「さて。まずはアイテムリストを出すか……」


 僕が意識を集中すると中空にアイテムのリストが表示される。



 聖剣エクスカリバー×999

 神槍グングニル×999

 魔杖ケリュケイオン×999

 聖槌ミョルニル×999

 神弓パルシオン×999

 戦斧ヘカトンケイル×999

 ニーベルングの指輪×995

 シーソラスの杖×999

 ソロモンの指環×995

 セイフティリング×995

 ギュゲースの指輪×998

 光の鎧×999

 覇者のマント×999

 スレイプニルブーツ×999

 天空の兜×999

 聖竜の盾×999

 神の瞳×3

 賢者の石×999

 ルナティックストーン×998


「改めてみると凄いな」


 同じアイテムは纏められており最大所持は999が限界になる。

 今リストに上がっているのは神の部屋での目玉賞品だ。


 神器や準神器クラスのアイテムで、もしこれらが流出するような事があればこの世界の勢力バランスを一気に傾ける事も可能だろう。


「取り合えずこれらはここに保管出来ないから次の奴を……」


 よってこのアイテムたちは引き続き僕のインベントリで管理するとして。

 

 【エレーヌ】のエリクシール×999

 テレポリング(未使用)×999

 吸魔の結晶×999

 テレポリング【モカ王国】

 テレポリング【キリマン聖国】

 テレポリング【ブルマン帝国】

 テレポリング【ロストアイランド】

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 ・

 【エレーヌ】のカタストロフⅣ

 【エレーヌ】のカタストロフⅣ

 【エレーヌ】のダーク=マターⅣ

 【ロック】のダーク=マターⅢ

 【ロック】のダーク=マターⅢ

 

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 ・

 ・

 ETC


 9923/9999


 これまで殆ど整理してこなかったせいもあり、かなりのアイテムだ。

 ちなみに右下の数字はインベントリに入れられる種類の数を示している。つまり現在は殆ど埋まってしまっているという事になる。


 僕はこの機会に要らないアイテムや持ち運ぶ必要が無いアイテムをここに保管しておくことにした。







「ふぅ。整理するアイテムはこんなもんかな」


 付与が弱いアクセサリーや攻撃力が微妙な武器を僕はインベントリから出すと棚に並べていく。

 もっとも、これらの武器は僕基準で使えないだけで世間から見たら上級の冒険者が愛用しているアイテムだったりする。


 これらのアイテムを整理し終えたお陰でインベントリには1500程の収容量が出来上がった。


 僕は腰をトントンと叩きながら綺麗に陳列された装備の数々を見て満足していると。


「御主人様。ケーキを焼いたんですけど食べますかー?」


 ステラに呼ばれたのでドアを封印して出る事にした。








「トード君。いるー?」


 その日の晩餐が終わり、今日こそはゆっくり寝ようと思っているとエレーヌがドアから顔を出した。


「んー? どうした?」


 僕はベッドから身体を起こすとエレーヌを迎え入れる。

 彼女は大胆なベビードール姿で現れると止める間もなく僕のベッドへと腰かけた。


 風呂上がりの女の子と二人きり。昨日とシチュエーションが被ってるのだが……。


 隣に座ると僕はエレーヌを観察する。

 鮮やかな赤髪にぱっちりとした瞳。薄桃の唇。薄いシルクの上からはっきりと自己主張している胸。磨かれた白磁の陶器みたいに傷一つない太もも。

 それらひとつひとつのパーツの破壊力たるや、生半可な戦力で挑めば返り討ちに会うのは必至と言えよう。


 僕はそんな彼女の太ももや胸には触れた事がある。後、触れて無いのは…………。


 自然と視線が唇へと向いてしまった。


「…………なんか、エッチな視線を感じる」


 風評被害も甚だしい。形の良い唇してるなと見ていただけだし。

 そんな僕の憮然とした姿にエレーヌは懐をゴソゴソとやると。


「そうだ。これトード君に返すの忘れてた」


「ああ。そういえばそうだったな」


 彼女の掌にあるのは白黄に輝く石だった。



 名称:ルナティックストーン

 効果:無限の魔法力を秘めた石。使用するとMPを回復させられる。

 必要SP:77777


 これはロックと戦う際にエレーヌに預けたアイテムだ。

 神の部屋の中の台座に飾られていた神器アイテム。使用効果は無限のMP回復という事でエレーヌと相性が良かった。


 彼女の魔法攻撃力はロックを上回る。

 唯一のネックが最大MPの差であったが、これを持っていれば関係ない。

 神話級魔法を連発する事ができるのでロックの魔法を抑え込んでもらうつもりで渡していたのだ。


 僕はエレーヌの手からそれを受取ろうとするのだが……。


「そ、それでね。今日亜理紗から聞いたんだけど。昨日は亜理紗と……エ、エッチな事したんだよね」


 何かが引っかかった。僕はエレーヌが何か言っているのを適当に聞き流して考え続ける。


「だ、だからって訳じゃないんだよ。お風呂入ってきたのも偶々だし。この寝間着もわざわざトード君に見せるために買ったんじゃなくて偶々街を歩いてたら気になったから買っただけだし」


 僕の脳裏に神界でみた設備が、ロックに施した封印が、そして様々な情報が浮かぶ。


「た、確かに結婚は延期にしたけど。それでも私としては今までより一歩進んだ関係を……師匠と弟子じゃなくて男と女のあれこれを少しは期待しちゃうわけで……」


 神界から降りたって10ヶ月。順調に招集されるとしたら後2ヶ月。ロックの封印が解けて元の力に戻るまでは3ヶ月…………。


「だから最低限私やシンシアにも亜理紗がした事……チューやハグぐらいならしてくれても良いんじゃ無いかとおねだりさせてもらえ――」


「エレーヌ!」


「ひゃっ、ひゃいっ!」


 僕は彼女の言葉を遮ると肩を抱く。そして何かを期待するかのように目元を潤ませる彼女に真剣な顔をすると言った。


「今夜は寝かさないからな」

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