発覚①

 アナは、原っぱに続く道を歩いていた。



「本当にこちらにいらっしゃるといいけれど」



 お世話をしている領主代理の婚約者は、裏庭を気に入っているのか、よく一人で散策している。裏庭に行ったという情報が入ったのだが、裏庭には姿がなくて、原っぱのほうにいるのではないか、ということで原っぱに向かっている最中だった。



「それにしても、こんな空なのに、戻らないのは珍しい……」



 たまに予想斜め上の行動を取ることはあるが、基本的に無茶はしない大人しい人だ。こんな悪い天気は、そもそも外に出ないが、雨が降ってくる前にとっとと戻ってくる。



「倒れていなければいいけれど……」



 ここに来てから風邪を引いたことがないのだが、小さい頃は身体が弱かったと聞いたことがある。今は健康体だといっていたのだが、その話を聞くと心配になってくる。


 原っぱに出て、辺りを見渡すが、誰もいない。


 おかしい。原っぱから裏庭までの道は、一本道のはずなのに。


 もしかして、林の中を歩いて戻っていったのだろうか。


 来た道を戻ろうとしたら、茂みから音が聞こえた。


 驚いて、後ずさる。風で囀っているわけでもない。明らかに何かが動いている音だ。



「アンジェリカ様?」



 返事はない。おそるおそる茂みの中を覗き込むと、拘束された少年が横臥していた。少年は暴れていたが、アナと目が合うと、ぴたっと止まって、涙目でアナに訴えてきた。



「え、え!? ぼ、ぼく、大丈夫?」



 驚愕しながらも、アナは少年の拘束を解く。口に巻き付いた布を除けてあけると、ぷはっと息を吐き捨てて、アナを見た。



「ね、姉ちゃんが!」


「姉ちゃん? 誰のことかな?」



 誰のことだろうか。この子の姉か、もしくは他の誰かなのか。

 首を傾げていると、少年が声を張り上げた。



「クルト様のこんやくしゃの姉ちゃんだよ!」


「アンジェリカ様がどうしたの?」



 嫌な予感が掠める。


 そこまで言うと、少年はさらに涙目になって俯いてしまった。


 今にも泣きそうな雰囲気で、内心おろおろしていると、少年がか細い声で言った。



「ゆ、ゆーかい、された……」

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