第37話 危機 1
魔獣の姿は見えず、けれど上空にはシンリャークの宇宙船が浮かんでいる。前例のないこの状況に、俺は周囲を警戒しながら次に何が起こるか待っていた。
既にほとんどの人が避難しているのか、周囲に人影はない。警察や自衛隊も最近じゃ戦闘は完全にアマゾネス頼みで、専ら避難誘導に力を入れているためか、見える範囲にその姿は無かった。
そのため、街中だと言うのに酷く静かに思える。
だがそんな静かな時間も長くは続かなかった。宇宙船から光が降りてきて、シレーとウワンが姿を表す。今までのパターンからこれも立体映像なのだろうけど、しばらく会っていなかったためどこか懐かしささえ感じる。
「久しぶりだなアマゾネスよ」
「魔獣も出さずに今日は何しに来たのよ」
裏声と女言葉を駆使しながら問い質す。正体が男だとばれないよう、これも日々魔法と平行して特訓してきたものだ。俺はいったい何を目指してるんだろうな。
「魔獣なんていくら送り込んできても無駄よ。地球侵略なんてさっさと諦めなさ
い。それが無理ならせめてコンサートが無事終わるまでは待ちなさい」
つい私情を挟んでそんなことを言ってしまうが、もちろん奴等にそんなものは通じない。
「コンサート?何を言っているのか知らんが、そんなものはどうでもいい。今まで幾度となく我らシンリャークの邪魔をしてきた貴様もついに今日で終わりだ。見よ、この方々が貴様に恐怖と絶望を教えるであろう」
シレーの言葉と共に、辺りに華やかな音楽が鳴り響き、色とりどりのフラッシュが点滅した。何が起きたのかと戸惑っていると、夜空に巨大な立体映像が映し出される。
そこに現れたのは豪華な椅子に腰かけた、黒いマントに白の仮面を着けた三人の男達。それぞれ仮面にマジックで何か書かれているのがなんとも間抜けに見える。
彼らは俺のことなど気にも止めないといった風に、互いに何やら話をしていた。
「……ったく、ソノイチのせいで俺らにまで風当たりが強くなって、とんだとばっちりだよな」
「まあいいじゃないか。さっさと地球侵略して、美味いもんでも食おうぜ」
「俺、このラーメンってやつ食ってみたいな」
奴らはこの状況でいったい何を話しているのだろう。呆気にとられて見ていると、シレーが慌てて叫んだ。
「四天王様!カメラもう回っています!」
「なに!?」
とたんにソワソワし始める三人。それから俺の姿を確認した奴らは、改めて姿勢を正してそれぞれの椅子に座り直した。
「貴様がアマゾネスか。とんだ恥をかかせてくれたな」
いや、俺は何もしてないけど。どうやら奴らの中では今のは俺が悪いという事になっているらしい。
「あなた達は何者なの?」
とりあえず、こいつらが何なのかよくわからないので問いかけてみる。すると奴らは待ってましたとばかりに立ち上がっては自己紹介を始めた。
「四天王、ソノニー」
「四天王、ソノサン」
「四天王、ソノヨン」
「「「我ら、シンリャーク四天王!」」」
ご丁寧にポーズまでとって決める三人。それに会わせてパンパカパーンといかにもな音楽が流れる。恐らくこれはシレーがやっているのだろう。その隣ではウワンが手を叩きながら場を盛り上げようとしている。
「四天王、あれがそうなのかニャ」
俺の隣でバニラが驚きながら言う。
「知ってるのか?」
「シンリャークの中でも最強と言われている四人だニャ。まさかそんな大物が直接来るとは思わなかったニャ」
どうやらなかなかにヤバ相手のようだ。だがそんな緊張した空気のところ申し訳ないが、それを聞いた俺は首をかしげていた。
「四天王って、三人しかいないじゃない?」
四天王と言うからには当然四人いなきゃおかしいし、バニラも四人と言っている。あとの一人はどうしたんだろう?
「……それについては何も聞くな。こっちにも色々と事情があるんだ」
「?」
なんだか知らないが、とにかく今ここに来ている四天王はこの三人だけなのだろう。何があったのか少々気にはなるが、どうやら聞いても教えてはくれなさそうだ。
自己紹介が一段落したのを見て、シレーが勝ち誇ったように俺に言う。
「四天王様かかれば貴様などすぐさまメッタメタのギッタギタにしてしまうだろう。覚悟するのだな」
その言葉を受け、緊張から体が固くなるのが分かった。
こいつら四天王がどれほど強いのかは知らないが、シレーやバニラの言葉通りならいつも戦っている魔獣よりも強いのは確実だ。それが三人もいるとなると、はたして勝てるのだろうか。
「さあ四天王様、どうかこのアマゾネスをやっつけてください」
深々と頭を下げるシレー。だが四天王は再び椅子に座りながら言った。
「まあ待て。こやつが本当に我らが直接手を下すに値する強者か、まずはそれを見極めようではないか」
そうして一人がパチンと指を鳴らす。するとそのとたん、宇宙船から地上に向けて一筋の光が舞い降りた。そして光は地上へと降り立つと、巨大な獣に姿を変える。用はいつもの魔獣だ。
「さあ、貴様の力がどれほどのものか見せてみろ」
まずはいつもの通り魔獣が相手と言うわけか。これなら決して楽ではないが、勝てない相手じゃない。だがこの後に四天王が控えているのを考えると、慎重に戦った方がよさそうだ。
しかし次の瞬間、そんな俺の考えは全くの無意味になる。
「魔獣一体程度では準備運動にもならんだろうからな。いくらか追加してやろう」
「なっ!?」
サラリと言い放たれた言葉に驚愕する。そんな俺を嘲笑うかのように、宇宙船からいくつもの光が放たれ、それらが次々に魔獣へと変化していく。
一体、二体……最初に現れたのを含めてその数合計十体。
二桁にもおよぶ数の魔獣が並び立つ光景はまるで悪夢のようで、俺はそれを呆然としながら見つめていた。
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