第32話 シンリャークside 最高幹部会 1
浩平達が茉理の家で話をしている頃、シンリャークの宇宙船では―――――――
「アマゾネスめ、きっと今頃我等の策は何なのかと戦々恐々としているに違いない。悩め、恐れろ、ストレスで胃潰瘍になれ!」
シレーは上機嫌で勝手な妄想をしていた。バカだから大丈夫だろうと思われているとは知るよしもない。
「しかしシレー様、作戦と言われましてもいったい何なのですか?はっきり言って何をやってもアマゾネスに勝てるとは思わないのですが?」
詳しい事情を知らされていないウワンは首を傾げるばかりだ。内心、ただの負け惜しみで言ったのでは無いかとすら思っている。
だがシレーは自信たっぷりに言った。
「ウワンよ、此度の魔獣とアマゾネスの戦いは記録できているか?」
「はい。ニャンダフル星人が記録媒体を封じる魔法を使っていたようですが、それで何とかなるのは地球の技術だけ。この通り、ちゃんと映像として残っております」
ウワンの言葉と共に、二人の目の前にさっきの戦いの映像が浮かび上がった。それを見てシレーは満足そうな表情で次の指示を出す。
「ウワンよ、シンリャーク本部に連絡をとるぞ。それも最高幹部会にだ」
「なっ!」
思いもよらぬ発言にウワンは言葉を失う。
最高幹部会。文字通り組織の上位メンバーやそれに連なる者達で構成されたそれは銀河にまたがる巨大組織シンリャークの中でも最も権力のある機関だ。
「よろしいのですか?私、それを聞いて今から胃が痛くなっているのですが」
「それを言うな。胃薬なら私のを貸してやる」
ウワンが躊躇するのも無理はない。言い出したシレーも今になって油汗をかき始めた。
最高幹部会なんてものは、本来なら自分達のような中途半端なレベルの幹部が顔を出せるようなものではないのだ。
ましてや今はアマゾネスに連戦連敗で地球侵略が一向に進んでいないと言う状況だ。激しく叱責されるのは間違いない。
「覚悟を決めるのだウワンよ。どうせこのままではアマゾネスには勝てんのだ。よって、幹部会に掛け合って援軍を呼んでもらう」
「ではシレー様の言っていた作戦とは……」
「無論、援軍要請の事だ」
「そうですか。私はてっきり罠にはめるとかデータを集めて対策を練るとか、そう言うのを想像していました」
しかし実際はこれだ。援軍と言えば聞こえは良いが、要は自分達では勝てないから上役に泣きつくと言う事だ。
少々落胆したウワンだったが、それを見てシレーは溜め息をついた。
「何をやってもアマゾネスには勝てないと貴様も言ってただろ。いいからさっさと本部に繋ぐのだ」
「かしこまりました」
間もなくして、さっきまで空中に浮かび上がっていた戦いの映像が全く別のものに変わる。それは薄暗い部屋の中で、何人かの人物が長い机を囲んでいた。
シンリャーク最高幹部会。その会議の場だ。当然ここにいるのはいずれも上位の幹部達、彼らは定期的にこの会議を行っては、銀河支配とその為の運営方針を話し合っている。
こちらと同じように、向こうでもシレー達の姿が映像として浮かび上がっている。よく見ると他にも何人か映像で参加している幹部達がいた。シンリャークの上位幹部は銀河規模で活動しているため、直接出向けないものもいるのだ。
会議の参加者達はシレーの姿を認識すると、睨み付けるように一瞥する。そしてその中の一人が言った。
「地球侵略が遅れているようだが、わざわざこうして会議に顔を出したとなると、何かしらの吉報はあるのだよな」
「いえ、それが……」
シレーは震える声で返事をしながら、事前に薬を飲んでいたにも関わらず胃がキリキリと痛むのを感じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シンリャーク最高幹部会による会議に出席したシレー。彼は胃の痛みに耐えながら、何とか地球侵略がうまくいかない現状を伝えるのに必死だった。
「だから地球にはアマゾネスって言うめちゃめちゃヤバいやつがいるんです。我々だけではどうにもなりません、お願いだから援軍を送ってください」
アマゾネスがどれだけ恐ろしい相手か熱弁を振るって説明する。しかし悲しい事にそれを聞いた幹部達の反応は芳しくなかった。
「こいつが君の言うアマゾネスだよな」
幹部達は話を聞くのと同時に、モニターを使ってシレーから提供された資料映像を見ていた。映っているのは、魔獣と浩平が戦っている時ものだった。
「確かに魔獣を倒しているしそこそこ強いだろうが、それでもまるで敵わないってほどじゃないだろ」
「抵抗勢力なんてどの星にもいる。それをやっつけるのがお前の仕事じゃないか。下級とはいえシンリャークの幹部が情けない」
次々に投げ掛けられる厳しい言葉にシレーはもう泣きそうだった。
「確かに映像にあるアマゾネスくらいなら何とかなるかもしれません。ですがそれはアマゾネス2号なんです。こいつの師匠である1号は、これとは比べ物にならないくらい強いんです」
「ならその1号の映像を見せてみろ」
「それは……」
シレーは言葉に詰まると、それから隣にいるウワンにそっと耳打ちをする。
「おい、1号の映像って残っているか?」
「ありませんよ。この前シレー様が『我々に敗北の記録など不要だ』なんて言って全て削除したじゃないですか」
「それにしたってだな……」
自分のした事の浅はかさを今頃になって後悔するシレーだがもう遅い。
ゴチャゴチャと下らないやり取りをする二人に追い討ちをかけるように、苛立った声が飛んだ。
「それじゃあ、その1号ってのはどれくらい強いんだ」
「ええと、魔獣を何の苦もなく瞬殺くらい強いです。それも素手で」
「はっ?」
シレーの答えに、質問をした幹部が声をあげる。それはそうだろう。数多の星を侵略し続けてきたシンリャークの長い歴史の中でも、そんな規格外の戦闘力をもつ敵などいない。
これでようやく現状を理解してもらえたかと思ったが、残念ながらそうはならなかった。
「バカも休み休み言え、そんな奴いるわけないだろ!」
「ええっ?」
思いがけない言葉をぶつけられて焦るシレー。これではいけないと慌てて捲し立てるが、ちっとも信じてもらえない。
「いえ、本当にいるんです。魔獣をほんの数秒で血と肉の塊に変えるような奴なんです!」
「嘘つけ!」
あまりに非常識な内容に、言えば言うほど皆がシレーを疑いの眼差しで見始める。そしてとうとう誰かがこんなことを言い出した。
「貴様のような腑抜けはシンリャークには不要だ」
「全くだな。即刻地球侵略指令を解任させよう」
「いや、いっそ処刑した方がいいんじゃないか。俺ら悪の組織だろ」
好き勝手な事をいい始める幹部達の言葉を、シレーとウワンは絶望的な思いで聞いていた。
「それはいくらなんでもあんまりです。どうかお慈悲を!」
「悪いのは全て無能な指令であるこの男です!私だけでも助けてください!」
「お前、何を言ってるんだ。違います、無能なのはむしろこのウワンの方です!」
泣きながら懇願、もしくは醜く責任を擦り付ける二人だが、なにしろシンリャークは悪の組織だ。その幹部ともなると残酷な奴等が揃っている。
「黙れ見苦しい。二人とも処刑だ!」
「「そんな……」」
無情とも言える言葉に二人は崩れ落ち、ガックリと床に膝をつく。
「うぅ……なんでこんな事に。地球侵略指令に決まった時はこれでエリート街道まっしぐらだと思ったのに」
「妻と子供に何て言えばいいんだ。こんなダメ父ちゃんを許してくれ」
もはや抵抗する気力すら無くなり、これまでかと絶望に打ちひしがれる。だがその時だった。
「まあ待て。結論を出すのはまだ早いではないか」
突如聞こえてきた、それまでの流れを無視した発言に一斉に注目が集る。同時に、何をバカなと不機嫌そうに漏らす者も随分といた。
しかし発言者の顔を見たとたん、その誰もが驚きをとともに口を閉じた。
それは口の部分の空いた白い仮面をつけ、黒いマントを羽織った男だった。
仮面の男は皆の視線が自分に集まる中会場をゆっくりと見回すと、先ほど不満を漏らしていたうちの一人に目をつけた。
「なにやら私の意見に不満があるようだが、聞かせてくれぬか?」
「い……いえ、滅相もありません。」
声をかけられた相手はまるで蛇に睨まれた蛙のように萎縮する。彼だけではない。この会場にいる誰一人として、この仮面の男に意見する者はいなかった。
「あなた様に意見する無礼者などいるはずがないではありませんか」
「実は私も、さっきから同じ事を言おうと思っていました」
「いよっ、宇宙一!」
むしろ手の平を返して仮面の男を肯定、もといヨイショする。ここにいるのはいずれも大幹部達なのだが、その中においてなお仮面の男の扱いは別格だった。
男の名はソノイチ。彼こそはシンリャークの中でも最上位の権力と戦闘力を誇る四人の大幹部の中の大幹部、四天王の一角を勤める男だった。
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