第186話 予選決勝

「ほら、褒めなさいよ醜い男! ちゃんと勝ったでしょ」


「褒めて欲しいなら裸で土下座してお願いするんだな!」


「もう、何言ってんのよ、ジンタ、カーミラは頑張ったでしょう、ちゃんと褒めてあげないさいよ」


ニジナがそんな訳のわからないことを言うので、仕方なく褒めてやることにした。

「うむ、ご苦労だった、褒めてつかわすぞ」


「どんな上から目線の褒め方よ!」

俺がせっかく褒めてやったのに、カーミラは納得していないようだ。


「それよりお腹の調子はもう大丈夫なのか?」

シュラが思い出したように、思い出したくないことを尋ねる。


「いや、油断したら大変なことになりそうだ」


平気な顔をしているがギュルギュルという音がお腹から定期的に聞こえてきている……そろそろトイレに行こうかと思案しているところだった。



トイレから戻ると、予選決勝の相手が決まっていた。


「やはり四次職のハイネクロマンサーのベルッチが上がってきたわね」

「あの臭い奴らか……ヤダな……」

「戦う私らだって嫌だぞ……それに私は鼻がいいから凄いんだぞ……それで、そんな嫌な決勝は誰がやるんだ?」


シュラに聞かれて、決勝のことを全く考えてなかったことに気がついた……さて、どうするか、そろそろカルナギを出すかな……


そんな感じで悩んでいると、カルナギの方からこう言ってきた。


「そろそろ私も運動したいかな、ジンタに問題なければ次は私が出るけど」


本人がそう言うなら反対する理由もない、俺は決勝をカルナギに任せることにした。

「じゃあ、カルナギに任せるよ」


そう決まると、ニジナがなんとも真っ当な正論を投げかけてきた。

「と言うより、どうして一人で五人と戦うような縛りになってるの? みんなでパッと戦えばいいんじゃない?」


「いいことに気がついたなニジナ、それはな……なんかかっこいいからだ!」


「……バカみたいな理由だったわ……」

「バカではない! これが男のロマンだ!」


「もう良いから……真面目に聞いた私がバカだったってことよ」


自分でバカを自覚するとは成長したもんだ。


「カルナギ、本戦で戦う奴が見てるかもしれないから、なるべく力を隠して戦ってくれ」

そう俺がカルナギに指示すると……


「ここに一人その可能性のある人間が見てるけどね」

確かにティフェンと本戦で戦う可能性があるけど、まあ、こいつはなんか大丈夫だろう。


予選といえど、決勝となると注目度がアップする、見物客も増えて、ある程度の盛り上がりが起こっていた。


「二次職でここまでくるとはすげーな! 応援してるぞ!」

「なんだその女ばっかりの編成は! 弱そうで見てられねえぞ!」

「ベルッチ! ネクロマンサーの強さ見せてやれ!」

「キャーベルッチさま! こっち向いて〜」

「この試合の賭けをしてるぞ! 今、召喚士ジンタにかければ十倍になるぞ、誰かかける奴はいねえのか!」


十倍とは……ちょっと行って自分に賭けたいと思っていると、ニジナとティフェンがその賭け士に話しかけているのが見えた……あっ! あいつら俺に賭ける気だな……なんともしっかりしてやがる。


試合開始を審判が告げると、予定通りカルナギが一人で敵の前へと出た。


「ほほう……一人で私のしもべたちと戦う気なのかな……それはそれは無謀な……」


ベルッチは余裕の表情でそう言ってきた。カルナギはそんなベルッチの言葉になんの感情も出さず、ジッと敵となるモンスター達を見ているだけだ。


「では……こちらも一体で相手になってやろう……アンデットトロール……あの敵を死者の仲間にしてこい」


半分腐敗したトロールがカルナギに近づいていく……腐っている匂いがコロシアムに漂い始めた。


ウガッ……


腐ったトロールは、ウガウガ呻いているが、知能は高いようには思えない。カルナギはゆっくりとトロールに近づくと、軽く拳を前に出した。側から見ると本当に自然にゆっくりとただ拳と突き出しただけに見えたが……トロールの半身が吹き飛んだ。


体の半分以上を吹き飛ばされたトロールは、その場でぐちゃぐちゃの肉片に変わり、地面に崩れ落ちていく……


あちゃ……手を抜って言ったのに……しかしもう遅い、それを見た観客がザワザワと騒ぎ始めた。


「なっ! 膨大な耐久力を持つアンデットトロールを一撃で倒すだと……なるほど……これは本気で倒しに行かなければいけない相手のようだな……」


ベルッチも今のカルナギの攻撃に驚愕している……あまり目立って欲しくなかったけどもう遅いかな……

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