第174話 観光とはなんぞや

朝飯は、ドロキア名物のテンシンと言う食べ物にした。テンシンは、具を小麦の皮で包み蒸した料理で、様々な形や味があり、朝食から楽しい食事となった。


「…………熱い……」

だが、ユキは熱々のテンシンが苦手のようで、真顔で動きが止まっている……

「ユキ、こっちの方が冷めてるから、交換しようぜ」

俺がそう言うと、ユキは笑顔で何度も頷いた。


「ジンタって、本当にユキちゃんにだけは優しいよね」

ニジナがまた言わなくていい感想を述べる。

「違うぞ、ニジナ、俺はニジナ以外に優しいのだ」

「ちょっ……ちょっと! どうして私には優しくないのよ」

「自分の胸に聞け!」

俺がそう叫ぶと、ニジナは何を思ったのか服の中を覗き込んで、自分の無い胸を凝視した……そして何を思ったのか方向違いの事を言う。


「やっぱりジンタは大きい胸の方がいいんだよね……」

「違うぞ、ニジナ、最近は美乳と言う言葉を覚えた、大きさより形だ」

「どこで覚えてくるのよそんな言葉……それで……私の胸の形はどうなの」

「……形なんてあるのか? 痕跡を見つけるのも大変ではないか」

「もう! ちゃんと見てよね! ふっくらと少しは膨らんでるんだから!」


「どれどれ、ニジナ、私が触って確認してやる」

シュラがそう言ってニジナの服の中に手を入れて胸を触る。

「キャッ! こら! シュラちゃん、変なとこ触っちゃダメ!」

「うん、確かに膨らみがある、私は十分、興奮できるレベルだけどな」

シュラは基本的には女なら誰でもOKだからな……ニジナの胸にも興奮できるのだろう。


朝飯を食い終わると、どこの名所に行くかで意見が分かれる。俺はどっちでもいいので、任せることにした。


「やはりここはエレキタワーでしょ! 大陸で一番の絶景を見逃すバカはいない」

ティフェンを筆頭に、エレキタワー派はニジナとシュラで、対するはカーミラが押す地下巨大遺跡跡派はカルナギとゴージャスだった。

「地下遺跡……ジメッと地味だけど、静かで、幻想的なその雰囲気は誰もを魅了するのよ……絶対に地下遺跡!」


ああだ、こうだと言い合いが続く……どうも話し合いは収束しなさそうなので俺は面倒臭くなりこう言った。

「こんな言い合いで時間を使ってるんなら、どっちも行けばいいんじゃないか」

しばしの沈黙の後、全員が納得して俺の案が採用された。


朝食を食べた場所から近いこともあり、最初にエレキタワーへと行くことになった。エレキタワーはドロキアの魔法大学が、雷撃エネルギーの利用を実験する為に作った巨大なタワーで、全長300メートルと、大陸屈指の高さを誇る……


「高い塔だな……」

「稲妻の力を取り込もうと高くしたって名所案内に書いてたわよ」

「にしては稲妻を取り込んでる感じはないけど」

「今は使われてないらしいわよ、実験は失敗したんだって……だからこうして観光として解放されてるのね」


塔のてっぺんには、エレキテルの魔法技術を利用した浮遊ルームで運んでくれる……浮遊ルームの使用料として一人3000ゴルドは高いが、初めての乗るそいつに、みんなキャピキャピ喜んで盛り上がったいた。


「すげー全面ガラスか〜」

浮遊ルームは全方位ガラスでできていて、周りの景色がよく見える。

「これだけの透明度のガラスでこの面積……この浮遊ルームすごい高いわよ……」

ニジナが現実的な感想を述べる……まあ、確かに高いだろうが、今はそんなこと言わなくていいだろうに……


浮遊ルームはもの凄いスピードで上昇して、一気に頂上へと到着する……地上から300mの景色がガラスの壁を通して目の前に広がった。

「ジンタ……怖い……」

ユキが俺にしがみ付いてくる……どうやら高いところが苦手のようだ。他の連中は全然平気のようで、嬉しそうに周りの景色を堪能してた。


エレキタワーのてっぺんには展望スペースが広がっていて、そこにはちょっとした茶屋があるのだが、値段表を見て目が飛び出るほど驚いた。

「なんだよこの値段……炭豆茶が一杯1500ゴルドだって……」

「観光地だから仕方ないよ、いいから記念なんだし入ろうよ」

「ニジナ、本気で言ってんのか! もう浮遊ルームで一人3000ゴルドも使ってんだぞ、さらに1500ゴルドって……」

「ケチなこと言ってないで、ほら、行くわよ」


いや……浮遊ルーム代もなぜか俺が払ってるし……このままじゃ、闘技会前に破産してしまう……そう思うのだが、俺以外の連中にはそんなこと関係ないようで、ぞろぞろとその茶屋へ入っていった……

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