第142話 遺跡の襲撃
「ここ、さっきも通ったぞ」
奥へ進めば進むほど遺跡内部は迷路のように複雑になり、俺たちはいい感じに迷子になっていた。
「キネア、レンジャーだろ、どうにかしろよ」
「あんたね、レンジャーをなんだと思ってんのよ」
「街の便利な何でも屋さんだろ」
「……確かに雑務職とか言われるけどね、何でもできると思わないでよね。私たち、レンジャー職が得意なのは山や森の行動で、ここみたいな迷宮での探索だったら、シーフのロッキンガンの方が得意なのよ」
いきなり話を振られたロッキンガンは、飲んでいた水筒の水を吐き出した。
「ゴフッ……ゴホゴホ……い……いや、確かに一般的にはそうだが、俺は探索系のスキルは苦手なんだよな」
「役に立たない盗賊だな」
「うるせー! 役に立たない召喚士に言われたくねえよ! そもそも最近、全然召喚してねえじゃねえか! 本当に召喚できんのか!」
「俺くらいの召喚士になると召喚しなくても問題ないのだ」
「何だよそれ!」
ロッキンガンは、ブツブツと文句を言いながらも、盗賊の鼻と言われる探索系のスキルを使用して何とか位置を把握する。
「うーん……やっぱこれ苦手だわ、トレジャーボックスとかわかりやすいターゲットがあればもっと位置を特定しやすいんだけどな」
「トレジャーボックス無いのか?」
こういったダンジョンにはかなりの確率で配置されているトレジャーボックスもここには無いようだ。
「変わったダンジョンだよな、モンスターポータルもトレジャーボックスも無いなんて」
俺がこのダンジョンの不自然な部分を指摘すると、ニジナも会話に入ってくる。
「そうね、でも、モンスターと戦闘しなくていいのは楽だよね」
「楽だけど冒険ぽく無いな」
普段そんな冒険ぽいことをしているわけではないので、ニジナにそれを指摘される。
「王道の冒険者には程遠いジンタがそんなセリフ吐くなんて、槍でも降ってくるんじゃないの」
もちろん冗談で言ったと思うそのセリフだが、まさかの現実化、ピューっと風を切る音が聞こえたと思った瞬間、俺の足元に大きな槍が突き刺さった。
「うわっ!!」
「敵襲!?」
全然モンスターとかの気配がなかったので油断していたのか、キネアもエルフィナスも敵の接近に気がつかなかったようだ。
「あら、当てるつもりだったのに……腕が鈍ったかしら」
そんな物騒なセリフを言ったのは、目の前に現れた露出度の高い姉ちゃんであった。セリフの内容から俺に向かって槍を投げたのは彼女のようだけど、知らない人間で槍で串刺しにされるようなことをした覚えがない。
「槍、投げたのあんた!? 何するのよ! 当たったら危ないでしょ!」
ニジナがその女に向かって強く抗議する。女は動じることなくこう言ってきた。
「死んで欲しいと思ってるんだから槍ぐらい投げるでしょう」
何を言い出すのだこの女は……これだからヒューマンの女は理解できん。
「死んで欲しいって……俺たちがお前に何か悪いことしたか?」
間抜けな質問であるが、俺はそう聞いていた。
「大事な我が子を殺されたら、母親はその殺した者を許しますか?」
「そりゃ、許さないだろうけど……そもそも俺たちは誰も殺してないぞ」
「あ……なんと愚かな者たちだ……自らの罪も理解してないとは……」
ちょっと言っている意味がわからないし、表情がちょっと異常で怖い。
「召喚士──どうやらあの女、こちらの気を引いているだけのようだぞ、周りから複数の危険な気配が近づいておる」
エルフィナスは周りに何かの気配を感じたようで、そう警告してきた。
「みんな気をつけろ! 何か近づいてるそうだぞ!」
俺はエルフィナスの警告を、大声でみんなに伝える。もちろん、それは目の前の女にも聞こえていて、その言葉に反応する。
「はははっ──もう遅いよ! 魔獣たち! こいつらを食い殺しなさい!」
女の号令の後に、強烈な咆哮が鳴り響く──俺たちはすでに魔獣に囲まれている状況のようで、全方位から雄叫びと音が聞こえてくる。
しかし、この危機的状況で、シュラの様子が少しおかしいのに気がついた。今から確実に戦闘になるだろうというこの状況に、彼女は一点を見つめて惚けていた。
「どうしたシュラ、何ぼーっとしてるんだ、魔獣が襲ってくるぞ!」
そう言ってもシュラは一点を見つめて動こうとしない……シュラの視点の先──それは明らかに敵意を持って俺たちの前に現れた、あの露出度の高い女であった……
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