第128話 天国と地獄

ルービック博士には、引き続き女神の雫を調べてもらう約束をして、神器研究所を後にした。


帰り際に、ユキが壊した置物を指摘される。どうやら最初から気が付いていたようだ。

「本当にすみません……弁償しますので……」

「ふむ……弁償と言ってものう……あれは歴史的価値があるものじゃから、安く見積もっても五千万ゴルドはすると思うぞ」

「五千万!!」

「ほほほっ、お主らがそんな金持ちじゃないのは見ればわかる、どうじゃ、一つ借りということでどうじゃ」

「借りですか?」

「うむ、ワシらのような研究者は遺跡やダンジョンにも調査に出かける必要がある、その時の護衛を、無償でやってもらうってことでどうじゃ」

「はい、そんなことでよければ……」


と言った感じで、ルービック博士に借りを作ってしまった。


その後、夕食をとりながら、次の作戦の話をすることになり、メリューカ名物の店へと入店した。


「アルパパの脳みそ煮込みにオオゴエザルの丸焼き……」

メニューを見ながらニジナが顔をしかめる。どうもこの店のメニューは癖が強めのようだ。

「……マイカルベアーの睾丸炒めとかどうかな……」

「睾丸って何?」

キネアの注文の提案に、ユキが反応して聞いてくる。

「……男の大事なとこだ……」

俺が教えてやると、何に興味が湧いたのか、マイカルベアーの睾丸炒めを食べたいと言い出した。俺は正直、そんなものは食いたくなかったが、ユキが可愛い顔でお願いするのに逆らえなかった。


「私はこの、バッファローフィッシュの刺身を食べたいです」

マリフィルが珍しい料理を名をあげる。

「なに……刺身ってあれだよな……生の魚だよな……」

「そうです、このバッファローフィッシュは、刺身が一番、美味しいんですよ」

「ちょっと生魚は……」

俺が偏見でそう言うと、マリフィルは一口でいいから食べてくれと熱弁する。まあ、俺が食べるかどうかは別として、とりあえず注文することにした。



「美味い!」

刺身を食べた一口目の感想がそれである。さっぱりとしているのに、濃厚に感じる旨味、今まで味わったことのないその深みのある味に、一発で気に入った。


「睾丸美味しい! 睾丸って美味しいね」


ユキはマイカルベアーの睾丸炒めが相当お気に召したようで、睾丸を連呼する。美少女と言ってもいいいような容姿のユキが、睾丸を連呼するには流石に抵抗がった。

「ほんと、睾丸、美味しいわ……」

キネアが言う睾丸には何の抵抗もないが、ちょっとは恥ずかしいと思えよな……


「それで、ジンタ、これからどうするつもり」

アルパパの脳みそをスプーンで突きながらニジナが話を切り出す。そうだ、飯を食いながら、作戦会議をするんだった。

「うむ……結局、『女神の雫』の情報は得られなかったからな……どうしたもんか……」


「でもルービック博士がこの後も調べてくれてるんでしょ? それに期待して少し待つのも手よね」

「まあ、それもいいが、今の宿だと、そんなに長期間は滞在できないぞ」

そう、女性陣の泊まっている部屋はすごく高いのだ……鉱山での臨時収入を食い尽くすのもそれほど時間がかからない。

「何よそれ、別の宿に変わろうってこと? 私、あの部屋気に入ってるんだけど」

キネアが平気な顔でそう言い切る。

「そりゃ気に入ってるだろうな! 高級ロイヤルスイートなんだから!」

「何言ってんのよ、もうそれで納得して、その話は終わってるでしょ」

俺の心の抗議に、どう言う解釈でかそう言い返してくる。

「終わってねえよ! 誰が納得してんだ」

ロッキンガンもどうやら俺以上に怒っているようで、横からキネアに抗議する。


「こんなとこで恥ずかしい言い合いすんなよ……それじゃ、クジで部屋割りを決めるってどうだ?」

シュラがなぜか真っ当なことを言い出した。たまに常識的なことを言う奴だ。

「女も男も関係なく、アタリを引いたもんがロイヤルスイートだ!」


そう言って、棒で作ったクジをテーブルに並べた。

「このバツがついてる二本が外れで、従業員部屋直行!」

全員、そのクジを見つめておし黙る……

「天国と地獄だな……」

ロッキンガンがそう呟く。

「よし、これは公平だ、文句ない。俺が最初に引いてやる!」


クジは七本、ハズレは二つ、こんなの最初に引いた方が有利に決まっている。俺はそんな計算で、一番クジを勢いよく引いた……


そして……引いたクジを見る……棒には、しっかりと、バツ印が書かれていた……

「ノォー!!」

「ははははっ、いきなりハズレクジ引いてくれてありがとうよ!」

ロッキンガンが笑いながら、俺のハズレクジを指差す。

「くそ……ロッキンガン……次はお前引けよ……」

散々笑われたので、バツを引いたら笑ってやろうとそう提案する。だが……どんな悪運があるのか、ロッキンガンはアタリを引きやがった。

「よし! ロイヤルスイート決定!」

「ぐっ……コノウラミドコカデハラシテヤル……」

恨みの目でそう言うが、ロッキンガンは気にすることもなく、アタリの棒を振り回して喜んでいる。


さて……そうなるとハズレは誰が引くのか……残りのメンバーの顔も真剣になっていた。

次にクジを引いたのはユキだ。もちろん、くじ運の良さそうなユキだ、簡単にアタリクジを引いた。

次にシュラが、パッと引いて、アタリクジを引き当てる。それにマリフィルも続き、無欲の強さだろうか、アタリのクジを引いた。


残るクジは二つ……キネアとニジナが不安な顔でそのクジを見ていた。

「よし、ニジナ、同時に引こう」

キネアがそう提案する。もちろんニジナもそれに同意した。

「せーえーのーはい!」


引いたクジを見て、キネアが喜び飛び上がる。

「やったー! 悪いわねニジナ」

喜ぶキネアの横で、なぜかニジナが顔を赤くして少し笑っている、ハズレを引いて何が嬉しいのか……まあ、嬉しいわけはないだろうが、少なくとも残念そうな顔はしていなかった……


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