第126話 女神の罪
人は間違いを起こす生き物である──そして女神も、あまり知られていないが、極たまに間違うことがある。
私はあの冒険者……そう、ジンタとかいう名の召喚士に、四次ジョブクエストの目的として『女神の雫』を持ってくるように言った……確かに言ってしまった……実は『女神の雫』なんてアイテムは存在しない……そう──言い間違えたのだ……本当は『女神の涙』と言うつもりであった……やらかした……久しぶりにやらかした……こんな間違いなど何百年ぶりだろうか……
どうする……使いを出して、訂正することはできなくはない……いや、ダメだ! あの卑劣で卑猥なエロ召喚士のことだ、私が言い間違えたと知ったら何を要求してくるかわかったものじゃない……ならばどうする……うまく誤魔化せないか……
そうだ! ニジナがあの召喚士と一緒にいるはずだ、ニジナに伝言を出して、上手く、エロ召喚士が聞き間違えたことに操作してもらおう──
私はすぐに、ラミュシャの巫女の一人を呼び出すことにした。誰がいいか……恐らく、冒険に出ているであろうニジナたちを追いかけることができる人材……戦闘力が高く、口が堅く、信頼できる巫女……
その条件で頭に浮かぶのは数人しかいなかった……その中で、一番最初に思い出された者を呼び出す。
「エルフィナス……大事な用を頼みたいです……」
エルフィナスは女神ラミュシャを過剰なくらいに崇拝している。元は冒険者で、あまりにも私が好きすぎて巫女になったくらいである。彼女は元々五次職の冒険者なので、その実力に不安もなく、ニジナたちがどこにいようと追いかけることができるだろう。
流石に私を好きすぎる巫女である、呼び出すとすぐに現れた。
「敬愛なるラミュシャ様、何なりと我に喜びの命をお与えください」
「ありがとう、エルフィナス──それでは一つお願いをいたします」
私がそう言うと、エルフィナスはまさに恍惚の表情で喜びを表していた。
「はっ、それではニジナにそう伝えれば良いのですね」
私の説明に頷くと、エルフィナスはそう言った。ニジナとエルフィナスは、ニジナが天使の里にいる時から面識がある。なので尚更適任だと思った。
「しかし、ラミュシャ様、そんなまどろこしいことをせずとも、その冒険者の口を、永遠に塞げば良いのではないですか……何なら私の暴走ということでそう処理しますが……」
この子なら本気でそれをやりかねない……自分の命や名誉などよりも、私の恥を隠蔽することを優先するだろう……
「いえ……それには及びません……その冒険者は、変態でエッチな召喚士ですが、少し贔屓目に見れば善人で、無礼で大暴なところはありますが、かなり甘く見れば有望な冒険者ですから……」
「エッチな召喚士ですか……まさかですが、ラミュシャ様に、エッチなことを言ったりしてないでしょうね……」
「まあ……それは……」
私が言い終わるより先に、すごい形相になったエルフィナスが声を荒げる。
「まさか! ラミュシャ様にそんな破廉恥な言葉を浴びせかけたのですか! あんなことや、こんなことを言い放ったのですか! ゆ……許せぬ……これは万死に値する所業……」
やばい……このままではエロ召喚士が殺される……流石にそれはまずいと思い、エルフィナスを嗜める。
「まあ、まあ、エルフィナス、私はそれほど嫌ではなかったので、そこまでする必要はありませんよ」
「え……嫌ではなかったのですか! そんな……まさか……ラミュシャ様はその冒険者のことを……そうか、そうに違いないでね……エッチなことを言われて嫌じゃないなんてそれしか考えられません……わかりました! ラミュシャ様が
そのエッチな召喚士のことに特別な感情を持っているのでしたら、このエルフィナス……ラミュシャ様と一心同体である私も、その者に特別な感情を抱きましょう」
え?! 何言ってんのこの子……流石にわけわかんないんですけど……
「ちょ……ちょっとエルフィナス……」
「それではすぐに愛しの召喚士を追いかけます!」
「ちょっと待ちなさ……」
そんな私の否定的な言葉を聞き終わる前に、彼女は干渉を切って、その場から立ち去った……
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