第103話 幻想の中で

オアシスのある屋敷を訪ねたのだが、やはりというか、呼び鈴を鳴らしても反応がない。やはり留守かと思ったが、ジンタがドアノブを回すと、スーッと扉が開いた。


「すみません。誰かいますか」

玄関を少し入り、広い豪華なエントランスでそう叫んでみる。誰かが出てくる気配は無かったが、代わりに何か、花の香りのような匂いが漂ってきた。その匂いを嗅いでいると、少し頭がボーとしてきた……そして意識が遠のいていく……



「お客様。どうかしましたか?」

俺は誰か知らない声に話しかけられていることに気がついた。見ると綺麗なお姉さんが俺を見つめている。しかもそのお姉さんは、俺の好物のサキュバスのようであった。

「あれ、あなたは誰ですか?」

「申し遅れました。私はこの館の主で、モリアと申します」

「俺はジンタです。よろしく……あれ、俺、何してました?」

「お客様はこの屋敷に入ってきてすぐにお倒れになりました。旅の疲れでしょ、部屋を用意しますので、ごゆっくりお休みください」


どうやら倒れた俺を、モリアさんが介抱してくれたようだ。しかし、なぜモリアさんが……ニジナたちはどうした。そう思って、俺は仲間がいなくなっていることに気がついた。

「あれ……俺の仲間はどうしました?」

モリアにそう質問すると、モリアは意外な答えを返してきた。

「お仲間? お客様はここにいらした時にはお一人でしたよ」


なんだと……あいつらどこで迷子になっているのだ……困った奴らだ……


「それよりお客様、まずはお食事にしますか、それともお風呂に……またはすぐに、私とお楽しみすることもできますけど……」

そう言ってモリアは、俺を妖しく見つめる。


これは、もしかして……あれなのか! あれなところなのか! そう考えると、俺の胸は以上な鼓動の高鳴りを始める。もちろんすぐにお楽しみしたいところだが、ここで焦ってガッついたら、童貞とバレてしまう。なので大人な対応をすることにした。

「うむ……まずはお風呂かな」

「はい。ではすぐにご用意します」


砂漠を歩いて砂っぽくなっているので、ここは風呂を選択する。少しすると、メイドの格好をしたサキュバスが風呂の用意ができたと案内に来た。案内に来たサキュバスも、かなり露出度が高く、それをチラチラ見ながら付いていく。


風呂はかなり豪華なものであった。広さもそうだが、床は大理石、湯船は黄金で作られているようだ。何やらネコ科の獣の口からお湯が溢れている演出も、その豪華さを表していた。


俺が風呂に入ると、当たり前よのようにメイドのサキュバスが一緒に入ってきた。

「お背中流します」

俺は頭ではかなりパニックになるくらいドキドキしていたが、表面では冷静を装う。

「うむ。では、頼もうか」

俺がそう言うと、メイドサキュバスはすべてを脱ぎ捨てて、俺の背後に回る。そして優しく背中を洗い始めた。



気がつくと、そこは小さな家であった。私は洗い場で、食器を洗っていた。そこに眠そうな彼が姿を表す。

「おはよう、ニジナ」

「おはよう。ジンタ。ご飯出来てるから」

私たちはそう言うと、小さなテーブルに向かい合って座る。


いつもの朝、いつもの会話、そしていつもの幸せ。何気ない会話を楽しみにながら、今日の幸せをスタートさせる。

「ジンタ。今日はどこまで行くの」

「うむ。今日はパッとエギナダンジョンに行ってくるよ。あそこは稼げるからな」

「そうか……でも、あまり危険なことはしないでね。いくら六次職になって強くなっても、無理はしないで欲しい」

「大丈夫。俺が慎重なのは知ってるだろ」

「うん……」


ジンタは優しくニジナを抱きしめる。


幸せだ……この時、この瞬間、私は大きな幸せを感じていた。この幸福の時が、ずっと続けばいいのに……そう思っていた。



彼女が私の前に立っている。何年ぶりだろう……彼女は変わらず美しい。私はそっと彼女の髪に触れる。彼女も私の髪に触れてくる。


「シュラ……ごめんね。あんな去り方をして。寂しかったでしょ」

「スフィルレン……いいんだ。こうして戻ってきてくれたんだから……」

そう言うと、シュラはスフィルレンを強く抱きしめる。スフィルレンもシュラを抱きしめ返してくる。

「シュラ……あのね……実は私は……」


スフィルレンが何かを言おうとしている。私はその言葉を集中して聞こうとしたが、その言葉の先が掻き消えていき、聞き取ることができなかった。


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