第96話 長旅に向けて

さて、ニジナも言っていたが、今回の旅は遠出になりそうだ。十分な準備と、パーティー編成をよく考える必要がある。いつものメンバーで足らない戦力を誰か誘う必要があるのだけど……足らないと言えば、何と言っても前衛職だろう。


なので、うちのギルド最強の前衛職を誘うことにした。

「ジンタ。面白い話だけど、来週、ちょっと大事な用事があって長旅には付いていけないんだ。すまないな」

「なんだと、ルキア! それでは俺の、圧倒的戦力で戦闘を楽する計画が、崩れるではないか!」

「そんなこと言われてもな……」

困るルキアを見て、ジンタは諦めたのか、そこにいたディレイにこう話しかける。

「まあ、いいだろう。それではディレイ。一緒に来てくれるか」

「あっ。俺も来週、用事があるからダメだ」

「なんだと、ディレイ! 友達少なくて、いつも暇じゃないのか!」

「お前は俺のことをそんな風に思ってたのかよ……」


ジンタは周りを見渡して、次のターゲットを見つけた。

「ヴァルダ。それでは一緒に……」

「あっ、俺は明日から帰省するからダメだ」

「何! そんな……帰省は今度じゃダメなのか!」

「妹の結婚式なんだよ。悪いなジンタ」


困ったぞ。強力な前衛で楽する計画が破綻するではないか……そう思っていると、意外な人物から声がかかる。

「よう、ジンタ。暇だから俺が一緒に行ってやるよ」

そう言ってきたのは、ソファーで昼間からエールをくびくび飲んでいるジークであった。

「何! 本当かジーク!」

「ああ。メリューカの近くには強力な魔獣が出没するしな、それと一戦するのも悪くねえ」


普段は、ルキア以外のギルドの仲間とパーティーを組まないジークなので、頼んでも無理だと思っていたのだが、珍しいこともあるもんだ。


よし。これで強力な前衛は確保した。後は誰を誘おうか……


「リスティアとか誘ってみたら?」

ニジナが安易にそう言ってくる。

「うむ。実はそう考えて、リスティアの住んでいるホテルへ行ってみたのだが、どうやらどこかに出かけたみたいで留守だったのだ」

「あら。残念ね」


まあ、ジークがいるから、戦闘力は十分かもしれない。なので、色々便利なあの女を誘うことにした。

「メリューカまで冒険? そりゃまた遠いとこまで行くのね。まあ、特に用もないからいいけど」

そう返事をするのはキネアである。レンジャーである彼女がいれば、冒険で便利である。


「あと一人くらい誰か誘うか」

「そうね。誰かいいかしら……」

ギルド本部の廊下でそんな会話をしていると、後ろから声をかけられる。

「ジンタ、ニジナ。こんなとこで、何してんだ」

それはハイシーフのロッキンガンであった。

「いや、お前に用はないぞロッキンガン」

「なんだよ。冷たいこと言うなよ。てことは何か美味しい話があるんだな」

「ちょっと冒険でメリューカに行くだけよ。そんなに美味しい冒険じゃないわよ」

ニジナのその答えに、ピクッと反応したロッキンガンはこう話す。

「何言ってるんだ。メリューカの近くには、トレジャーボックスのポイントがいっぱいあるんだぞ。それこそ俺の出番だろ」

指を立てて堂々とそう言うロッキンガンに、冷めた顔でジンタはこう返事をする。

「ほほう。だが、トレジャーボックスならキネアも開けられる。お前がいなくても大丈夫だ」

「馬鹿な奴だな。レンジャーのキネアの開けられるトレジャーボックスと、シーフである俺の開けられるトレジャーボックスを同じに考えるんじゃねえぞ」

「何! そうなのか?」

「キネアの開けられるのは精々レベル3くらいまでだ。俺はレベル5まで開けられる」

「その違いは分からないが、すごいのか?」

「トレジャーボックスのレベルが2も違うと、出て来るアイテムの相場の値段が5倍は違うぞ」

「なんだと……そうなると話は別だ。ロッキンガンも一緒に来るんだ」

「まあ、そうこなくちゃな」


こうして、メリューカ行きのパーティーメンバーは決まった。戦闘はジークに任せ、トレジャーボックスで旅の資金を稼ぎ、四次ジョブクエストの情報を得る。そんな気楽な冒険になりそうであると……この時はそう思っていたのだが……

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