第92話 人気店を目指して

ジンタは、カルナギの店の改革に乗り出す。まずは店の雰囲気をガラリと変えることにした。店内の魔法灯の明かりを抑え気味にして、雰囲気をシックに変更する。前は変に豪華だった設備を取っ払い、二人が窮屈に座れるくらいの狭いソファーをたくさん並べる。


席料などは無くし、代わりに時間制にする。一時間一万ゴルドの値段設定で、明瞭会計を謳い文句にした。


店のシステムだが、基本的には飲み放題である。幾つかの種類のお酒を用意しており、時間内であればそれをいくら飲んでもいいと、実に良心的なものになっている。


また、接客でラミアが客の横に座り、世間話をすることで、ひとり客に優しいシステムになった。


と、ジンタのここまでの話を聞いて、ニジナがそれに対して指摘する。

「横暴な値段設定以外は、今までとそれほど変わらないじゃない」

それに対して、ジンタは不敵に笑う。

「ふふふふっ。確かにここまでは誰でも思いつくありふれたアイディアだ。俺の考えた画期的なシステムはここからが本番だ」


ジンタのその自信たっぷりのその態度に、少し不安になるニジナであるが、その画期的なアイデアのことを聞いても、ジンタは教えてくれなかった。あとの楽しみだとだけ言ってくる。


そのあと、ジンタは一人残って何やらゴソゴソと作っていた。それは店の宣伝用のチラシで、なぜか秘密裏に作成され、ジンタ本人によってそれは配られた。


次の日、カルナギの店の新しい営業が始まった。人通りの多い道でチラシを配った効果もあり、店は初日から大盛況であった。多くのお客さんが訪れてくれ、店内の席は一瞬で埋まる。


しかし、その客層の偏りに、裏から見ていたシュラが気がつく。

「あれだな……むさい男ばっかりだよな」

シュラは可愛い女の子の客がいないか見ていたので、そのことに早期に気がついた。シュラの言葉に、変な違和感を感じたニジナが言う。

「ちょっと、ジンタが配ったチラシ見せて」

ニジナにそう言われ、ユキがテーブルの上に置いてあったチラシの残りを持ってきた。そのチラシを見て、ニジナの表情が変わる。明らかに不機嫌になっていくのをシュラとユキはそっと見守っていた。



「ジンタ! 何よ、このチラシは!」

店の事務所で、何やら準備していたジンタに、ニジナが怒鳴り込んできた。

「うむ。カルナギの店の宣伝用のチラシだ」

「わかってるわよ、そんな事! 私が言ってるのは内容よ、内容!」

「いっぱいお客さん来てくれそうな、完璧な仕上がりだろ」

「どこが完璧なのよ。ラミアのおっぱいしか載ってないじゃないのよ」

チラシには、フォトグラファーのビルゲットに頼んで神写された、ラミアのトップレスの上半身が写っている。そしてこう書かれていた。

『美味しいお酒を飲みながらの、美乳、いかがですか』


「何を売りにしているのよ、何を!」

「おっぱいだ」

自信たっぷりにそう言うジンタに、さすがのニジナも怯んだ。気を取り直して。さらにジンタに何か言おうとするが、それを中断させるように、事務所にカルナギが入ってきてこう言ってきた。

「ジンタ。そろそろ時間じゃ」

「よし。いよいよクライマックスだな」

ジンタはそう言って店のフロアーへと出て行った。


何が始まるのか、すごく不安なニジナは裏からその様子を覗く。店内には魔導蓄音機によって、スローテンポで穏やかな音楽が流れていた。だが、急にその音楽が、激しくて、アップテンポな曲へと切り替わる。


ジンタは、魔導拡声器を持ったハゲたおじさんに、何やら原稿を渡す。それを見たハゲたおじさんが、軽やかな口調でこう喋り始めた。

「エキィサァ〜イトゥッタ〜イム!! さぁ、お客様。待ちに待ったエキサイトタイムの始まりです。今から10分。今から10分間だけラミアちゃんたちが、お客様の膝の上でスペシャルダンスを披露してくれます! その間はなんと! ラミアちゃんの美乳にタッチOK。お触りOKのスペシャルな時間になります。どのお客様も、この感動の時間を有意義にお過ごし下さい! さぁ。始まりまよ。みなさんもご一緒に! エキサイト! エキサイト!」


「何によこれ……」

ニジナは、始まった地獄絵図にさすがに言葉を失う。いやらしく微笑む客の膝の上に座ったラミアたちは、腰をクネクネくねらせながら、アップテンポの曲に合わせて体を動かす。客はそんなラミアの胸を触りながらニコニコしていた。


怒りに震えるニジナは、ハゲたおじさんの魔導拡声器を奪い取ると、こう叫んだ。


「はい。ここまで! 営業は中止よ、中止! こら、ジンタ! ちょっとこっち来なさい」


客は強制的に帰され、ジンタはニジナに、マジなテンションで怒られた。その後、ニジナによってプロディースされたカルナギの店は、雰囲気の良い、大人のバーとして再出発することになる。

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