第80話 討伐開始

「もう一度言いたまえディレイくん。俺に何を頼みたいって?」


ジンタはなぜか生意気な顔をしてディレイにそう聞き直す。ディレイはピクッと眉間を震わせながらもう一度同じ内容の話をした。

「10のパーティーを作ることになった。その一つのパーティーリーダーをジンタに頼みたい」


「ふふふっ。そうか、そうか。ディレイたちも中々見る目があるじゃないか・・。仕方ない。普段なら断るところだが今回は特別に受けてやろう」


この世界に生を受けてから、人に認められることなど皆無であったジンタにとって、その初めてとも言える経験に彼は露骨に舞い上がっていた。さすがの態度にイラっときていたディレイであったが、ここは大人な態度で穏便にスルーする。


「ちょっとジンタ。そんな大事な役目、受けて大丈夫なの」

ニジナがそんなジンタの姿を見てそう言う。

「ふっ。数々の不可能を可能にしてきたこのジンタ様に、やってできないことなどない!」

「いつ不可能を可能にしたのよ・・・」

呆れた感じでニジナは言葉を返す。


そんな心配なニジナだったが、ジンタパーティーの編成を見て少し安心する。それは自分の名前がそこにあったのと、高レベルの冒険者が二人もいたからである。

「ジュエルとウリエルがいるから戦力的には心配ないね」


ニジナがそう言うと、ジンタも同意するように返事する。

「その戦力に俺の指揮・・もはや勝利しか見えないな」

「どこからその自信が来るのよ」

「心の奥底からだ」

「・・・・あっそう」


ジンタのパーティーは、ジュエル、ウリエルの三次職、二人を主戦力に、二次職が中心の編成になっていた。ジンタではさすがに一次職の面倒は見れないだろうとの判断である。


さらにジンタパーティーの担当は、一番激戦になりそうな沼地の中央から離れた、ポルカ遺跡と呼ばれる場所に決まった。さすがにジンタをリーダーにしたパーティーを、最前線にはしなかったかとニジナは安心する。


その次の日、十分な休息とり、朝食で栄養を摂取した一同は、各、担当の箇所へ散って戦闘を開始した。


「ウリエル! 右の群れを止めといてくれるか」

ジンタの大きな声に、ウリエルは小さな声で答える。

「承知・・・」


ウリエルは普段ほとんど喋らない。寡黙で真面目な印象そのままの性格であまり自己主張しない。そんなジンタとは正反対の性格なのだが意外に二人は相性が良いようで、意思疎通はスムーズであった。


ウリエルは、敵の群れを防ぐためにドラゴンゾンビを召喚する。かなり強力なアンデットモンスターであるが、一体召喚するのに膨大な魔力と、高価な触媒を使用するセレブモンスターであった。しかし、さすがにドラゴンの名は伊達ではない。ドラゴンゾンビは、100体近い敵の群れを完全に堰き止める。


「右はウリエルに任せて、左の敵を片付けていくぞ」

いつも以上に偉そうなジンタの声が響く。


ジンタパーティーの主戦力として期待されているジュエルは、近接、遠距離ともに得意で、万能型とも言える特殊三次職であるアマゾネスである。彼女は多才な弓技でモンスターが近づく前に打撃を与え、接近してきた敵に対してはバトルアックスで攻撃する。


先日、二次職の重戦士になったばかりのリュカーが、ジュエルの死角を守りながらフォローする。普段、この二人はパーティーをよく組んでいるようで、ジンタの指示がなくても良いコンビネーションを見せていた。


ジュエルとリュカーが前線を抑え、それを突破してきた敵をシュラが片付けていく。この三人を前衛として、エルフで魔導職のキュラム、スナイパーのルドビッヒ、ハイレンジャーのキネア、ハイプリーストのニジナ、ユキジョロウのユキ、召喚士のジンタが、魔物の群れに後衛から攻撃を加える。そして吟遊詩人のロックと、ピクシーのミチルが全体のサポートをするという流れで、モンスターの討伐が進んだ。



その日は無難に討伐を終えることができ、ジンタたちは拠点の砦へと帰ってきた。討伐したモンスターの数は500ほどで、予定の半分くらいの進捗である。それでも最低限の基準以上の成果のようで、先に帰っていたディレイやヴァルダから感心されていた。

「ジンタパーティー少し心配だったけど、中々頑張ったじゃないか」

「ふっ・・まあ、初日はこんなもんだろう」

ヴァルダの言葉に、ジンタは偉そうに答える。

「確かに頑張ったとは思うけど、実は全パーティーの中で一番討伐数は少ないからな」

ディレイが生意気な態度のジンタの鼻を折る。

「何! そんな馬鹿なことがあるわけないだろ。俺たちはいっぱい倒したぞ」

「他はもっと倒してんだよ。ルキアとリスティアのパーティーは5,000越えだ」

「うちの10倍じゃないか!」

「まあ、あの二人は別格だけどな」


初日のモンスター討伐総数は2万を超えていて、大幅に予定を上回っていた。だが、この日は大量のモンスター群の端っこを突いただけで、強敵となるモンスターとは戦闘していなかった。強いのは中央に固まっているので、討伐が進み、中央に近づけば近づくほど戦いは苦しくなってくることが予想された。

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