第73話 イベント日
人通りの少ない路地裏、俺は誰にかに付けられてないか警戒しながら進んでいた。今日は大事な日だ。誰にも知られずに目的地に行かなければ・・
路地裏のさらに人気のない小道を入っていくと、地味な小劇場が見えてきた。その劇場の前では二人の男が見張りをしている。俺はその見張りに近づいて話しかけた。
「おい。イベント会場はここか?」
そう聞くと見張りの男の表情が険しくなる。そしてこう聞いてきた。
「誰に聞いてきた・・」
俺は紹介してくれた者の名を口にする。
「ビルゲットだ」
「・・・・・いいだろう。ならば合言葉を言え。夢と言えば?」
「・・・魔!」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ」
そう言って通してくれた。
中に入ると、すでに五十人ほどの人が入場していた。俺は前の方に行くとできるだけいい位置を確保する。
俺が劇場に入って10分くらいで、中の明かりが暗くなる。そして軽快な音楽が流れ始めた。どうやらイベントが始まるようだ。
舞台横から彼女が現れると、客から一斉に声援が送られた。
「ミリアちゃ〜ん!!」
俺も心の底から声を上げる。ミリアちゃんはみんなの声援に笑顔で手を振って答えた。
「今日は私のイベントに来てくれてありがとう。精一杯奉仕するから気持ちよくなってね」
そう言って最高の笑顔を見せてくれた。それから音楽に合わせて歌と踊りを披露してくれる。それほど歌も踊りもうまくはないけど、みんなの気持ちは最高の盛り上がりを見せていた。
ミリアちゃんは5曲ほど歌を歌うと、一度舞台横へと消えていく。いよいよメインのイベントが始まるのだ。そう、握手会である。あの憧れのミリアちゃんが、全裸で握手してくれるという最高の瞬間がやってくるのだ。俺の股間は最高の興奮状態でそれを待ちわびていた。
俺たちは劇場の隅に並ばされた。そして幕で作られた小さな部屋に一人ずつ入っていく。そこでミリアちゃんの生の全裸を拝むことができる。しかもその手に触れることができるのだ。
一人の持ち時間は、事前に手に入れているチケットの数で決まる。これはサード書物の『好きにしてもいいんだよ。』を購入した数だけ貰えるもので、俺は10枚手に入れていた。チケット一枚あたりで5秒の時間を貰える・・俺は50秒の時間を全裸のミリアちゃんと過ごせるのだ・・なんと幸せなことなのだ。早く、順番が来ないかドキドキして待っていた・・のだけど、俺の後ろの奴に嫌な口調で声をかけられる。
「ふっ・・君はそんな少ししかチケットを持ってないのかい。いるんだよね・・にわかな貧乏ファンってやつが」
いきなりそんな失礼なことを言われて、さすがにムッときてしまった。そして不機嫌な感じで言い返す。
「なんだよお前は。10枚で少ないって、お前は何枚持ってるんだよ」
俺がそう聞くと、そのロン毛でメガネをかけている男は、両手一杯のチケットを見せびらかしてきた。
「100枚だ! まあ、もう少し購入したかったんだけどね、さすがに売り切れで買えなかったんだよ。それくらい僕はミリアちゃんを愛しているんだ。僕は思うんだよね、持っているチケットの数がミリアちゃんへの愛の大きさなんじゃないかと。君は僕の十分の一しかその愛がないってことだね。十分の一の男が僕より先に並んでるってどうかと思うよ。恥ずかしいと思うなら順番を代わってくれたまえ」
なななっ・・何言ってんだこいつ・・意味わからん理屈で絡んできやがって・・それにしても100枚はすごいな・・『好きにしてもいいんだよ。』は一冊五万ゴルドするから、百冊だと五百万ゴルドかよ・・こいつ金持ちだな・・
「誰が代わるかよ。変な理屈言ってないで大人しく並んでろよ」
俺は堂々とそう言い放つ。だけどそいつは怯むことなくこう言ってきた。
「ははははっ。いいかい。君はミリアちゃんをどれくらい理解してるんだい。そうさぁ、何もわかっちゃいないんだよ。僕はね、来る日も、来る日も、ミリアちゃんのことを考えて生活しているんだよ。ご飯を食べる時はミリアちゃんの書物を粉にした物をふりかけにして食べ、風呂に入る時は、ミリアちゃんの書物を燃やして湯を沸かし、寝る時は、ミリアちゃんの書物を布団にして寝ているんだ。それくらいの事を君はしているのかい! いや、していないはずだ。だって、僕が一番ミリアちゃんを愛しているんだから」
うわ・・・なんか気持ち悪いぞこいつ・・・
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