第72話 戦争の終わり

「ありがとな、ニジナ」

そう言ってニジナの回復魔法で回復した俺はフラフラと立ち上がった。周りを見渡すと、ジークが何やら膝をついて地面を叩いている。

「どうしたんだジークのやつ・・」

敵を倒して落ち込んでいる彼を見て何気なくそう言うと、ルキアが説明してくれた。

「いや、もっといたぶって倒すつもりだったみたいだけど、彼は手を抜くのが苦手だからな・・思わず一撃で倒しちゃって後悔しているみたいだ」


「なるほど・・あっ、ルキア。しれっと援軍に間に合った感で誤魔化そうとしているけど、今までどこでほっつき歩いてたんだ。みんな心配してたんだぞ」

そう言われたルキアは、笑顔で返事をする。

「まあ、その辺の話は後でゆっくりするよ。それよりジンタ、久しぶりだね。顔つきが良くなったんじゃないか。成長がその表情に見えるよ」

「たく・・」


そんな満面の笑みでそう言われたら、これ以上、小言も言えなくなる。


「おい、ルキア。こいつらどうするんだ。後々面倒にならないように殺しとくか」

ジークが指さしているのは、縛られたニンジャマスターと、倒れたテイマー、そしてそのテイマーを庇っているアルラウネであった。


「僕たちは殺戮ギルドじゃないぞ。もう戦いは終わったんだからこれ以上殺す必要はないよ」

ルキアはまだ後悔でイライラしているジークにそう話す。

「チッ。運のいい奴らだな」


そう言うと、ニンジャマスターの拘束を解き、もうどっかへ行けと素っ気なく言い放つ。ニンジャマスター何も言わずに、風景に溶け込むようにどこかに消えていった。アルラウネもテイマーを抱きかかえて去っていく。去り際に俺と目が合い、少しお辞儀をしてその場を後にした。


「とりあえず僕たちも撤収だ。立てない者に手を貸してやってくれ」

「ちょっと待てくれ、ルキア。あいつらにうちのギルド倉庫のアイテムを根こそぎ奪われてるんだ。それを回収しないと」

「何、そうなのか。じゃあ、ジークとジンタはその回収に行ってくれ。えーと、他のメンバーは・・・あれ、知らない者がいるね」

「ユキとシュラはジンタの召喚モンスターだよ」

「へーそうなんだ。じゃあ、君たちは、仲間を運ぶのを手伝ってくれ。ヴァルダ、立てるか? 君はでかいからできれば自力で歩いて欲しい」

ニジナの回復魔法を受けていたヴァルダは手を上げてそれに応える。


俺とジークは古城の中に入ると奪われたアイテムを探す。特にどこかに隠されていたわけでもないので、それはすぐに見つかった。うちのギルド倉庫にあったものじゃないのも一緒に置かれていたけど、まあ、迷惑料で全て貰い受けることにした。相当な量だったけど、大きく広げたでかい布にすべてを包み込むと、ジークがそれを背負った。少なく見ても数トンほどの量なのだが、彼は軽々とそれを持ち上げる。

「すげえな、ジーク・・」

「感心してないでジンタも持てよな」

俺はジークの広げた布に入らなかったアイテムを、袋に詰めて肩に担ぐ。こうしてアイテムを取り戻した俺たちは寮へと戻っていった。



それから数日の間に、ギルドの寮の修復、仲間全員が退院となり、ギルド組合に事の顛末を報告してこの騒動は終わりとなった。それからみんな元気になったことで、当然のごとく騒動の収束を記念して、勇者酒場での宴会が始まる。


「とりあえずルキアとジークが無事に帰ってきたことと、ギルド崩壊の危機を乗り越えたことを祝して、乾杯!」


ディレイの言葉に、みんな一斉に乾杯と声を上げる。そして勢いよく各々が持った杯を開ける。ギルドメンバー全員参加の宴会なので、いつも以上の大騒ぎとなった。また出入り禁止にならなきゃいいけど・・・


「それでルキア。冒険の話を聞かせてよ」

シュラザードがそう話を切り出した。実際、半年にもなる冒険の話のはずなのだが、ルキアが話したのは思ったような大冒険談ではなかった。

「半年の間、単に道に迷ってただけだって・・・」

「そうなんだ。エギナダンジョンって複雑なのな。入ったのはいいけど、本当に帰れなくなっちゃって、どんどん食料も無くなっていくし・・最後は岩に生えた苔なんかも食べたよな」

そう言ってルキアは一緒にエギナダンジョンへ行ったジークに同意を求める。

「そもそも迷ったのはルキアのせいじゃねえか。何がマッピングは任せとけだよ。後でマップ書いた紙見て気を失いそうになったぞ」


そう言いながらジークはルキアの書いたマップを広げた。そこに書かれているのは文字ばかりで、書いている内容も酷いものだった。オークロードがいた部屋の右に行くとキングヒドラの巣があったとか・・デーモンロードの群れに襲われた部屋を左に行くと、宝箱が三つあった部屋に行けるとか・・・これって・・

「遭遇したモンスター名でフロアー書かれても、そのモンスター倒しちゃってるからな・・・次に違うモンスターが沸いたら訳分からないことになるし・・」


確かにこれはマップと呼べるような品物じゃないな・・迷って当然というか・・どうやらルキアは絶対にマッピングしちゃいけない人間のようだ。


「それでいけると思ったんだけどな・・」


ルキアは一人納得のいかない顔で首を傾げている。その場にいた誰もが、一緒に冒険をする機会があったとしても、ルキアには絶対にマッピングをさせないと心に誓っていた。

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