第43話 キリア洞窟
その後、やはりシュヴァーケルは完全に成仏しちゃったらしく現れることはなかった。ニジナの話だとシュヴァーケルがこの宿に霊を呼び寄せていた原因だったらしく、彼女がいなくなったことによって、宿の霊もどこかへ散っていったようだ。これでこの宿も普通に営業できるだろう。
いい感じに酔って寝ていたディレイやヴァルダなどは、昨夜の騒ぎなど知る由も無いわけで、気持ちのよい朝を迎えているようだ。シュヴァーケルに取り憑かれたシュラザードも記憶が無いようで、目覚めは良好のようである。俺は悶々とした夜を過ごし、少し寝不足なのに・・
朝食を酒場でいただいた後、俺たちはブラックドラゴンのいるキリア洞窟へと出発した。その日の旅は順調で襲撃や戦闘もなく、日が暮れる頃にはキリア洞窟のすぐ近くまでやってきた。
「今日はここでキャンプにして、洞窟に入るのは明日にしよう」
ディレイの判断で洞窟への突入は明日になった。その日はここでキャンプとなり、明日の戦いに備える。
洞窟内は思ったより明るい。それは無数に繁殖した光苔が強い光を放っているからだった。俺たちはヴァルダの案内でブラックドラゴンの住処へと向かっていた。ヴァルダは何度かここに来ており、ブラックドラゴンの討伐経験もあった。なので迷うことなく進んで行く。
だけど、いつも使っているルートの途中で崩落があったようだ。その道を進めないようなので仕方なく遠回りすることになった。だけどこのルート変更が好調な冒険の流れを変える。
俺たちは、遠回りをしている途中に、モンスターポータルが大量にある大きな部屋に迷い込んでしまった。その部屋にはダードグリズリーが大量に沸いていた。それは凶暴な熊のようなモンスターで、レベル30くらいの強敵である。
普段なら死を覚悟するほどの強敵モンスターの群れであるが、今日はパーティーが強い。安心して見ていられる。
ディレイは魔法剣に、さらに切れ味のよくなるエンチャントを付与する。それでダードグリズリーを切り刻んで行く。ヴァルダは大きなハンマーを片手で振り回して、ダードグリズリーの頭を粉砕する。
エミュリタは杖を振りかざし、魔法を唱える。紅蓮の炎が渦を巻き、ダードグリズリーの弱点属性である炎の魔法が吹き荒れる。
氷結耐性があるダードグリズリーには、ユキの攻撃は効果が薄いこともあり、今回は魔力を温存させる為に、ユキは俺とニジナと一緒に後ろで応援に回っていた。シュラは運動がしたいのか、ダードグリズリーに襲いかかってその頭を吹き飛ばしている。ちょっとここで疑問に思ったのだが、レベル30のダードグリズリーを瞬殺するって・・反則級に強いユキの影に隠れて気がつかなかったけど、もしかしてシュラもかなり強いんじゃないだろうか・・
あの幽霊にビビってたシュラザードも、やっぱりマスタークラスの後衛であった。かなりハイレベルな補助魔法をバンバン使って皆をサポートしている。
存在感の薄いウリエルだけど、彼も大量のスケルトンを召喚して、ダードグリズリーのターゲットを絞らせないようにして、サポートしている。まあ、見てると骨が一杯いて、いい気持ちはしないんだけど・・
敵の制圧が完了しそうな時、俺は奥の空間に人影を見つけた。もしかして女の子かもしれないと思い、そっと確認に向かった。
そっと移動したつもりであったが、なぜかユキとニジナが付いてくる。
「ジンタどこ行くんだ。何かあるんか」
ユキがそう聞いてくるので、自分の口に人差し指を当ててこう言う。
「しぃーーー! 静かに、気づかれるだろ」
「何があるのよ。宝箱でも見つけた?」
ニジナも俺の行動に疑問を投げかけるが、静かにするんだと注意して、人影を確認する。
だが、人影だと思っていたのは、ウリエルが召喚したスケルトンの一体が逸れてウロウロしているだけであった。
「何だ骨か・・・」
女の子じゃなかったのでがっかりして戻ろうとしたその時、周りが強い光に包まれた。足に違和感があったので見ると、何かのパネルを踏んでいる。
「馬鹿! 何、トラップパネル踏んでるのよ!」
「何それ?」
俺が間抜けにそう言った瞬間、周りの景色が一変する。気がつくと、洞窟ではなくどこかの部屋に立っていた。
「ここはどこだ?」
「これはワープのトラップ・・ジンタの馬鹿! どうすんのよ! みんなと逸れちゃったじゃないのよ」
「・・・・・まあ、どうにかなるだろう」
「何言ってんのよ! ここはブラックドラゴンの住処なのよ。私たちだけでそんなのに遭遇したら瞬殺よ! 瞬殺!」
「仕方ねえだろ。ワープしちゃったもんは・・・」
どうやら俺とニジナとユキは、みんなと逸れてしまったようである。場違いな場所に俺たちだけになり、本当は心底不安であった。早急にみんなを探さないと・・
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