第26話 食べ放題の美学

冒険者百貨店の最上階は多くの飲食店が営業していた。買い物で疲れた客がターゲットで、昼時にでもなるとかなりの賑わいを見せている。


「どの店にしようか」

「財布に任せるぞ」

「そこの東洋料理の店はどうかな」

「・・すげー高そうだぞ。大丈夫か?」

「だけど美味しそうじゃない?」

「先に言っておくぞ。ユキは見た目以上に食うぞ。シュラは見た目くらいは食うし。俺は奢りなら吐くまで食う!」

「・・・・やめとこか・・破産しそう」

「賢明な判断だ」


しばらく飲食街を見て回っていると、ニジナの財布に優しい良い店を見つけた。


「この店、食べ放題だって」

「うむ・・あれだな、自分の好きな食べ物を好きなだけ取ってきて食べるスタイルのやつだな。そういえば前にそんな店があるってロンドベンが言っていたな」


「メニューも色々あるみたいだからここにしようか」

「そうだな。それが無難だろう」


店内に入ると四人席へと案内された。食べ物や飲み物はズラリと陳列されていて、そこから好きな物を好きなだけ取ってくるシステムである。


俺たちは第一陣の食べ物を取りに陳列された料理へと向かう。俺は料理を端から皿に少しずつ盛って行った。一通り食べてお気に入りを探す為である。シュラは目についた物を大量に皿に盛っている。バカな奴だ。あれではすぐにお腹いっぱいになって、色々食べれないだろうに。


ユキはいきなりカキ氷を山盛りに取ってきている。いきなりデザートとは何を考えているのだ・・


ニジナは見た目と栄養バランスを考えてるのか、皿に綺麗に盛り付けして持ってきた。食べ放題を舐めているようだ、見た目など気にしていては元は取れないと思うぞ。


食べ物だけではなく、ドリンクの選択も重要になってくる。お得感を感じて果実ジュースを選ぶ者はその時点で敗北していると言っていいだろう。美味しい果実など飲み始めたら、必要以上にそれを飲んでしまい、想像以上に満腹感が早くやってくることになるのだ。俺はそんな愚は犯さない。やはりスタンダードにここは熱いお茶を選択するべきだと思う。


それなのにユキはキンキンに冷えた果実ジュースを持ってきた。シュラはエールを、ニジナはミルクを選んだようだ。どいつもこいつもダメダメだな。


みんな一通り食べ物を取ってきて楽しい食事が始まる。俺は取ってきた食事を食べて、なぜか誇らしくそれを誉め始めた。


「この芋の甘辛煮は絶品だぞ。ニジナ、後で食べてみろよ」

そう進めてやったのに、ニジナの返答はこうである。

「辛いの嫌い」

単調であるが説得力のある一言が、俺がせっかく勧めているのに何て的確な返しをするんだと半分言いがかりのような感情を芽生えさす。

「甘いも入ってるだろうが、甘いも!」

「辛いが入ってるのが嫌なの!」

「いいから、ひと口だけでも食べてみろよ」

「嫌だ。辛いの食べると口が痛くなる」

「そんな辛くないって」

「しつこいよジンタ。この店は自分の好きな物を好きなだけ食べれるのがいいとこでしょ。少しでも嫌なものは食べたくないの」

俺は見事にニジナに論破された。その通りである。ここは完全に俺の負けを認めるべきなのだが、俺は変に意地を張ってしまった。

「ぐっ・・・・いいだろう。お前の分も俺はこの芋の甘辛煮を食ってやろうじゃないか!」

そう言って皿にある物を平らげると、二回目の食事を取りに行った。そう、芋の甘辛煮を皿に山盛りに取ってくるとそれを食べ始めた。

「すげー美味えぞ。どうしてこれを食べないのか意味不明だ」


そう言いながらひたすら芋を食いまくり・・俺は満腹で吐きそうになるまで芋を食べ続けた。


今の俺の頭の中には、後悔という言葉しか浮かんでこない。なぜ、あの美味そうな肉を食べなかったのだ・・あの豪華な魚を食さなかったのだ・・バカなのか・・


ニジナは最後までバランスよく食べたようで、その笑顔が満足度を表している。ユキは、この店にあるカキ氷を全滅させてしまった。仕方ないのでその後は、冷たく冷やされた果実や冷製スープを食べていたが、最後はそれも全滅させていた。ユキは確実に元を取っているだろう。シュラはその豪快な食べっぷりが最後まで続き、すべての料理を5人前ずつくらい食べたようだ。エールもかなりの量を飲んだみたいで少し酔ってる。


うむ・・結論から言うと、元を取れてないのは俺だけのようだ。そりゃ芋と熱いお茶で元を取るのは無理だろう・・今度来るときはちゃんと食べようと心に誓った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る