第22話 失踪事件

森の奥深く、キクネはポーションの材料となる薬草を採取していた。彼女は自分だけの知っている穴場の採取場所で、貴重な薬草を大量にカゴに入れていた。


いつもより多くの薬草が見つかったことに気を良くしていた彼女は、背後から近づく者の気配に気がつくことがなかった。それは邪悪で凶々しい気配であった。赤く光る、今日一番の良品の薬草に手をつけた時、キクネの視界は閉ざされる。唐突に彼女は自由を奪われ、意識を失った。



クエストは、ルーディアの近くに有るティカーの森で起こっている、連続失踪事件の調査であった。ジンタたちは、クエストの情報にある、失踪現場の一つへと訪れていた。


「キネア、どうだ。何か痕跡はあるか?」

キネアは何かブツブツ言いながらその辺りをサーチしている。レンジャーの固有スキルであるサーチは、自然の痕跡とは違う何か違和感のようなものを見つけることができるスキルで、何か異変があれば必ずそれを察知できる。

「ここで襲われてる見たい・・・」


「死んでんのか!」

「それはわからないけど・・何か獣か何かの気配がする・・・しかし、襲撃を隠蔽してる形跡もあるし・・獣やモンスターなら襲った形跡を隠す必要などないと思うけど・・」


俺たちはその場所から痕跡を追うことにした。キネアのサーチとルーカスのエクスプローを駆使して探索していく。


痕跡を追ってしばらく進むと、小さな洞窟にたどり着いた。中の気配を探ったルーカスが様子を話す。

「複数の気配を感じる・・10人くらいか・・」


失踪事件の被害者の数と一致する。犯人が一緒にいる可能性もあるので、洞窟を慎重に進んでいく。洞窟は20メートルくらいで行き止まりとなり、そこには扉があった。扉には鍵がかかっていたので、ルーカスがそれを細い器具を使って開ける。


戦闘になってもいいように、俺たちは戦いの準備をして中に飛び込んだ。扉の向こうでは、10人くらいの女性が寛いでいた。しかもなぜか全員裸で・・・


ルーカスと俺がその状況を見てると、ニジナが怒りの表情で俺の目を隠す。

「何いやらしい目で見てるのよ」

ふっ・・残念だが人間の女の裸などに興味は無い。なのでいやらしい目などで見てはいない。俺はニジナに目を隠されたくらいだが、ルーカスはなぜかキネアに強烈なボディーブローを食らっている。


ユキは女性たちの裸と、自分の体を見比べて、何か思うことがあるのかため息をついていた。


とりあえずニジナが女性たちに話しかける。

「あなたたち、ティカーの森で行方不明になってる人たちだよね」

「はい・・そうです」

「私たちはクエストであなたたちの捜索を請け負った冒険者よ。何がどうなってるか説明してくれない」


「私たち、モンスターに連れ去られたんです・・そしてここに閉じ込められて・・」

「モンスターに何をされたの! 痛いことされた」

「いえ・・痛いというより・・気持ちが良いことを・・」

「え?」


女性たちに聞き取りをしてると、それは突然に現れた。それは女の獣人だった。金色の長い髪に、ネコ科の耳。腕と足の一部が獣の毛で覆われている。乳房と局部は小さな布で隠しているので、多少の知性があるようだ。顔立ちは凛々しく美しい・・そんな野性味あふれるモンスターの姿に、俺の心はガシリと掴まれた。


「なんだ貴様ら! どうして私の巣にいる・・」

人語を解するので、かなりの知性があるようだ。まあ、俺は気にしないでその獣人に飛びついて抱きつこうとした。だが、獣人は素早く避けて、その鋭い爪で俺の肩を深く抉る。


無茶苦茶痛い・・・だけど俺はめげないで、さらに抱きつこうとする。それも獣人は避けると、今度は拳でボコボコに殴ってきた。

「ジンタ!」

そう叫ぶと、ルーカスが短刀で獣人を攻撃しようとする。だけど短刀は弾き返されて、左手で首をその獣人に掴まれる。獣人は軽々とルーカスを持ち上げてそのまま壁に投げつけた。


キネアはスリングショットという武器を使う。それはゴムの力で鉄球を弾き出す武器で、中距離戦で効果を発揮する。すぐに狙いを定めて獣人に鉄球を弾き出した。レンガの壁を撃ち抜く威力のその鉄球を、獣人は片手で受け止めた。そしてキネアとの間合いを一瞬で詰めると・・・なぜか・・・胸を揉んだ。

「きゃーーっ!」


キネアもそんな行動を予想してなかったのか、小さく叫ぶと、胸を押さえてしゃがみこむ。


獣人はそれ以上、キネアに攻撃をせずに、なぜかルーカスのところに来て、彼をボコボコに殴り始めた。その間、ニジナが俺に回復魔法をかけてくれる。その光景を見て、ユキがボソッと一言。

「ジンタ。肩グチャグチャ・・・」

「言わんでいい!」

そんなこと言われると、マジで痛くなる。

「そよりジンタ。あれ、攻撃する?」

獣人を見てユキがそう聞いてくる。攻撃・・あの美しい彼女をか? いや・・それはダメだろ・・でもこのままだとエロいこともできないしな・・そうだ。氷結魔法で動きを止めてもらおう。


「ユキ! あの獣人の動きを止めるんだ」

そう命令すると、ユキは簡潔に返事をする。

「任せろ、ジンタ」

そう言ってユキは手を振ると、彼女の足元から地面が凍結していき、それは獣人の足元まで伸びていく。そして獣人の足にそれが到達すると、足が見る見るうちに凍りついた。よし、今だ! 俺は跳躍すると、動きが取れなくなった獣人に抱きついた。

「ぐっ! 触るな!」

獣人はそう叫ぶと、力ずくで足の氷結を砕く。そして俺を投げ飛ばすと、外へと飛び出していった。




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