第17話 ダンジョンキャンプ

頭では、先ほど現れた猫獣人のモンスターを思いながら俺は先に進んでいた。イーブルダンジョンの三階層は広い。地図を見て四階層の階段を確認するが、距離はまだありそうである。


時間的にそろそろキャンプのことを考えないといけなくなってきた。近くにセーフティーゾーンがないか地図で確認する。少し遠回りになるが、水場もある場所があるようなのでそこを目指して歩く事にした。


しかし、その途中遭遇してはいけない敵と出会ってしまう。それは火炎特化のモンスターで、フレイムブリットと呼ばれるエレメント系のモンスターであった。フレイムブリッドは、俺たちを見つけると、よりによってユキに炎の塊を投げつけた。熱いものが苦手のユキにそんなものが当たったら大変である。俺はとっさに体を体を入れ替えてユキを炎の塊から守る。脇腹に信じられないほどの激痛が走る。さらに続けて同じ場所を狙ってきたのか、強力な痛みがもう一度走る。


こんなのもう一発食らったら死んでしまう・・そう思ったが、三発目の攻撃はいつまでたってもこなかった。振り返り見ると、炎の塊であるフレイムブリットが、信じられないことに氷漬けになっていた。炎を凍らす冷気ってどれだけだよ・・・そんな事を考えながら俺は意識を失っていく・・


気がつくと、ユキが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。なぜか俺は上半身裸の状態であった。脱がされた服を見ると、脇腹に大きな穴が空いている。


あれほどのダメージを受けたのに、今は脇腹の痛みも少し良くなっていて、回復しているようだ。横を見るとニジナがくれた回復ポーションの瓶が空になって転がっている。どうやらユキが回復ポーションを使って治療してくれたようだった。

「助かったよ、ユキ。褒めてやるぞ」

頭を撫でながらそう言うと、ユキは少し照れたように横を向く。


俺たちはそのままセーフティーゾーンに入り、そこでキャンプをすることにした。セーフティーゾーンはモンスターが湧くモンスターポータルが近くになく、特定のモンスターの生息地にもなっていない安全地帯である。絶対に襲われない保証は無いが、比較的安全に野営をすることができる場所であった。


セーフティーゾーンには小川が流れており、ここで水の補給ができる。俺は野営の為に持ってきた鍋に水を入れて火を起こす。そこに乾燥野菜と、干し肉を入れてよく煮る。最後に豆を発酵させた調味料を入れると夜食の完成である。出来立ては熱いのでユキは食べれない。彼女は器によそって冷めるのを待っていた。


冷める間にとパンをユキに渡す。彼女はそれを少しずつちぎって食べる。俺は熱いうちに食べたいのでハフハフ言いながらそれを食した。


食事が終わると、そのまま睡眠をとって休むことにした。本来なら順番に見張りをするものだが、ソロプレイ用に、とある魔導士が開発したマジックアイテム、『オマワリくん』を持ってきているので、それを設置して二人で寝ることにした。


オマワリくんは周りに何かしらの動きがあれば、大きな音を出して知らせてくれる便利アイテムである。五万ゴルドもする高価なものだけど、ソロプレイ用に購入していたものである。


今でこそギルドに入って仲間に困らないが、昔は友達もいなく、そのほとんどの冒険をソロで行動していたので、必須アイテムだったのだ。


何事もなく8時間ほどの睡眠を取り、俺は目を覚ました。寝ぼけたのか、気がつくとユキが俺の毛布に入ってきている。ペシペシと軽く頬を叩いてそんなユキを起こすと、俺は朝食の準備をし始めた。


朝食のメニューは、パンと目玉焼き、それと厚切りのハムを一枚である。俺がパンの上に目玉焼きを乗せて食べているのを見て、ユキが真似するが、つるりと滑らせてしまい、目玉焼きを落としてしまった。泣きそうな顔で落ちた目玉焼きを見つめているので、仕方なくもう一個目玉焼きを焼いてやった。


食事を終えると、炭豆茶を淹れてそれをゆっくり飲んでいた。ユキも欲しがるので淹れてやったのだが、一口飲んで渋い顔をすると、そのまま残した。やはり子供なのか苦いのは苦手のようだ。


ゆっくり休むことができたので、そろそろ出発する。荷物を片付けると、バックパックを背負って歩き始めた。ユキは、そんな歩く俺のバックパックの紐をなぜか握ってきた。まあ、逸れないでいいかもしれないと、俺はそのまま歩くことにした。



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