112、健全系スポンサー(一辛)

 話し合いの結果は簡単だ。クヌートはちょっとした嘘、いや、偽物の情報を織り交ぜてリノを引っ掛けた。しかし、それは些細な欺瞞でしかなく結論から言えばリノの寛大な心で許された。


 とは言っても、多少の負い目になるところで、次はない、だろう。


 若干の不和ではあるが、そのあたりは、クヌートの口八丁手八丁……ではなく、真摯な態度に期待しよう。ともあれ、早々大きな欺瞞がなかったことから俺は一応許されたらしい。ただ、論調を確認してみると、役に立つから受け入れられた、という感じがしてドライな感じがする。


 といっても、半分以上は自分の望んだ形であるから文句を言いたいわけではない。もっとしっかりしなければ、と想いを新たにしただけだ。



 さて、問題は。


「では、君たちの内部の問題が終わったところで、こちらから出題をさせてもらおう。フツさん。フツ・カミゾノさん。ギルドを追われ、ここにたどり着いて、子供たちのためにと頑張る、とそんなあなたの価値をもう一度、はからせていただきます」


 この商人である。



「腹を探り合うのも楽しいですが、今回は、そこは飛ばしましょう。実際のところ、私は、あなたが、別の街のギルド職員だったこと、そのギルドで何が起きたかも知っていました。知っていて、あなたの提案に乗っかったわけです」


 気付いていたでしょうが、と言われる。

 確かに、そうだとは思っていた。確証という形であったわけではないが、少なくともダンジョン運営能力がなければ、あの提案に乗らないだろうし、あの提案に乗ったということは、そのことについて確信か何かはあったのだろうということは推測できていた。


「あなたの提案に乗ったのは、そのような背景があなたの能力をある程度保証していたからですが、もう一つ、あなたはそのことを口にせずに交渉に臨みました」


 商人は言う。それは、不義理を攻めるような言葉とも受け取れるが、しかし、


「ある程度慎重に、言葉を選択し、『バレているであろう事実分』も含め、自分の口からは明言しなかった。だからこそ、その事実を隠せる、あるいは、隠そうとするだろう、という推測をして、提案に乗ったわけですが……」


 隠そうとしたこと、というのは、自分がどこぞの人間に恨まれていて、その原因は――原因の更に原因とも言うべきかもしれないが――自分にあるということだ。

 話さなかったことは誠意のない態度にも取れるが、隠しきれるならそれでもいいという判断もあったのだろう。だが、結局それは、


「今日、少なくとも、公衆の面前で、あなたは何らかの勢力に攻撃されていると知られたわけです。――まぁ、あなた方、というふうに見られたかもしれませんがそれはともかく」


 言いたいことはわかりますか?

 と、そう問われたので、こちらとしては頷くしか無い。


「なくしたものが大きい」

「さて、じゃあ、それを口に出してみますか?」


「安全と客足、でいいですか?」

「ふむ、一番大事なものが欠けています。手を打ちやすいその二つとは違い、対処し難いもう一つの要素です」


 わかりますかと口で問いながら、こちらが答える隙も与えずに彼は言う。


「取り戻すのが困難で、しかし、私が取り戻すことを望むもの――それは信頼です」



 まとめるとこうなると、そういうものが彼から出てくる。


「私としてはこれからも援助、もしくは、そうですね。腹を探るのをやめると言ったので、言いますと、援助という形でのあなた方への発言権と優先権の保持をしたい。あなた方も、少なくとも今の時点では、援助が必要でしょうが、こちらは天秤の釣り合いが取れなければ援助を続けられない……だから、信頼かそれに釣り合うものを天秤に乗せていただきたい」


――出てきた。

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