泣き虫の一歩ー6
『珍しい女性同士で決勝を争う形となった今回。しかし、どちらが勝ってもちっともおかしくない、白熱の試合は必至!みんな決定的瞬間を見逃すなよ!泣いても笑ってもこれが最後!第九回四ヵ国学園対抗体育祭、デジタルフロンティアトーナメント決勝戦!3、2、1…Ready、Fight!』
試合が開始されると私とクラウディアさんはほぼ同時に動き出した。
お互い一直線に走り出して中央で剣同士が衝突する。
しばらく押し合いになったけど、クラウディアさんがふと一瞬力を抜いたので何か仕掛けてくると思い距離を取る。
クラウディアさんの武器は細剣だ。素早い攻撃に注意する必要がある。
「あなたは充分に強い。出し惜しみなんかしないわ」
すると一気に距離を詰められ、突きの連撃に攻め込まれる。
どれも速いうえに威力も強い。細剣から生まれる風圧の音がそれを物語っている。
剣で防ぎつつも攻撃を避けていくが、あっという間に壁際まで追いやられてしまう。
「"千散突華"!」
後ろに細剣を引き少し溜めると今までよりも数段速い突きの連撃が襲い掛かってくる。
目で追いきれない!避けることも出来ずに受け身を取る形で食らってしまう。
衝撃で壁に撃ちつけられるが、痛みで怯んでる暇はない。
技が終わるタイミングで反撃に転じる。
それは向こうも予想していたようで、私の攻撃は全て防いできた。
力強い一撃で跳ね除けられ、再び私達に間合いが生まれる。
連撃を受けてしまったばかりに私はもう息が上がっているのに、クラウディアさんは息を全く乱していない。
やっぱりクラウディアさんは強い。
「同じ女性で私と張り合える人はあまり居ません。あなたと試合が出来て嬉しいです」
「それは光栄ですね」
「駆け引きを楽しみたい気持ちもありますがこれは勝負です。決着をつけましょうか」
クラウディアさんはもう終わらせるつもりだ。未だに対抗策が思いつかない。
「行きます!」
今まで突き攻撃のみだったのに、ここにきて斬り攻撃を組み合わせてきた。
それでも速くて正確な攻撃に変わりはない。剣の扱いの技術が格違いだ。
だけど、このまま負けるわけにはいかない!
攻撃パターンを読み細剣を弾いて連撃を止める。その隙に走り出して壁を駆け上がる。
「はああああああ!!」
クラウディアさんに距離を取って避けられてしまう前に飛び降り、剣を振り下ろし重みを乗せ渾身の力を籠める。
私の動きを見ていたクラウディアさんは細剣で私の剣を受け止めた。
だけど私の攻撃の威力のほうが勝り、クラウディアさんはとうとう態勢を崩した。
――ここしかない!
力任せに振り下ろした剣は地に刺さる。
私は地に足を着けることなく剣を軸にして身体を少し浮かして蹴りを放つ。
夢中でかました蹴りはクラウディアさんの二の腕に当たり、後退りさせる。
流れを途切れさせないように、着地する勢いで剣を抜き追撃をかける。
痛みで表情が険しくなったクラウディアさんだけど、私の追撃は全て細剣で防いでいた。
防がれたもののこれでライフポイントは大分削れた。
「本当に、よく剣技と体術が柔軟に繰り出せますね。あなたのような型破りな剣士と戦うのは初めてです」
「私はこの戦い方しか知らないので」
過去の記憶を失おうとも私の身体には沁み付いている。
私を今まで守り支えてくれた技術。
使い方を間違えれば残虐なものになってしまうけれど、心の弱い私を何度も立ち上がらせてくれたのもこの力だ。
『身軽に動けて羨ましい。俺も千沙のように強くなりたい』
試合は負けてしまったのに観戦していた男の子は私の戦いを称賛してくれた。
誰かに自分の戦いを褒めてもらうなんてそれが初めてだった。とても嬉しかったな。
その時の感情や声がぼんやりと思い出せるのに、どうしても男の子の顔や名前が出てこない。
あの子は…私の初めての――。
「試合中に考え事は感心しませんね」
「あっ!」
隙を見逃されず、剣を弾かれ手放してしまい、さらに追撃を受ける。
食らってしまったものは仕方がない。
私のライフポイントは多く残っていない、避けるよりも反撃をしよう。
強引に回し蹴りを放つとそのまま拳で攻め込んでいく。
間合いが近いなら体術のほうが速く相手に届く。
防御に転じると予想していたのかクラウディアさんは少し驚きを見せたが、すぐに私の攻撃に対応し始める。
だけど、私の思惑通りの位置にクラウディアさんを誘導できている。
私が手放してしまった剣が手に届く場所まで追い詰めた。
力を込めた一撃を顔面目がけて撃ち込む。
直撃はせずに細剣で防がれたけれど目的は果たすには充分なほど怯ますことが出来た。
すぐさま剣を手に取り全力で斬りつける!絶対に勝つ!
「たあああああ!!」
私の斬撃はクラウディアさんのライフポイントを確かに削り取ったが、クラウディアさんは構わずに反撃してきていた。
攻撃に集中しきっていた私はクラウディアさんの突き攻撃を避けきれず、細剣は私の腕を掠めた。
前半多くライフポイントを残していたクラウディアさんに対し、後半私のライフポイントは僅かだった。
今の一撃で仕留められてしまったかもしれない。
私は倒れ込み、クラウディアさんも座り込んでしまい動けない。試合は終結しただろう。
ライフポイントのゲージを見詰めているのか観客も実況も静まり返っている。
そして静寂を切り裂くように実況が結果を告げる。
『…っ!き、決まったああああ!!白熱した試合を制したのはアルフィード学園だあああああ!!強者達を制し快挙を成し遂げた、優勝はアルフィード学園1年生の天沢千沙に決まったぞおおおおっ!!』
実況の声と共に身体から痛みや重みがスーッと消えていく。
本当に私の勝ちでいいのだろうか。戦略なんて何一つ立てられていない。
どの試合もとにかく必死だった。
負けたくない、負けられないという気持ちだけで戦ってきたように思う。
周囲の熱狂をどこか遠くに聞きながら、今までの試合が蘇って来る。
優勝、したんだ。でもこれは私一人の力じゃない。だからアルフィード皆の優勝だ。多くの人に感謝しなくちゃ。
そして、もっと強くなりたい。私も誰かの支えになれる、そんな強さが欲しい。
「大丈夫?まだ痛みますか?」
私がいつまでも倒れ込んでいるのを心配してくれたのだろう、クラウディアさんが私の顔を覘き込んできた。
「いえ、大丈夫です」
「でも泣いているわ」
「え…?」
私は自分が泣いていることを指摘されて気が付いた。
今はどうして泣いているのだろう。
優勝した達成感だろうか。それとも自分の未熟さが情けないから?
どちらも違う気がする。これはきっと……
「みんなの優しさが嬉しくて、涙が出ているんだと思います」
私をここまで導いてくれた多くの人の優しさや応援が本当に嬉しかったんだ。
一人じゃないって…こんなにも安心できる。
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