最終話 ヴァルキュリア達の決意
カイリとアマリアは、全てを語り終えた。
だが、真実のほとんどを知らなかったアマリアは、絶句していたが。
当然であろう。
カイリの事を何一つわかっていなかったのだ。
そんな自分が、許せなかった。
どうしても。
「そんな事が、あったとはな……」
二年間、カイリと行動を共にしていたヴィオレットは、うつむく。
あまりにも、過酷で、残酷な過去だ。
自分よりも。
そう思うと、心が痛むのだろう。
「言い訳をするつもりはない。私は、狂っていた。皆を巻き込んでしまったのだ。許されることではないだろう」
カイリは、知っている。
たとえ、騙されていたとしても、許されることではない。
盲目的に、信じていた自分が悪いと自覚しているのだ。
そして、全てを知った時、どんな手段を使っても、帝国を滅ぼすと決意してしまい、ヴィオレットを巻き込んでしまった。
カイリは、その事を悔いているのだ。
「すまなかった」
カイリは、頭を深く下げて謝罪した。
たとえ、許されることではないとわかっていても。
「クロス……クロウ……」
ルチアは、クロスとクロウの方へと視線を向ける。
それも、不安に駆られながら。
真実を知っても、二人は、カイリの事を許せないのだろうか。
わかり合う事ができないのだろうか。
ルチアは、それを心配しているのだろう。
ルチアだけではない。
ヴィオレットも、アマリアも、ヴィクトル達も、カレン達も、静かに、見守っていた。
「あんたの過去は、良くわかった。でも、許す事は……」
「……」
クロウは、静かに語り始めた。
やはり、まだ、受け入れられないらしい。
わかってはいたが、カイリは、言葉を失った。
もう、あの頃には、戻れないのだと、思い知らされて。
「確かに、ひどい話だと思う。でも、今は、まだ、俺も、クロウも許せないと思うんだ」
クロスも、語り始める。
カイリが、騙されていた事を知り、衝撃を受けていた。
と言っても、罪が消えるわけではない。
まだ、彼らは、受け入れられず、許すことができないのだ。
「今は」。
「だが、いつかは、許せる日が来ると思う」
「え?」
クロウが、さらに、話を続ける。
しかも、カイリにとっては、意外な言葉を口にしたのだ。
カイリは、驚き、あっけにとられている。
クロウは、今、許せる日が来ると話していた。
予想外だ。
まさか、クロウがそんな言葉を口にするとは、思いもよらなかったのであろう。
「俺達も、いつになるかは、わからない。時間が欲しいんだ」
クロスも、話を続ける。
二人は、カイリの事を受け入れ、許そうとしているのだ。
だが、それには、時間がかかる。
今すぐにとはできない。
だからこそ、クロスは、懇願したのだろう。
時間が欲しいと。
「……ありがとう」
カイリは、涙を流した。
感謝しているのだ。
こんな自分を受け入れてくれようとしているのだから。
アマリアも、涙を流した。
本当に良かったと思っているのだろう。
ルチア達も、微笑んだ。
早く、彼らが、わかり合える日が来る時を願って。
全てを語り終えたルチア達。
クロス達は、船から降りていく。
だが、ルチアとヴィクトルは、彼らを見守るように、立っていた。
「うまくいって、良かったな」
「うん。本当に良かった」
ルチアも、ヴィクトルも、安堵している。
ヴィクトルに相談したのは、ルチアだ。
どうしても、カレン達は、ヴィオレットの事を許せず、クロスとクロウも、カイリの事を許せていない。
その事を心配して、相談したのだ。
そして、ヴィクトルが、提案した。
何があったのかを知らなければ先には進めないと。
ルチアは、ヴィクトルの提案を受け入れたのだ。
ヴィクトルは、カレン達を説得し、ルーニ島へと連れてきた。
はじめは、どうなるかと、不安に駆られたルチアであったが、カレン達もヴィオレットを受け入れ、クロスとクロウは、カイリの事を受け入れようとしている。
少しずつではあるが、変わり始めてきているのだ、確実に。
「ありがとう、ヴィクトルさん」
「俺様は、何もしてないさ」
「これから、うまくやっていけるかな?」
「当然だ。皆、過去を受け入れたはずだからな」
「うん」
ルチアとヴィクトルは、微笑んでいた。
穏やかな日々が続くことを。
誰もが、過去を受け入れ、前に進み、いつの日か、昔のように笑い合える時が来る時を願って。
時間が経ち、夜になる。
あたりは、すっかり暗い。
ヴィクトル達とカレン達は、ルクメア村に泊まることにした。
フォウが、招待してくれたのだ。
島の民の誰もが、出迎えてくれた。
彼らの事を。
ヴァルキュリアと騎士がこの島に来てくれたのが、うれしかったのか、いつしか、宴が始まった。
ルチア達も、参加し、楽しんだのだ。
誰もが、笑みを浮かべていた。
ヴィオレットも、カイリも。
彼らの表情を目にしたルチアは、微笑んでいた。
本当に、良かったと、思いながら。
宴が終わり、ルチアとヴィオレットは、外で星を眺めていた。
「綺麗な星空だな」
「うん」
満天の星空だ。
ヴィオレットは、久々に見た気がする。
こうして、星々を眺められる日が来るとは、思っていなかったのだろう。
「ルチア、ありがとう」
「何もしてないよ。私は、ヴィクトルさんに、相談しただけ。どうしたら、皆、前に進めるかなって」
「それで、私達は、前に進めたんだ。ルチアが、きっかけをくれた。本当に、ありがとう」
ヴィオレットは、ルチアに感謝しているのだ。
ルチアのおかげで、前に進めたのだから。
ルチアは、何もしていないと語った。
本当にだ。
カレン達を説得してくれたのは、ヴィクトル達だったのだから。
それでも、きっかけをくれたのは、ルチアだ。
だからこそ、ヴィオレットは、ルチアに感謝していた。
「これで、前みたいに戻れるんだよね?」
「そうだな」
ルチアは、ヴィオレットに問いかける。
不安に駆られているのではない。
確認しているかのように、聞いていた。
もちろん、ヴィオレットも、わかっているからこそ、うなずいたのだ。
確信を得ているのだろう。
前のように戻る日が来るのだと。
ルチアは、微笑んでいた。
うれしくてたまらないのだろう。
だが、その時だ。
地面が、大きく揺れたのは。
「きゃ!?何!?」
「なんだ!?」
ルチアが、バランスを崩し、ヴィオレットが支える。
だが、揺れは続くばかりだ。
一体、何があったのだろうか。
不安に駆られる二人。
すると、夜空で信じられない光景が、二人の目に映った。
「え?」
「なぜ……」
ルチアも、ヴィオレットも、目を見開き、体を震わせる。
当然であった。
一か月前に消滅した帝国が、空に浮かんでいたのだから。
「帝国が、復活した?」
「なぜだ?」
クロスも、信じられないようだ。
声を震わせて、呟く。
クロウも、幻を見ているのではないかと、疑っていた。
「あり得ない。あり得るはずがない」
「一体、何が……」
カイリは、首を横に振った。
あり得るはずがないのだ。
帝国が復活するなど。
アマリアも、見当がつかなかった。
何があったのか。
カレン達も、ヴィクトル達も、信じられずに、困惑していた。
その時であった。
全員の目の前に、ダリアが姿を現したのは。
「っ!!」
「ダリア!?」
ルチアは、ダリアを目にして、絶句する。
だが、ヴィオレットは、怒りを露わにして、ダリアをにらんでいた。
元凶である彼女を目にして、憤りを感じているのだろう。
「久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「魔法で、幻影を生み出しているのか……」
ダリアは、笑みを浮かべて、語りかける。
平然とした様子で。
ダリアをじっと見るヴィオレット。
彼女は、今、目の前にいるダリアが、幻だと見抜いたようだ。
「なぜ、私が生きているのって顔しているようね」
「……」
ダリアの言う通りであった。
幻をみせられているという事は、ダリアは、生きているのだ。
心情を見抜かれ、ルチアも、ヴィオレットも、何も言えなかった。
「確かに、私は、死んだわ。でも、もう一度、復活したのよ?魔神の力によって」
「何?」
衝撃的であった。
なんと、ダリアは、一度死んだという。
カイリの手によって。
だが、魔神の力で復活したというのだ。
ヴィオレットは、信じられなかった。
魔神は、帝国と共に消滅したはずだ。
ルチアが、手にしていた聖剣によって。
まさか、魔神までもが、復活してしまったというのだろうか。
ヴィオレットは、それすらも、考えたくなかった。
「でも、残念な事に、魔神は、まだ、復活していないわ。力を送る事はできるみたいだけど」
「バカな!!魔神は、消滅したはずだ!!」
ダリア曰く、魔神は、復活していないというのだ。
封印されたままなのだろう。
それでも、力を送る事はできるらしい。
ヴィオレットは、声を荒げた。
信じられないのだ。
魔神は、確かに、消滅した。
ゆえに、あり得なかった。
「魔神はまだ、消滅していないわ。だから、私は復活したのよ」
ダリアは、ヴィオレットの疑問に答える。
なんと、まだ、消滅していなかったというのだ。
魔神が、消滅していなかったからこそ、ダリアは、復活したという。
ヴィオレットは、絶句した。
何もかもが、信じられずに。
ルチアも、その一人であった。
「ヴァルキュリアの魂を利用するのは、やめたわ。でも、魔神は復活させる。その時まで、待っていなさい」
ダリアは、宣言した。
ヴァルキュリアの魂を使わずに、魔神を復活させると。
ルチア達の魂が、元の体に戻ったからであろう。
アライアも、いない状態では、作られた体に封じ込めるのは、不可能なのだ。
だからこそ、ダリアは、別の方法で魔神を復活させると宣言し、消滅した。
ルチア達にとって、最悪の展開となってしまった。
「そんな、どうして……」
「ダリア……」
アマリアは、愕然とする。
ようやく、全てが終わり、ルチア達は、穏やかな暮らしができると信じていた直後だったのだ。
カイリは、拳を握りしめていた。
また、騙された気分になったのだろう。
許せるはずがなかった。
「あれは、幻なんかじゃない」
「ああ、本物の帝国だ」
クロスも、クロウも、確信を得たようだ。
今、目の前に浮かんでいる国は、帝国だ。
自分達と敵対していたあの帝国なのだ。
そして、帝国を統治していた女帝・ダリアも、生きていると。
「どうすれば……」
「そんなの、決まってるよ」
ヴィオレットは、動揺する。
どうすればいいのか。
迷っているのだろう。
だが、ルチアは、すでに、決めていた。
これから、どうするべきなのか。
「魔神は、復活させない!!私が、食い止める!!」
ルチアは、決意を固めた。
もう一度、帝国と戦うと。
女帝・ダリアを殺してでも、魔神を復活させないと。
ルチアの意思を聞いたヴィオレットは、拳を握りしめる。
彼女も、決意を固めていた。
「私も、共に戦う」
「ヴィオレット」
「絶対にな」
「うん」
ヴィオレットも、宣言する。
ルチアと共に戦うと。
全てをルチアに背負わせるつもりなど毛頭ないのだ。
決意を固めたのは、二人だけではなかった。
クロスも、クロウも、カイリも、アマリアも、そして、カレン達も、ヴィクトル達もだ。
誰もが、帝国と戦う事を決めていた。
「絶対に止めてみせる!!」
ルチアは、宣言した。
帝国と戦う事を。
今度こそ、魔神を消滅させてみせると。
こうして、最後の戦いが、始まろうとしていた。
楽園世界のヴァルキュリア―黎明の少女達― 愛崎 四葉 @yotsubaasagiri
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