第七十三話 魔神復活まで
カイリとダリアの悲しき親子の死闘が始まってしまった。
たとえ、血はつながっていなくても、彼らは、親子だったはずだ。
正真正銘の。
どこから、道を違えてしまったのだろうか。
最初からなのだろうか。
カイリにとっては、どうでもよかった。
目の前にいるのは、母親ではない。
敵なのだから。
「はあっ!!」
カイリは、剣を振るう。
だが、ダリアは、地の壁を発動したのだ。
カイリの攻撃を防ぐために。
カイリは、まがまがしい力を発動して、剣を振るう。
地の壁を破壊する為に。
「無駄よ!!」
地の壁は、破壊されたが、ダリアは、火の矢を発動する。
バーニング・アローを発動したのだ。
カイリは、とっさに、回避し、ダリアと距離を取った。
危険を察知して。
「わかっているのでしょう?虹属性は無敵だって」
ダリアは、カイリに問いかける。
虹属性は、強敵であり、厄介だ。
全ての属性をその身に宿している。
弱点がないと言っても、過言ではない。
だからこそ、ダリアは、無敵だと言ったのだろう。
もちろん、カイリも、わかっている。
虹属性は、稀な種族であるが、その分、厄介である事を。
「わかっている。だが、俺は、虹属性のアライアを殺した」
「それは、アライアが、油断したからでしょう?」
カイリは、理解していた。
だが、実際に、カイリは、アライアを撃破している。
消滅させているのだ。
だからこそ、無敵とは言えないと言いたいのだろう。
もちろん、ダリアも、わかっている。
アライアが、殺された事は。
だが、アライアが油断しているからと推測しているようだ。
「私は、違うわ」
ダリアは、宣言する。
アライアのように、殺されるわけがないと。
消滅するはずがないと。
ダリアは、光と闇の刃を発動した。
フォトン・ブレイドとシャドウ・ブレイドを発動したのだ。
それを切り裂くカイリ。
だが、ダリアは、続けて、フォトン・インパクトとシャドウ・インパクトを発動。
カイリは、回避できず、爆発に巻き込まれた。
「ぐはっ!!」
カイリは、吹き飛ばされ、床にたたきつけられる。
その間に、ダリアは、カイリに迫った。
笑みを浮かべ、勝ち誇ったかのように。
「ほらね。それに、ボロボロのあなたに勝ち目はあると思って?」
「くっ……」
ダリアは、カイリに問いかける。
確かに、カイリは、傷だらけの状態で、ダリアと死闘を繰り広げている。
アライアやクロス、クロウと死闘を繰り広げ、傷を癒すことなく、ここまで来たからであろう。
すでにカイリの体力は、限界を超えていた。
ゆえに、カイリは、起き上がることすらできないほど、体力を奪われていたのだ。
万事休すであった。
「お願いよ、私達の邪魔をしないで。あともう少しなの。あと、もう少しで、魔神が復活する」
ダリアは、静かに、カイリに懇願する。
あと一人の魂で、魔神は復活するのだ。
ダリアの野望が叶うまで、あと少しだった。
ここで、終わるわけにはいかない。
ゆえに、カイリに懇願した。
この場で死んでほしいと。
「ルチアの魂とアマリアの命で」
「え?」
衝撃的な言葉をダリアは、口にした。
なんと、魔神復活の為には、ヴァルキュリアであるルチアの魂だけではなく、アマリアの命も、必要だというのだ。
カイリは、衝撃を受け、目を見開いた。
信じられなくて。
「い、今、なんて?」
「あら、知らなかったのね」
カイリは、動揺し始める。
信じられるはずがなかった。
いや、信じたくなかったのだ。
なぜなら、ダリアは、今、ヴァルキュリアの魂だけでなく、アマリアの命と引き換えに、魔神を復活させると言ったのだから。
カイリの様子を目にしたダリアは、不敵な笑みを浮かべていた。
まるで、この状況を楽しんでいるかのようだ。
「魔神を復活させるには、ヴァルキュリアの魂だけでは足りないわ。アマリアの、聖女の命が、必要なのよ」
「っ!!」
衝撃的であった。
ダリアは、アマリアの命でさえも、奪おうとしたのだ。
カイリは、体を震わせた。
ダリアは、アマリアを殺そうとしているのだと、わかったのだから。
大事なアマリアを。
「だから、あの子を、今まで、王宮に住まわせていたのよ?」
「……」
ダリアは、アマリアが、なぜ、王宮で暮らせたのかを語る。
アマリアの命を奪うためだ。
だからこそ、大切に育ててきた。
アマリアは、王宮エリアから、ほとんど出た事がない。
危険だからと言う理由で。
だが、もし、島に行き、妖魔と遭遇してしまったら、アマリアは、命を落としていたかもしれない。
ダリアは、それを懸念していたのだ。
それを聞いたカイリは、悟ってしまった。
自分も、アマリアも、ダリア達に利用されてきたのだと。
「さあ、終わりにしましょう。カイリ」
全てを語り終えたダリアは、カイリに迫る。
殺そうとしているのだ。
邪魔をしようとしているのだから。
カイリは、うなだれたままだ。
ショックを受けているのだろう。
抵抗する気力も、失っているかのようだ。
「さようなら」
ダリアは、全ての属性を使って、刃を生み出す。
全ての属性であれば、カイリも、反撃する事はできないであろう。
ダリアは、そのまま、カイリに向かって、突きを放った。
だが、その時だ。
カイリが、素手で刃を握りしめたのは。
「っ!!」
ダリアは、目を見開き、体を硬直させてしまう。
信じられないのだ。
まさか、カイリが、素手で全属性の剣を握りしめるとは。
手から血を流しているカイリ。
それでも、強く握りしめていた。
ダリアが、引き抜こうとしても、引き抜けないほどに。
「殺させはしない」
カイリは、顔を上げて、ダリアをにらむ。
まるで、決意を固めたかのようだ。
カイリの表情を目にしたダリアは、背筋に悪寒が走った。
恐ろしく感じたのだろう。
カイリが、魔神のように思えてならないほどに。
「アマリアは、私が、守る!!」
カイリは、強い意思を抱いていた。
たとえ、この身が朽ちようとも、ダリアを殺し、アマリアを守ると。
アマリアを犠牲にしたくなかったのだ。
だからこそ、カイリは、剣を強く握りしめた。
どれほどの血が流れようとも。
「このっ!!」
ダリアは、剣を引き抜こうとする。
だが、カイリは、決して、剣を離さなかった。
ダリアは、他の魔法を発動する。
魔法は、カイリに直撃するが、それでも、カイリは、離さなかった。
「ど、どうして!?どうして、貴方は!!」
ダリアは、動揺し始める。
理解できないのだろう。
なぜ、カイリは、それほどの強い意思を抱いているのか。
その時であった。
カイリが、剣で、ダリアを貫いたのは。
隙を狙っていたのだろう。
「かはっ!!」
ダリアは、血を吐く。
激痛により、全属性の剣を手から放してしまい、剣は消滅してしまった。
すると、カイリは、立ち上がったのだ。
ダリアを殺すために。
ダリアは、抵抗できず、手を震わせた。
「決まっている。愛しているからだ」
カイリは、ダリアの問いに答える。
なぜ、カイリが、重傷を負っても、抵抗し続けるのか。
カイリは、アマリアの事を愛しているからだ。
ずっと、ずっと……。
婚約を解消しても、その想いは変わらなかった。
アマリアが、自分を嫌悪しても、拒絶しても。
だからこそ、アマリアを守るために、母親を殺す事を決意した。
カイリは、まがまがしい力を発動する。
固有技・ナイトメア・キルを発動したのだ。
まがまがしい力は、瞬く間に、ダリアを飲みこんだ。
「い、いやああああああっ!!!」
ダリアが、絶叫を上げる。
すると、まがまがしい力が収まった。
ダリアは、消滅してしまったのだ。
跡形もなく。
カイリは、剣を落とし、荒い息を繰り返した。
「あと、一人……」
残りは、コーデリアだけだ。
コーデリアさえ、殺せば、魔神復活を止められる。
ルチアも、アマリアも、助けることができるのだ。
そう、確信を得たカイリ。
だが、その時であった。
突如、カイリの脇腹に激痛が走ったのは。
「っ!!」
激痛が走り、カイリは、ゆっくりと脇腹の方へと視線を向ける。
なんと、背後から剣で貫かれていたのだ。
何が起こったのか、理解できないカイリ。
カイリは、ゆっくりと、後ろを振り向くと、なんと、コーデリアが、カイリの背後に立ち、剣を握りしめている。
コーデリアが、カイリを刺したのだ。
「ありがとう、カイリ。お母様を殺してくれて」
「コーデリア!!」
コーデリアは、不敵な笑みを浮かべている。
しかも、実の母親であるダリアが、死んだことを喜んでいるかのようだ。
カイリは、怒りを露わにし、ダリアをにらみつけた。
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