第七十二話 憎き母親と息子
カイリは、ダリアとコーデリアがいると思われる女帝の間へと急ぐ。
仮面をつけて、暗殺者となって。
帝国兵達は、カイリを見つけると、殺しにかかった。
だが、カイリは、容赦なく、帝国兵達を殺す。
まるで、狂剣士のように。
カイリを止める事は、誰もできなかった。
「止まれ、止まれよ!!」
帝国兵は、叫ぶ。
体を震わせながら。
カイリを恐れているのだ。
殺されると危機感を感じているのだろう。
だが、カイリは、帝国兵に迫り、心臓を貫いた。
「かはっ!!」
帝国兵は、血を吐き、倒れる。
カイリに殺されたのだ。
カイリは、そのまま、他の帝国兵に迫る。
仮面をつけているため、その素顔は見えない。
ゆえに、誰にも、わからなかった。
カイリが、どのような表情を浮かべているのか。
「く、来るな!来るなああああっ!!」
帝国兵が、荒れ狂ったかのように、剣を振るう。
がむしゃらに振るっているのだろう。
それほど、怯えているのだ。
次は、自分が、殺されると、察して。
だが、カイリは、容赦なく、帝国兵へと迫り、首を斬り落とした。
残酷な殺し方だ。
それでも、カイリは、ためらわない。
ダリアとコーデリアの元へ行くために。
「こ、こいつ、強い……」
「き、気を付け……」
他の帝国兵は、警戒し始める。
うかつに近づいてはいけないと、ようやく悟ったのだ。
だが、その時であった。
カイリが、帝国兵の元へと迫ったのだ。
それも、容赦なく。
「もう、遅い」
カイリが、静かに呟く。
その直後、帝国兵達は、胴体を切り落とされ、殺された。
それでも、カイリは、冷酷だった。
感情を押し殺しているわけではない。
まるで、感情をなくしているかのようだ。
カイリに残された感情は、憎悪だけなのだろう。
カイリは、静かに、歩き始めた。
すでに、カイリが通った道は、帝国兵の死体で埋め尽くされていた。
しばらくして、カイリは、女帝の間にたどり着き、勢いよく、扉を開けた。
「ダリア!!」
カイリが、ダリアの名を呼ぶ。
母親だというのに、呼び捨てにして。
それほど、憎んでいるのだろう。
ダリアの事を。
ダリアを目にしたカイリは、形相の顔で、ダリアをにらみつけていた。
「待っていたわ。カイリ」
息子に睨まれているというのに、ダリアは、微笑んでいる。
まるで、余裕と言わんばかりに。
いや、待ちわびていたと言った方が正しいのかもしれない。
カイリを捕らえようとしていたのは、ダリアだというのに。
「にしても、ひどいわね。母親の名を呼び捨てにするなんて」
「もう、お前は、母親でもない」
ダリアは、嘆いているようだ。
息子であるカイリに、呼び捨てにされるとは、思いもよらなかったのだろう。
だが、カイリは、悔いてなどいない。
ダリアの事を母親だと思っていないのだ。
敵とみなしているのだろう。
「よくも、私を騙したな」
カイリは、ダリアを憎んでいる。
許せないのだ。
今まで、騙してきたのだから。
ダリアの話など、信じなければ、罪もない者達を殺す事はなかった。
シャーマン達も、クロスも、クロウも。
そう思うと、許せないのだ。
ダリア達の事も、自分の事も。
「仕方がないでしょ?あの人が悪いんだから」
「あの人?」
ダリアは、仕方がない事だと告げる。
悪びれた様子は見せない。
しかも、人のせいにしはじめたのだ。
だが、「あの人」とは、誰の事なのだろうか。
カイリは、見当もつかず、問いただした。
「そうよ。前皇帝よ」
「父上が?」
「ええ」
ダリアは、全ては、自分の夫である、前皇帝のせいだというのだ。
全く、理解できない。
前皇帝は、良き皇帝であり、良き父親でもあった。
常に、帝国のことを考え、カイリ達の事を考えてきたのだ。
彼らを守るために、前線で戦った事がある。
だというのに、なぜ、ダリアは、前皇帝が悪いと言い切れるのだろうか。
「あんたを、次期皇帝にするなんて、可笑しいわよ。私達の子供じゃないのに」
「え?」
ダリアは、納得がいかなかったのだ。
前皇帝は、カイリを次期皇帝に指名していた。
それは、当たり前の事ではないだろうか。
息子であるカイリを指名するのは。
だが、違っていた。
ダリアにとっては、納得できないのだ。
なぜなら、カイリは、自分達の息子ではなかった。
それを聞かされたカイリは、唖然とする。
信じられなくて。
「あら、それは、教えてもらえなかったのね」
カイリの表情を目にしたダリアは、不敵な笑みを浮かべる。
アライアは、カイリに真実を告げなかったのだと悟って。
そう思うと、可笑しくてたまらないのだろう。
何も知らないカイリが、自分達の事を憎んでいるのだから。
「いいわ。教えてあげる」
上機嫌になったダリアは、語る事を決めたようだ。
カイリに、自身の出生の事を。
「貴方はね、私達の子供じゃないの。本当にね」
「じゃ、じゃあ、私は」
「さあ?あの人が、連れてきたから、知らないわ」
ダリアは、語り始めた。
なんと、カイリは、本当にダリアと血がつながっていないようだ。
もちろん、コーデリアとも。
カイリは、疑わなかった。
騙された理由が、理解できるからだ。
血がつながっていないのであれば、利用されても仕方がないと。
だからこそ、体を震わせた。
自分は、何者なのか。
だが、ダリアも、知らないようだ。
前皇帝が、カイリを連れてきたらしく。
詳細を語らなかったのだろう。
「貴方は、特別な力を持っていた。だから、私は、私達の息子として、育てたのよ。貴方を利用する為に」
初めて、カイリを目にしたダリアは、気付いたのだ。
カイリは、特別な力をその身に宿していると。
前皇帝は、気付いていなかったようだが。
だからこそ、ダリアは、カイリを自分の息子として、受け入れた。
その特別な力を使って、カイリを利用する為に。
私利私欲の為に、カイリは、ダリアの息子となったのだ。
「だというのに、あの人は、彼を次期皇帝にすると言いだして……特別な力があるから、その力で帝国を導くだろう、ですって?」
だが、ダリアにとって予想外の事が起こった。
前皇帝は、カイリを次期皇帝に指名したのだ。
自分の実の娘のコーデリアではなく。
その理由は、特別な力だった。
その力があるからこそ、カイリなら、帝国をよき国にしてくれる。
前皇帝は、そう思っていたのだろう。
だが、ダリアは、納得できなかった。
「冗談じゃないわ!!」
ダリアは、声を荒げる。
感情を、怒りをぶつけるかのように。
「帝国は、私達のものよ!!私とコーデリアのものよ!!」
ダリアは、怒りを露わにした。
許せなかったのだ。
帝国は、自分とコーデリアのものだ。
誰にも、渡すつもりなどなかった。
ましてや、正体不明であるカイリには。
「だから、あいつを殺させた。兵長にね」
「なっ!!」
感情を抑えきれなくなったダリアは、ついに、前皇帝を殺す事を決めたのだ。
愛していた彼を。
それほど、納得できなかったのだろう。
だが、ダリアは、自分の手を汚すつもりなどなかった。
ダリアは、兵長に殺させたのだ。
皇帝を殺せば、皇帝にしてやると、吹き込んで。
カイリは、驚愕する。
信じられなかった。
そんなことの為に、前皇帝は殺されたのかと。
だが、兵長は、皇帝になれなかった。
ダリアは、皇帝にするつもりなど毛頭なかったのだ。
利用されたと知り、兵長は、ダリア達を殺そうとしたが、カイリに殺されてしまった。
これが、真実であった。
「驚くのは、まだ早いわよ。確かに、私達を狙っていた者たちがいるのは、知っているね」
「あ、ああ」
ダリアは、さらに話を続ける。
しかも、嘲笑うかのように。
ダリアに問いかけられたカイリは、戸惑いながらも、うなずく。
確かに、ダリアとコーデリアは狙われていた。
常に。
「まさか……」
「ええ、そのまさかよ」
カイリは、気付いてしまったのだ。
常に狙われていたことすらも、偽りだったのではないかと。
ダリアは、不敵な笑みを浮かべてうなずいた。
「彼らは、私が、吹き込んだのよ。私達を殺せば、皇帝になれるって。もちろん、アライアが、やってくれたんだけど」
なんと、残酷な真実であろうか。
大臣や帝国兵が、ダリアとコーデリアの命を狙っていたのは、彼らは、嘘を吹き込まれたからだ。
それも、ダリア達に。
ダリアの思惑通り、彼らはダリアとコーデリアの命を狙い、カイリに殺された。
カイリを罪人にする為に。
そうする事で、皇帝になれないようにしたのだ。
カイリは、真面目な性格だ。
命を奪っておいて、皇帝になるとは言わないと推測したのだろう。
「貴方は、まんまと引っ掛かって、殺してくれたわ。しかも、暗殺者になると言いだした時は、予想外だったわね。まぁ、都合が良かったけど」
騙されたカイリは、多くの命を奪ってしまった。
しかも、暗殺者になるとまで言い出したのだ。
ダリア達も予想外であった。
だが、彼女達にとっては、好都合だったのだ。
魔神復活の為には、邪魔者を排除したい。
暗殺者となったカイリなら、それをしてくれると、推測していたから。
「そうか……。本当に、騙されていたんだな」
話を聞いたカイリは、悟った。
自分は、本当に騙され、利用されていたのだ。
そう思うと、震えが止まらなかった。
ダリア達や自分に対して、憤りを感じていたのだ。
「許さない。許さないぞ!!ダリア!!」
カイリは、ダリアに剣を向けた。
ダリアを殺すと決意を固めて。
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