第六十九話 殺し合いの後

「知られては仕方がない。最後まで、利用するつもりであったが、殺させてもらおう。ダリア達には、悪いがね」


 アライアは、語る。

 やはり、口封じの為に、カイリを殺すようだ。

 本当であれば、カイリを最後まで、利用するつもりだったのだ。

 皇子として、暗殺者として。

 しかも、カイリを殺す事は、自分の判断だ。

 ダリアに命じられたからではない。

 ゆえに、二人に申し訳ないと、語った。


「よく言うな。もともと、私を殺すつもりで、全て話したのだろう?」


「ほう、気付いていたのか?」


 カイリは、気付いていたようだ。

 アライアが、ここに来た時から、自分を殺そうとしていたと。

 だからこそ、全て、話したのだと。

 アライアは、感心していた。

 まさか、気付かれていたとは、思いもよらなかったのであろう。


「当たり前だ。そうでなければ、妖魔の真実まで、話すはずがない」


 アライアは、詳しく語り過ぎたのだ。

 妖魔の真実まで、話したという事は、知っても、知らなくても、どうでもよかった。

 なぜなら、カイリを殺すつもりだったのだから。


「もう、いいかな?殺しても」


「殺されるのは、私ではない。お前だ!!」


 アライアは、カイリに問いかける。

 もう、話しても、無駄だと、感じているのだろう。

 だが、カイリは、殺されるつもりは、毛頭なかった。

 アライアを殺すつもりでいるのだから。

 カイリは、剣を振るう。

 だが、アライアは、すぐさま、回避する。

 アライアが、構えると、カイリは、とっさに、距離を取った。


――アライアが、なんの属性をその身に宿しているのかは、不明だ。気をつけなければ……。


 カイリは、警戒していたのだ。

 アライアの属性は、不明だ。

 語ろうとしなかったのだ。

 まさか、対峙するとは思いもよらなかったため、慎重に戦うしかなかった。

 だが、その時だ。

 アライアが魔法を発動したのは。

 それも、光と闇の魔法を。

 アライアが発動したのは、フォトン・ショットとシャドウ・ショットであった。


「っ!!」


 光と闇の魔法の弾が、カイリを捕らえようとする。

 カイリは、驚愕するが、すぐさま、冷静さを取り戻し、弾を全て、切り裂いた。

 それでも、アライアは、魔法を発動し続ける。

 カイリは、移動しながらも、剣を振るい、魔法の弾を切り裂いていった。


――光と闇!?二つの属性を宿しているのか!?


 カイリは、悟った。

 アライアは、一つの属性をその身に宿しているのではない。

 光と闇の属性をその身に宿しているのだと。

 精霊人だけでも、稀な存在だというのに、まさか、二つの属性をその身に宿しているとは、思いもよらなかった。

 だが、その時であった。

 アライアが、続けて、魔技を発動したのは。

 それも、雷と華の魔技を。

 アライアが発動したのは、スパーク・ブレイドとブロッサム・ブレイドだ。

 カイリは、回避したが、内心、信じられなかった。

 二つだけではなく、四つの属性をその身に宿しているのは、あり得ないのだ。

 ある属性しか。


――雷と華……まさか、こいつは……。


 カイリは、推測してしまった。

 アライアが、何者なのかを。

 カイリの表情を目にしたアライアは、不敵な笑みを浮かべていた。


「気付いたみたいだね。私は、虹属性だよ」


「厄介な」


 アライアは、自身の属性を明かした。

 最も、稀の属性・虹属性だったのだ。

 全ての属性をその身に宿している事になる。

 これは、さすがのカイリであっても、厄介な相手だったのだ。

 しかも、アライアは、頭が切れる。

 どのような攻撃を繰り出したところで、アライアは、すぐさま、対処してしまうだろう。

 それでも、カイリは、アライアを殺すしかないのだ。

 アライア達の野望を止める為に。


「これなら、どうだ!!」


 カイリは、あのまがまがしい力を発動した。

 このまま、アライアを消滅させるつもりだったのだ。

 無茶苦茶な戦い方である事は、カイリ自身もわかっている。 

 だが、どれほど無謀であっても、やらないよりはマシなのだ。

 まがまがしい力は、アライアを飲みこもうとしていた。


「甘いよ!!」


 アライアは、飲みこまれる寸前、地の魔法を発動して、地の壁を生み出す。

 地の壁を身代わりにしたのだ。

 地の壁は、まがまがしい力に飲みこまれ、消滅した。

 そして、アライアは、隙を狙って、風の魔法を発動したのだ。

 ストーム・スパイラルを。

 風は、瞬く間に、カイリを飲みこみ、切り刻んだ。


「かはっ!!」


 カイリは、血を吐き、倒れそうになる。

 だが、足に力を入れ、踏ん張ったのだ。

 このまま、死ぬわけにはいかないと。


「まだだよ!!」


 アライアは、容赦なく、魔技を発動する。

 バーニング・アローとスプラッシュ・アローを。

 火と水の矢は、カイリを容赦なく、貫いた。


「ぐあああっ!!」


 カイリは、絶叫を上げる。

 次々とカイリの体に刺さったからであろう。

 本当に、容赦ない。

 カイリは、右膝をつき、うずくまった。


「ははは。やっぱり、虹属性に敵う者はいないみたいだね」


「……」


 アライアは、笑みを浮かべる。

 自分が、負けるはずがないと思い込んでいるのだ。 

 虹属性である自分が。

 たとえ、カイリの属性が不明であっても。

 まがまがしい力を持っていたとしても。

 カイリは、反論することもできず、ただ、荒い息を繰り返しているだけであった。


「さて、そろそろ、死んでもらおうか」

 

 アライアは、カイリに歩み寄り、構える。 

 ここで、カイリを殺そうとしているのだ。

 アライアは、魔技・フォトン・ブレイドとシャドウ・ブレイドを発動しようとしていた。

 だが、その時だ。

 突如、カイリが、立ち上がり、アライアの首をつかんだのは。


「なっ!!」


 アライアは、驚愕し、動揺する。

 予想もしていなかったのだ。

 まさか、カイリが、立ち上がれるとは。

 徹底的に、痛めつけたというのに。

 まだ、そのような力を残しているなど、思いもよらなかった。


「冗談じゃない。お前は、殺す。絶対に!!」


「ま、まずい!!」


 カイリは、強い意思を持っていたのだ。

 アライア達を止めると。

 たとえ、殺してでも。

 カイリは、そのまま、まがまがしい力を発動する。

 この状態では、逃げることすらも、抵抗する事も叶わない。

 アライアは、追い詰められていた。

 だが、カイリは、容赦なく、まがまがしい力で、アライアを飲みこもうとしていた。


「ぐっ!!」


 アライアは、苦悶の表情を浮かべる。

 まがまがしい力は、アライアを蝕んでいったのだ。

 しかも、恐ろしい光景を見させられながら。

 そして、アライアの体は、消滅しようとしていた。


「ぎゃああああああっ!!!」


 消滅し始めた途端、アライアは、絶叫を上げる。

 苦痛がアライアを襲っているのだろう。

 想像を絶するほどの。

 まがまがしい力が、消滅すると、アライアの姿も消えていた。

 アライアは、消滅したのだ。

 これが、カイリの固有技・ナイトメア・キルであった。


「止めなければ……」


 カイリは、荒い息を繰り返しながらも、部屋を出る。

 もちろん、何事もなかったように、元のままにして。

 


 カイリは、ゆっくりと、研究所を出た。

 怪我を負ったままなのだ。

 回復魔法は唱える事はできない。

 それでも、カイリは、ダリアとコーデリアの元へと向かっていた。

 魔神復活を阻止する為に。

 だが、その時であった。

 カイリが、研究所を出た途端、十数人の帝国兵が現れ、カイリに剣を向けたのは。


「なっ!!」


「動くな!!」


 カイリは、驚愕する。

 だが、帝国兵は、カイリをにらんだまま、剣を下げようとはしなかった。

 カイリを敵とみなしているようだ。

 皇子ではなく。


「な、何をして……」


「ごまかしても無駄だぞ。罪人め」


 カイリは、動揺しながらも、問いかける。

 すると、帝国兵が、逆に、聞き返した。

 しかも、罪人扱いして。

 ダリアやコーデリアに、何か、吹き込まれたのだろうか。

 カイリは、警戒し、動きを止めた。

 と言っても、逃げる為、隙を狙っているが。


「貴様は、暗殺者だな?」


「っ!!」


 帝国兵は、カイリに問いかける。 

 なんと、カイリが暗殺者である事を見抜いているのだ。

 これには、さすがのカイリも、驚きを隠せなかった。 

 帝国兵は、いつ、自分の裏の顔を見抜いたのだろうか。

 いや、考えられることはただ一つであった。

 ダリアとコーデリアが、自身の正体を打ち明けたのだと。


「カイリ様の姿に変装すれば、王宮を侵入できると思ったのか?」


「しかも、アライア様を殺したのだろ?」


 帝国兵は、目の前にいるのが、カイリではなく、カイリに扮装した暗殺者だと思い込んでいるのだ。

 つまり、本物のカイリとは思っていない。

 しかも、帝国兵は、アライアを殺したことさえも、知っているのだ。

 この短時間で、ダリアとコーデリアは、どうやって知ったのだろうか。

 いや、知ったわけではないかもしれない。

 アライアは、殺されたと、推測しているか、または、嘘を吹き込んだかのどちらかであろう。


「どこで、知った?」


「貴様に、答えるつもりはない」


 カイリは、帝国兵に問いかける。

 だが、帝国兵は、答えるつもりはないようだ。

 当然であろう。

 自身が、暗殺者だと思われているのだから、そうやすやすと、答えるわけがなかった。


「観念しろ」


 帝国兵は、カイリに迫ろうとする。

 捕らえようとしているのだろうか。 

 もしくは、殺そうとしているのかもしれない。

 だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 カイリは、固有技・ナイトメア・キルを発動した。

 帝国兵を巻き込まないように。


「っ!!」


 まがまがしい力が、帝国兵を飲みこもうとする。

 もちろん、ギリギリのところで、止めるつもりだ。

 だが、そうとは知らない帝国兵は、とっさに、回避する。

 これが、カイリの狙いであった。

 殺されると、推測した帝国兵達は、自身から遠ざかると、予想したのだ。

 予想通りになった。

 カイリは、その間に、逃げ始めたのであった。


「追え!!逃がすな!!」


 帝国兵は、カイリを追い始める。

 それでも、カイリは、逃げ続けた。

 帝国兵の目を欺き、地下の方へと。

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