第六十八話 帝国と妖魔の真実
「は、母上と、姉上が?」
「そうだよ」
カイリは、信じられなかった。
何もかもが。
だからこそ、声が震えていたのだ。
そんなはずがないと。
仮に、もし、アライアの言っている事が、本当だとすれば、カイリは、騙されていたことになる。
だが、現実は、残酷だ。
アライアは、うなずいたのだ。
それも、平然と。
「わ、私は、騙されないぞ!!」
カイリは、声を荒げた。
アライアは、自分を騙そうとしているのだ。
騙して、ほんろうさせようとしているだろう。
そうすれば、隙ができ、自分を殺す事もたやすいはずだ。
カイリは、警戒して、にらんだ。
「はは、いいよ。信じようが信じまいがね」
アライアは、笑みを浮かべる。
それも、余裕の笑みを。
どちらでもいいのだ。
カイリが、自分の話を信じようと信じまいと。
それは、重要ではないのだから。
「カイリ、この世界はね、残酷なんだよ。君が思っている以上にね」
「どういう意味だ?」
アライアは、話を続ける。
それも、嘲笑うかのように。
アライアは、何が言いたいのだろうか。
理解できず、カイリは、問いただした。
嫌な予感がして。
「そうだね。この際だから、教えてあげるよ」
アライアは、嘲笑うかのように、答える。
アライアにとっては、どうでもいいのだ。
カイリが、真実を知ろうと知るまいと。
計画が狂うわけではない。
計画は、すでに、完成しかけているのだ。
ルチアの魂を捧げる事で、魔神は、復活するのだから。
「帝国にいる者達は、ほとんどが、死んでいるんだ。すでにね」
「なっ!!」
衝撃的な言葉を口にしたアライア。
カイリは、絶句した。
信じられない話だ。
まさか、ほとんどが死んでいるなど。
現に、帝国の民は、生きている。
誰もが、死んでいるとは、到底思えない。
どういう事なのだろうか。
「驚いたかい?そうだろうね。誰も、知らないし」
カイリの反応を目にして、アライアは、笑みを浮かべる。
この状況を楽しんでいるかのようだ。
そう思うと、カイリは、苛立った。
アライアにほんろうされている気がして。
「だが、彼らは、生きているぞ?」
「作られた体に魂を入れられたからね。だから、死人みたいなものさ」
カイリは、疑問を抱く。
その疑問にアライアは、答えた。
彼らも、作られた体に魂を封じ込まれたというのだ。
つまり、彼らは、もう、生きているとは、言えないだろう。
なぜ、このような事をしたのだろうか。
カイリには、到底、理解できなかった。
「し、死んでいるという事は、私達も……」
「ああ、安心しなよ。私と皇族、それに、施設にいる子達は、死んでいないよ。だから、ヴァルキュリアは、作られた体に魂を閉じ込める必要があったんだ」
カイリは、ある事に気付く。
もしかしたら、自分達も、すでに、死んでいたのではないかと。
そして、無理やり、作られた体に魂を封じ込まれたのではないかと。
カイリの表情を目にしたアライアは、察したようだ。
カイリが、何を考えているのか。
だからこそ、説明した。
カイリも、アライアも、まだ、生きているのだと。
そして、施設で育ったヴァルキュリア達も。
ヴァルキュリアは、全員、施設で育った少女達だったのだ。
だからこそ、ヴァルキュリアは、作られた体に魂を封じ込める必要があったと、アライアは、答える。
つまり、彼女達は、死んでいるという事なのだろうか。
「でも、死なせてはいけない。魂と作られた体が、暴走してしまうからね」
「暴走?」
カイリの推測は違っていたようだ。
ルチア達は、生きている。
アライアは、そう答えた。
筒の中で眠っている彼女達を見ながら。
自分達の野望の為に、彼女達は、あの筒の中で眠っているようだ。
眠っている彼女達こそが、本当の体なのだろう。
カイリは、そう推測したが、ある事が気になった。
暴走とは、一体、どういう意味なのか。
「そう。妖魔になるのさ」
「よ、妖魔だと!?」
「そうだよ」
アライアは、さらに、話を続ける。
なんと、作られた体に封じ込まれたものは、妖魔になるというのだ。
カイリは、衝撃を受けた。
なぜなら、妖魔を生み出していたのは、シャーマンと大精霊だと教えられたのだから。
もし、アライアの言っている事が、本当ならば、カイリは、騙され、罪もないシャーマン達を殺したことになる。
カイリは、信じたくなかった。
「作られた体と魂は、真の意味では、完全体ではない。不完全なんだ。だから、暴走して、妖魔になる。これが、妖魔の真実だよ」
アライア曰く、帝国の民達は、復活を果たしたが、完全に、復活したわけではない。
不完全な形で、復活したのだ。
だからこそ、自身では、制御できず、暴走してしまうのだろう。
魂が、拒否反応を起こして。
そして、妖魔になってしまった。
これこそが、妖魔の真実であった。
カイリは、体を震わせる。
アライアは、嘘を言っているとは到底思えない。
嘘にしては、詳しすぎるのだ。
ゆえに、信じるしかなかった。
自分は、騙されていたのだと。
「なぜ、彼らは……これは、お前が、やったのか?」
「いいや、違うよ。ずっと、前から、囚われていたようだ」
カイリは、ある疑惑を抱く。
帝国の民が、命を落とし、作られた体に魂を封じ込められたのは、アライアの仕業ではないかと。
だが、アライアは、意外な言葉を口にする。
なんと、アライアの仕業ではないというのだ。
アライアが生まれた以前から、魂は、囚われていたと言いたいのだろうか。
「まさか、魔神が?」
「さあね」
カイリは、ある答えにたどり着く。
アライアの仕業ではないという事であれば、魔神の仕業なのではないかと。
だが、アライアは、答えようとしなかった。
まるで、嘲笑っているかのようだ。
カイリは、魔神の仕業だと思えてならなかった。
何の目的でなのかは、不明だが。
「妖魔にさせないためにも、ヴァルキュリアは、生かさなければならない。と言っても、神の力と魂も、また、不完全。だからこそ、精神が侵食されてしまう」
アライアは、話を続ける。
ヴァルキュリアの命を奪わずに、生かしている理由は、死人にすることで、妖魔になってしまうからだ。
ゆえに、命を奪わなかった。
だが、融合までは、不完全な状態だ。
不完全であるからこそ、ベアトリス、ライム、セレスティーナは、精神が侵食されてしまった。
ルチアは、精神が、侵食されなかったが。
その理由は、アライアも、わかっていない。
ルチアが、「特別」だからだろうか。
「その前に、神魂の儀を行うのさ。融合が完全になったところでね」
精神が、侵食され続ければ、やがて、妖魔と化してしまう。
だが、その前に、神の力と魂は、完全に融合する。
アライアは、完全になったところで、魂を捧げさせるつもりなのだ。
ヴァルキュリア達が、命を失うとわかっていて。
今まで、そうしてきたのだろう。
全て、わかっていながら。
「なぜ、世界を手に入れる必要がある。彼女達を犠牲にしてまで」
カイリは、信じられなかった。
ヴァルキュリアの命が、犠牲になるとわかって、彼女達を騙して、世界を手に入れようとしているのか。
理解できないのだ。
そのようなバカげた野望を。
「……世界を手に入れれば、私の意のままにできる。と言ったら、納得するかな?」
「ふざけるな!!」
アライアは、明かした。
くだらない理由だった。
世界を意のままに操りたい。
そんなことの為に、歴代のヴァルキュリア達は、命を落としたのだ。
いや、奪われたのだ。
アライアに。
カイリは、声を荒げた。
憤りを感じて。
「お前達のやっている事は、悪でしかない!!」
カイリの言う通りであった。
アライア達のやっている事は、悪だ。
私利私欲の為に、彼女達を利用し、自分を利用し、騙してきたのだから。
カイリは、アライア達を許すつもりはなかった。
「お前達、と言う事は、信じたんだね。ダリアとコーデリアも、計画に加担していると」
アライアは、悟った。
確かに、カイリは、「お前達」と言ったのだ。
「お前」ではなく。
つまり、アライア、ダリア、コーデリアの事を言っているのだろう。
カイリは、信じたことになるのだ。
自分が、明かした真実を。
アライアは、確認するかのように、問いかけた。
嘲笑いながら。
「信じたくはない。だが、もし、本当なら……」
カイリは、信じたくなかった。
だが、信じるしかないのだ。
神が、帝国に封印されている事は、カイリも、知っている。
皇族は、知っているのだ。
ゆえに、ダリアも、コーデリアも、知っていたのだろう。
知っていて、計画を進めていたのだ。
それは、許されることではなかった。
「私は、お前達を止める!!」
カイリは、剣を引き抜き、構える。
アライアを殺してでも、止めようとしているのだろう。
神魂の儀が行われる前に。
カイリは、覚悟を決めたのであった。
「そう、なら……」
剣を向けられたアライアであったが、まだ、笑みを浮かべている。
この状況を楽しんでいるかのようだ。
「君を殺さないといけないね。カイリ」
アライアも、構えた。
カイリを殺そうとしているのだ。
口封じの為に。
こうして、残酷な戦いが始まろうとしていた。
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