第六十七話 ついに、知ってしまった
ついに、神魂の儀が行われようとしていた。
王宮は、貴族さえも、入れないように、門を閉めている最中であろう。
カイリは、神魂の儀が行われる時間よりも、早く、研究所を訪れていた。
今、ダリアも、コーデリアも、忙しい。
アライアもだ。
ゆえに、調べるなら今しかなかった。
研究所へと入るカイリ。
研究所は誰もいなかった。
「誰もいないな」
カイリは、慎重に進む。
だが、やはり、研究所には誰もいない。
皆、神魂の儀で、準備に取り掛かっているのだろう。
神魂の儀の時は、研究者は、総動員で、準備をしなければならない。
カイリも、知っている為、研究所にたやすく入り込むことができたのだ。
――神魂の儀まで、二時間はある。それまでに、調べなければ。
神魂の儀まで、残り二時間。
それまでに調べなければならない。
もしかしたら、取り返しつのつかないことになるかもしれないのだから。
カイリは、アライアの研究室を訪れた。
だが、扉には鍵がかかっている。
当然と言ったところであろうか。
――鍵がかかっているか。だが、大丈夫だろう。
たとえ、鍵がかかっていようと、カイリには、問題なかった。
暗殺者として、生きてきたカイリは、部屋に侵入する為に、二つの細い鉄の棒で、扉を開けてきたのだ。
カイリは、いつものように、二つの細い鉄の棒を鍵穴に、入れて、動かす。
すると、かちりと音が聞こえた。
扉を開いた音が聞こえたのだ。
――よし。
カイリは、静かに扉を開ける。
研究所には誰もいなかった。
もちろん、アライアも。
「アライアは、やはり、いないみたいだな」
カイリは、アライアがいない事を確認し、中へと入る。
もちろん、扉を閉めて。
「早く、探さなければ」
カイリは、真実を探るために、ありとあらゆる場所を探し始めた。
引き出しの中にある書類や机の上にちらかった書類を見ながら。
だが、全て、探し尽くしたが、有力な手掛かりは、得られない。
どこかに隠されているはずだというのに。
――見つからないか……。
カイリは、途方に暮れる。
探しても、探しても、見つからない。
やはり、自分の想い込みだったのだろうか。
そう考え、あきらめようとしたカイリ。
だが、その時であった。
壁に違和感を覚えたのは。
「ん?これは……」
壁の一部が、くぼんでいる。
ほんの少しではあるが。
カイリは、それを見抜いたのだ。
カイリは、そのくぼみに触れて、押し込んでみる。
すると、壁が、動き始め、部屋が出現した。
「な、なんだ、これは!?」
部屋を目にした途端、カイリは、自分の目を疑った。
なぜなら、ルチア、ヴィオレット、カレン、セレスティーナ、ライム、ベアトリスが、筒の入った水の中で眠りについているのだ。
一体、どういう事なのだろうか。
「ルチア達、か?」
カイリは、衝撃を受けた。
信じられなかったのだ。
ルチア達は、まだ、王宮にいるはずだ。
だとしたら、目の前にいる彼女達は、一体、誰なのだろうか。
疑問を抱き、あたりを見回す。
何か、情報がないかと。
その時であった。
机の上に、書類が置かれてあったのだ。
しかも、束になって。
「魔神復活計画?」
表紙には、なんと、「魔神」と書かれてあったのだ。
カイリは、「魔神」がどういう存在なのか、わかっている。
世界を破滅へ導こうとした神であり、聖神に封印されたという。
ゆえに、決して封印を解いてはならないのだ。
なのになぜ、復活計画などと記載されているのだろうか。
嫌な予感がする。
カイリは、恐る恐る書類を読み始めた。
「こ、これは……」
全てを読み終えたカイリは、体を震わせる。
恐ろしい事がかかれてあったのだ。
信じられない事が。
なぜ、アライアは、このようなものを持っているのだろうか。
まさか、アライアが、計画しているのではないだろうか。
カイリは、思考を巡らせた。
その時であった。
「そこで、何をしているのかな?」
「っ!!」
アライアの声がする。
カイリは、驚愕し、思わず振り向ていてしまった。
なんと、部屋にはアライアが入ってきたのだ。
気付かないうちに、入ってきたのだろう。
「アライア」
「気配がしたかと思えば、君だったか。カイリ皇子」
カイリは、困惑した表情で、アライアを見ている。
まさか、こんなにも早く、アライアが、戻ってくるとは、思いもよらなかったのだろう。
しかも、自分は、重要機密を知ってしまった。
最悪の事態と言っても過言ではない。
だというのに、アライアは、笑みを浮かべている。
まるで、余裕と言わんばかりに。
「これは、本当なのか?アライア研究室長」
カイリは、アライアに問い詰める。
信じたくないのだ。
アライアが、このような恐ろしい計画を立てているとは。
問い詰められたアライアは、笑みを浮かべたままであった。
「ほう、見てしまったか」
知られてしまったというのに、アライアは、余裕の笑みを浮かべている。
反対に、カイリが、追い詰められたかのような表情を見せていたのだ。
まるで、立場が逆転している気分だ。
カイリは、そんな気がしてならなかった。
「そうだよ。そこにかかれてあるのは、本当さ。復活するのは、神だ。だが、魔神だがね」
アライアは、正直に、答えた。
はぐらかす事もなく。
アライアは、本当に、魔神を復活させるつもりのようだ。
しかも、恐ろしい方法で。
「なぜ、このような事を……。ヴァルキュリア達を、作られた体にいれるなんて……」
「そうしなければ、神の力と魂は、融合しないからね」
「だが、そのせいで、精神が崩壊しているのだろう!!」
アライアは、ヴァルキュリア達の魂を作られた体に入れる事で、宝石の力、つまり、神の力と融合させ、その上で、神に魂を捧げようとしていたのだ。
それが、神魂の儀の真実であり、アライアの本当の目的であった。
アライアが、カイリに問いに答えると、カイリは、声を荒げた。
憤りを感じているのだ。
アライアは知っていた。
神の力と魂を融合させていくと、精神が侵食され、豹変してしまうのだと。
ベアトリス、ライム、セレスティーナが、豹変したのは、アライアの計画のせいであった。
「そうだよ。侵食されてしまうのは、仕方がないさ。魔神を復活させるためなんだから」
アライアは、淡々と答える。
罪悪感を感じていないのだ。
全ては、魔神を復活させるため。
ヴァルキュリア達が、豹変してしまっても、致し方ないと言いたいのであろう。
「魔神は、世界を滅ぼそうとしたんだぞ?」
「知っているよ。そんな事」
カイリは、信じれらないのだ。
魔神は、世界を滅ぼそうとした神だ。
アライアも、知っているはずだ。
だからこそ、理解できない。
なぜ、このような計画を立てているのか。
アライアは、少々、いらだった様子で、答える。
うんざりしているかのようだ。
「もう一度、聞く。なぜ、このような事をした?」
カイリは、再度、尋ねた。
彼女は、何をしようとしているのか。
目的を知らなければならない。
世界を、帝国を、エデニア諸島を、そして、ヴァルキュリア達を守るために。
アライアのくだらない野望から。
「世界を手に入れるためさ。ダリア達と一緒にね」
「え?」
衝撃的だった。
なんと、この計画を進めているのは、アライアだけではない。
確かに、ダリアと答えたのだ。
ダリアとアライアは、世界を手に入れる為に、ヴァルキュリア達を犠牲にしてきたというのであろうか。
カイリは、信じられず、体を震わせた。
「は、母上と?」
カイリは、声を震わせてしまう。
予想もしていなかったのだ。
まさか、ダリアまでもが、魔神を復活させようとしてなどとは。
彼女は、帝国を守ろうとしてきたのだから。
カイリには、そう見えていた。
それは、嘘だというのだろうか。
カイリは、信じたくなかった。
「そうか、まだ、気付いていなかったんだね。この計画は、私、一人で行っていたのではない。ダリア、コーデリアと共に、進めていた計画さ」
「っ!?」
アライアは、不敵な笑みを浮かべながら、答える。
まるで、カイリの事をあざ笑っているかのようだ。
信じられなかった。
なんと、姉のコーデリアまでもが、この計画を進めていたというのだ。
カイリは衝撃を受けた。
これは、悪夢だと、思いたくなるほどに。
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