第六十四話 封印
「あ、あの人は、一体……」
アマリアは、思考を巡らせる。
一体、何があったのか。
仮面の男性は、一体、何者だったのか。
だが、見当もつかない。
アマリアは、恐怖で、体が震えていた。
その時であった。
「うぅ……」
「フランクさん!!」
フランクがうめき声を上げる。
その声を聞いたアマリアは、はっと、我に返った。
気付いたのだ。
フランクが、重傷を負ったことに。
アマリアは、フランクの元へと駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「お、おう。しくじったぜ……」
アマリアは、固有技・ホーリー・キュアを発動し始める。
フランクの腕を治療し始めたのだ。
フランクの様子を見て不安に駆られるアマリア。
海賊の長であり、最強と言われていた彼が、右腕を切り落とされたという事は、暗殺者は、彼よりも、強いことになる。
そう思うと、アマリアは、恐怖で、体がすくみ上りそうになっていた。
フランクでさえも、困惑していたのだ。
まさか、自分が、右腕を切り落とされるとは、思いもよらなかったのであろう。
「アマリア、俺の事はいい。あいつを……」
「駄目です!!じっとしていてください!!」
フランクは、自分の事よりも、暗殺者を追う事を優先させようとした。
だが、アマリアが、フランクを放っておくはずがない。
重傷を負っているのだ。
このままでは、失血死してしまう可能性があるかもしれない。
ゆえに、アマリアは、治療を続けた。
フランクを叱咤して。
「すまねぇ……」
アマリアに叱咤されたフランクは、意識を失う。
限界が来ていたのだろう。
それほど、重傷を負ったという事だ。
アマリアは、そう、思い知らされた。
時間が経っても、右腕は再生しない。
治療を続けているというのに。
「どうして、どうして、治らないの!?」
アマリアは、混乱した。
確かに、右腕は切り落とされてしまったが、アマリアの力ならば、いとも簡単に再生できるのだ。
今までも、そうであった。
手足を切り落とされた帝国兵の治療に取り掛かった時も、彼の手足は、再生したのだから。
理由は、ただ、一つであった。
カイリが、まがまがしい力を発動してしまったのだ。
無意識のうちに。
ゆえに、フランクの右腕は、消滅してしまい、二度と、再生されなかった。
その事に気付いていないアマリアは、治療を続けていた。
だが、その時であった。
何者かが、部屋に入ってきたのは。
「っ!!」
アマリアは、怯え、振り向く。
だが、そこにいたのは、カイリであった。
「カイリ……」
カイリを目にしたアマリアは、安堵する。
本当は、泣きたいところだ。
だが、今は、泣いている場合ではない。
アマリアは、必死に涙をこらえていた。
部屋に入ったカイリは、目を見開き、動揺しているふりをしていた。
アマリアに、悟られないように。
「これは、何が……」
「わかりません。仮面の男が、彼らを、フランクさんを……」
「……」
カイリは、アマリアに問いかける。
知らぬふりをして。
だが、アマリアも、答えられなかった。
部屋に入ってきた時には、すでに、このような惨劇が起こっていたのだから。
カイリは、黙ってしまう。
罪悪感を感じているのだろうか。
何も知らないアマリアは、カイリの異変に気付いていた。
「カイリ、その腕は?」
「……仮面の男に斬られたんだ。剣を奪われてしまってな」
「……」
アマリアは、気付いたのだ。
カイリが、右腕に怪我を負っている事を。
問いかけられたカイリは、説明する。
仮面の男に、腕を斬られたのだと。
しかも、剣を奪われて。
アマリアは、絶句した。
まさか、カイリまでもが、暗殺者に斬られてしまったのかと。
その時であったが。
床が大きく揺れたのは。
「っ!!」
カイリとアマリアは、驚愕し、動揺する。
何が起こったのか、二人は、理解できていないのだ。
「な、何!?」
アマリアは、あたりを見回す。
まさか、帝国が、落ちてしまうのではないかと不安に駆られて。
だが、その時、地水火風の力が、部屋に漂ってきた。
「これは、まさか!!大精霊が!?」
「え!?」
カイリは、察してしまったのだ。
地水火風の力が、漂っているという事は、大精霊の身に異変が生じている事に。
アマリアも、驚愕しながらも、集中し始める。
力の原因を探るために。
「暴走してる、本当に?」
アマリアは、気付いてしまった。
大精霊が、暴走しているのだ。
予想外であった。
まさか、本当に、ダリアの言う通りになるとは思いもよらなかったのだ。
暴走しないでほしいと願っていたというのに。
――ユルサナイ。ユルサナイ。
――コロシタ。コロサレタ。
大精霊の声がカイリの頭に響いてくる。
まるで、怒りを露わにしているようだ。
――大精霊の声?まさか、私の事を……?
カイリは、察してしまった。
大精霊は、自分を憎んでいるのだ。
シャーマンを殺したから。
眠っていはずなのだが、気付いてしまったのだろう。
シャーマンが、何者かに殺された事を。
だからこそ、暴走してしまったのだ。
つまり、大精霊の暴走を引き起こしたのは、カイリであった。
「やらなければ、やらなければ……」
アマリアは、体を震わせながらも、歩み始める。
まるで、自分に言い聞かせているようだ。
大精霊を封印できるのは、自分しかいない。
ゆえに、やるしかなかった。
大精霊の暴走を止めるには、封印するしかないのだから。
「アマリア」
「止めないでください。これは、彼らの為です」
カイリは、思わず、アマリアを呼び止める。
アマリアの事を想うと、心が痛んだのだ。
アマリアを追い詰めてしまったのは、自分だ。
それは、わかっていた。
それでも、止めずにはいられなかった。
アマリアは、声を震わせながらも、カイリを諭す。
大精霊の為だと。
アマリアは、力を発動した。
アマリアの聖なる力は、大精霊の元へと向かっていく。
そして、大精霊は、聖なる力に包まれて、結晶の中へと封じられてしまった。
直後、揺れが収まった。
「暴走が、止んだ」
「ええ。封印は、成功しました」
揺れが収まったという事は、大精霊の暴走が止んだという事だ。
つまり、封印されたということになる。
アマリアは、息を吐いた。
心を落ち着かせるために。
「カイリ……」
アマリアは、カイリの名を呼んだ。
カイリは、恐る恐るアマリアの方へと視線を向けた。
その時、カイリは、目を見開いた。
なんと、アマリアは、泣いていたのだ。
「これで、良かったのでしょうか?」
「っ!!」
アマリアは、カイリに問いかけた。
自分のしたことは、正しかったのか。
カイリは、絶句した。
言葉が出てこなかったのだ。
アマリアは、本当は、封印なんてしたくなかった。
だが、やるしかなかったのだ。
大精霊の為だと、自分に言い聞かせて。
封印をさせてしまったのは、カイリだ。
シャーマンを殺したから、大精霊は、暴走した。
アマリアは、封印せざるおえなくなった。
そう思うと、カイリは、拳を握りしめ、震わせた。
自分を責めながら。
「……ああ」
カイリは、静かに、うなずいた。
肯定するしかなかったのだ。
否定すれば、アマリアを余計に傷つけてしまうのだから。
カイリは、後悔していた。
アマリアを巻き込んでしまった事を。
その後、帝国兵が、殺されたシャーマン達を見つけ、女帝・ダリアに報告。
もちろん、ダリアは、知っていた。
カイリに聞かされていたから。
シャーマンを殺したが、フランク、アマリアに見られてしまった事。
シャーマンを殺したがために、大精霊が暴走し、アマリアが、封印した事を。
ダリアは、帝国兵に命じ、シャーマンの葬儀を行う事となった。
シャーマン達の葬儀は、しめやかに行われた。
右腕を失ったフランクは、アライアにより、医学的な治療をしてもらったが、もう、腕は戻らないと、告げられる。
フランクは、ショックを受けていた。
当然であろう。
もう、前線に立つのは、難しいのだから。
それでも、受け入れるしかなかった。
ヴィクトル達は、シャーマン達を殺した暗殺者を探す事を決意したが、ダリアが、自分達が、探すと言って、彼らを帰還させたのだ。
追い出す形で。
もちろん、ダリアは、探すつもりなど、毛頭なかった。
翌日、カイリは、女帝の間へと足を運ぶ。
女帝の間には、ダリア、コーデリアがいた。
「暗殺は成功したみたいね」
「はい」
ダリアは、喜んでいるようだ。
シャーマン達の暗殺に成功したのだから。
と言っても、フランクとアマリアには、知られてしまったが、それでも、ダリアは、良しとした。
任務は、達成されたのだから。
カイリは、うなずくが、表情が暗い。
素直に喜べないのだ。
アマリアやフランク達の事を想うと。
「あの、大精霊は?」
「アライアが、管理しているわ。念のため、ね」
「そうですか……」
カイリは、ダリアに問いかける。
封印された大精霊は、どうなってしまったのだろうか。
行方不明と言う事になったが。
ダリア曰く、アライアに管理させているらしい。
封印が解けないように、見張らせるためであろう。
それを聞かされたカイリは、ますます、心が痛んだ。
「どうしたの?カイリ。何か、悩んでるの?」
「……」
コーデリアは、カイリに問いかける。
カイリの様子に気付いたようだ。
だが、カイリは、答えようとしなかった。
「悩みがあるなら、言ってごらんなさい」
ダリアは、カイリに語りかける。
まるで、母親を演じているかのように。
だが、カイリは、何も知らないため、重たい口を開けた。
「本当に、これでよかったのでしょうか?」
「あら、後悔しているの?」
「い、いえ……」
カイリは、ダリアに問いかける。
自分のしたことは、正しかったのかと。
逆に、ダリアは、聞き返した。
後悔しているのかと。
カイリは、否定するが、本当は、後悔していたのだ。
アマリアを傷つけてしまったのだから。
「貴方は、私達を、帝国を守ったのよ。正しい事をしたわ」
ダリアは、カイリに語りかける。
カイリのしたことは、正しかったのだと。
自分達を守ったのだから。
これで、妖魔は、生まれなくなる。
そう言いたいのであろう。
もちろん、真っ赤な嘘なのだが。
「ありがとう、カイリ」
ダリアは、カイリに感謝の言葉を述べた。
それは、まぎれもなく、本心だ。
なぜなら、カイリのおかげで、邪魔者がいなくなったのだから。
カイリが、ダリアの本性に気付くのは、まだ、先の事であった。
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