第五十九話 シャーマン達の目的
カイリとアマリアが、ルチア達とクロス達を支えたかいもあり、ルチア達はヴァルキュリアとして、クロス達は騎士として、活躍した。
そのおかげか、妖魔の出現が減少しつつあったのだ。
ダリアも、喜んでいる。
平和が時代が訪れるのではないかと、誰もが、期待して。
だが、その平穏を脅かす者達もいる。
ゆえに、カイリの孤独な戦いは、終わらなかった。
今夜も、ダリアとコーデリアの命を狙う帝国兵を暗殺しようとしたのだ。
そして、実行の時が来た。
突如、カイリに刺された帝国兵は、後退し、遠ざかる。
仮面をつけたカイリは、静かに、帝国兵へと迫った。
「だ、誰だ!!貴様は!!」
帝国兵は、怯えながらも、剣を構える。
実は、暗殺者の存在は、噂となっていたのだ。
カイリが、暗殺者になる事を決めた時から。
何者かが、闇に葬っているのではないかと。
暗殺者がいるのではないかと言う噂が広まっているのだ。
帝国兵は、ついに、自分が、狙われることとなったと悟った。
だが、時すでに遅し。
カイリは、帝国兵に迫り、短剣で、心臓を貫いた。
「かはっ!!」
帝国兵は、血を吐き、仰向けになって倒れる。
殺されたのだ。
カイリは、静かに、帝国兵に歩み寄った。
「ただの暗殺者だ」
殺された直後に、カイリは、答える。
自分の正体を。
そして、まがまがしい力を発動し、帝国兵を葬り去った。
翌日、帝国兵を殺したことを報告する為に、カイリは、ダリアの部屋を訪れていた。
「帝国兵・マキラの暗殺に成功しました。これで、平穏無事に暮らせるでしょう」
「ええ。助かるわ」
カイリは、帝国兵を殺したことを報告する。
その事を聞いたダリアは、安堵しているようだ。
これで、命を狙われずに済むと。
もちろん、ほんの一時的ではあるが。
カイリも、安堵していた。
ダリアとコーデリアを守れたのだ。
だからであろう。
だが、その時であった。
「あのね、カイリ」
「どうされましたか?」
ダリアが、申し訳なさそうに、カイリの名を呼ぶ。
一体、どうしたのだろうか。
カイリは、ダリアに問いかけた。
何か、問題が、起きたのではないかと、推測して。
「暗殺を引き受けていただけないかしら?」
「命を狙われているのですか?」
ダリアは、暗殺を依頼したのだ。
こんなことは、初めてだ。
いつもであれば、カイリが、情報を集めて、暗殺している。
もちろん、ダリアとコーデリアに誰が命を狙っているのか、報告して。
ダリアは、誰かに命を狙われた事に、気付いているのだろうか。
問いかけるカイリであったが、ダリアは、首を横に振った。
「いいえ、違うわ。でも、帝国の平和を脅かす奴らがいるのよ」
「承知いたしました。今度は、どなたを?」
ダリア曰く、平和を脅かす者がいるという。
そんな奴らを見逃せるはずがない。
カイリは、殺す事を決意し、誰を殺せばいいのかと、問いかけた。
「地水火風のシャーマンよ」
「え?」
衝撃的であった。
なんと、平和を脅かす者と言うのが、エデニア諸島の地水火風のシャーマンだというのだ。
カイリは、困惑していた。
「な、なぜ、彼らが?」
カイリは、体を震わせながら、問いかける。
信じられないのだろう。
シャーマンが、平和を脅かしているなどと。
カイリが知っているシャーマンは、島の事、帝国の事を考えているのだ。
だからこそ、大精霊と共に、島を守ってきた。
だというのに、なぜ、彼らを殺せと命じたのだろうか。
「信じられないでしょうけど、妖魔が、生み出されたのは、彼らのせいらしいの」
「か、彼らが?」
「ええ。アライアから報告を受けたの。間違いないと思うわ」
ダリアは、説明する。
なんと、妖魔を生み出しているのが、シャーマン達だというのだ。
にわかに信じがたい話だ。
だが、母親であるダリアの事は、信じたい。
カイリは、葛藤していた。
さらに、ダリアは、アライアから、情報を得たという。
天才研究者であるアライアが、その情報を得たのだ。
ダリアも、信じるしかないのだろう。
「ですが、どうやって……」
「どうやら、大精霊と妖魔を生み出しているようなの。禁術を使ってね」
「そんな……」
カイリは、困惑していた。
仮に、シャーマン達が、妖魔を生み出しているとしたら、どうやってだというのだろうか。
ダリアは、静かに、答える。
大精霊の力を使って、妖魔を生み出しているのだと。
禁術と言うが、カイリは、聞いた事がない。
ゆえに、愕然としていた。
「その禁術がこれよ」
ダリアが、書類をカイリに見せる。
それは、禁術の事が詳しく書かれてあった。
「なっ!!」
書類に目を通したカイリは、衝撃を受ける。
そして、体を震わせ始めたのだ。
信じられないのか、それとも、怯えているのか。
カイリ自身でさえも、不明であった。
「お互いの力を使って、命を生み出す禁忌術……」
「ええ」
シャーマンと大精霊が、編み出した禁術とは、お互いの力を掛け合わせて命を生み出す事だ。
人や精霊を生み出そうと実験をしていたようだ。
だが、失敗に終わり、妖魔が生み出されてしまった。
不完全な生命体として。
それでも、シャーマンと大精霊は、実験を続けている。
完全な命を生み出すために。
たとえ、妖魔が、人や精霊の命を奪う存在だとわかっていても。
と、アライアの報告書には、そう記載されていた。
「どうやって、この情報を入手したのですか?」
「それは言えないらしいのよ。情報漏れを防ぐためにもね」
「……」
確かに、詳しく記載されているが、このような機密事項をどうやって手に入れたのだろうか。
そもそも、情報が漏れる事があるのだろうか。
カイリは、多少、違和感を覚えたようだが、ダリアは、答えない。
シャーマン達に、知られたくないのだ。
情報を手に入れたなどと。
「私達の命を狙っている可能性もあるってアライアが話していたわ」
「え?」
ダリアは、さらに、真実を打ち明ける。
先ほど、命を狙われているわけではないと、首を横に振ったダリアであったが、狙われている可能性がないとは言っていない。
だが、それでも、カイリは、信じられなかった。
なぜ、シャーマン達が、ダリアとコーデリアの命を狙っているのか。
「帝国を手に入れようとしているかもしれないわね」
ダリアは、推測しているようだ。
なぜ、シャーマン達が、自分達の命を狙っているのか。
帝国を自分のものにしたいのかもしれないと。
本当に、そうなのだろうか。
カイリは、未だ、信じられずにいた。
「近々、シャーマンと大精霊を呼ぶつもりなの。緊急会議を開きたいってね」
「その日の夜に、彼らを殺せと?」
ダリアは、話を続ける。
シャーマンと大精霊をこの帝国に呼び寄せるつもりのようだ。
実は、エデニア諸島では、妖魔が、出現している。
それも、頻繁に。
その問題を解決するための会議だと言ってしまえば、シャーマンと大精霊は、来るであろう。
問題を利用して、シャーマンと大精霊をカイリに、殺させようとしているようだ。
カイリは、そう察し、問いかける。
「殺すのは、シャーマンだけでいいわ」
ダリアは、大精霊を殺す必要はないと、語る。
なぜ、シャーマンだけなのだろうか。
カイリは、ますます、理解できなかった。
「お願いよ、カイリ。私達を守って」
「……少し、考えさせてください」
「わかった。ゆっくり、考えてちょうだい」
「……はい」
ダリアは、カイリに懇願する。
自分とコーデリアを守ってほしいと。
そう言えば、カイリは、承諾すると思っているのだろう。
だが、カイリは、承諾することはなかった。
少し、考えたいと懇願したのだ。
まだ、混乱しているのだろう。
ダリアは、承諾した。
カイリは、うなずき、部屋を後にした。
ダリアを残して。
その時であった。
「おやおや、信じてもらえないようですね」
アライアの声が聞こえる。
誰もいないはずなのに。
だというのに、ダリアは、驚きもせず、笑みを浮かべている。
最初から、知っているかのようだ。
すると、アライアが、ダリアの前に、姿を現す。
魔法で、姿を見えなくしていたようだ。
「これも、予想通りよ。後は、任せるわ。アライア」
「かしこまりました」
カイリは、承諾しなかった。
真実を受け入れられず。
だが、それすらも、ダリアにとっては、予想通りだったようだ。
カイリの性格を知ってのことだろう。
と言っても、このままでは、カイリが、承諾しない可能性もある。
ゆえに、後の事は、アライアに任せることにしたダリア。
アライアも、笑みを浮かべて、うなずいた。
その日の夜、カイリは、部屋で思考を巡らせている。
シャーマン達の事を考えているのだろう。
――本当に、彼らが、そんな事をしているのだろうか……。
カイリは、信じられないようだ。
当然であろう。
シャーマン達も、大精霊達も、島を守るために、結界を張り、島の民を守り続けてきたのだ。
そんな彼らが、妖魔を生み出しているとは到底思えなかった。
だが、ダリアが、嘘をついているとも思えない。
何が真実なのか、カイリは、理解できず、混乱していた。
その時だ。
ノックの音が聞こえてきたのは。
「はい」
カイリは、警戒しながらも、扉を開ける。
すると、アライアが、扉の前に立っていた。
「やぁ」
「アライア」
「少し、話がしたいんだ。部屋に入っていいかな?」
アライアは、カイリに尋ねる。
話がしたいと。
この時、カイリは、まだ、知らなかった。
ダリアが話したことも、アライアが部屋に来たのも、カイリを騙すための、巧妙な手口であった事に。
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