第五十八話 見守り、導く者

 カイリが、暗殺者になると決意を固めてから、約百三十年の月日が経った。

 精霊人であるカイリとアマリアは、長寿ではあるが、その姿は、若い青年と女性のままだ。

 精霊人でも、老いていく。

 百三十年もたてば、ダリアや先代の皇帝のように。

 だが、彼らは、二十代のように見える。

 やはり、彼らは、特別なのだろうか。

 カイリも、アマリアも、自分の正体が、わかっていないのだが、婚約破棄した今でも、カイリとアマリアの関係は良好だ。

 仲のいい兄弟のように。

 もちろん、最初は、ギクシャクしたが、ダリアとコーデリアが、二人の事を気にかけ、少しずつ、溝を埋めてくれたのだろう。

 罪悪感を感じていたのだ。

 そんなある日の事、カイリは、女帝の間に、呼びだされた。

 カイリが、暗殺者になると決めた直後、ダリアは、女帝に即位したのだ。

 カイリとコーデリアの為に。

 女帝の間にはコーデリアもいた。


「最近、女の子が施設に入ったんですね」


「ええ。それも、精霊人達よ」


「精霊人、と言うことは……」


 ダリアは、カイリに、新しい孤児の事を話していたようだ。

 それも、少女であり、精霊人だと。

 新しい孤児は、三人いる。

 一人は、雷の精霊人だ。

 後二人は、姉妹であり、華の精霊人であった。

 ルチア達の事をダリアは、カイリに語っていたのだ。

 「精霊人」と言う言葉を耳にしたカイリは、あることを察した。


「そっ。ヴァルキュリアになれる可能性が高いって事」


「だから、ちょっと、偵察に行ってほしいの。アマリアと一緒にね」


「はい。かしこまりました」


 コーデリアは、答える。

 彼女達が、精霊人であるという事は、ヴァルキュリアになれる可能性があるのだ。

 ダリアは、カイリとアマリアに彼女達の様子を見に行ってくるように、依頼する。

 もちろん、カイリは、断るつもりはない。

 依頼を受け入れた。



 アマリアと合流したカイリは、遠くから施設の中を伺いに行った。


「ここに、いるんだな」


「そうみたいですね」


 ガラス越しに、少女達の様子を伺うカイリとアマリア。

 すると、元気に遊んでいる少女達を目にした。


「元気ですね」


「ああ」


「でも、皆、妖魔のせいで……」


 少女達は、本当に、元気だ。

 両親を亡くしたというのに、懸命に生きている。

 カイリとアマリアは、そう思うと、心が痛んだ。

 妖魔さえいなければ、両親が、命を落とす事もなかったのだろうと。


「だからこそ、私達が、守らなければならないんだ」


「ええ」


 確かに、妖魔のせいで、両親は命を落とした。

 だからこそ、守らなければならない。 

 カイリは、そう、決意を固めているようだ。

 アマリアも、静かにうなずいた。

 彼女達を守ろうと。

 その時であった。


「あ」


 アマリアが、何かに気付いたようで、呟く。

 カイリは、中の様子を伺うと、ピンクの髪の少女と紫の髪の少女が、楽しそうに、遊んでいた。

 その二人の少女が、ルチアとヴィオレットだったのだ。


「あの子達、でしょうか?」


「そうみたいだな」


 カイリとアマリアは、気付いた。 

 あの二人が、精霊人であると。

 もう一人は、まだ、見当たらない。

 それでも、二人の少女は、楽しそうに、遊んでいた。

 まるで、姉妹のように。


「仲がいいですね。まるで、姉妹みたい」


「あの子達が、ヴァルキュリアになるのかもしれないな」


 本当に、仲のいい姉妹のようだ。

 遠くからではあるが、あの二人の力を感じ取れる。

 ヴァルキュリアになれるのではないかと、思うほどに。

 カイリは、期待していた。

 彼女達なら、希望になってくれると。


「でも、もし、ヴァルキュリアになったら……」


「そう、だな……。神様に、魂を……」


 アマリアも、同じことを思っているようだ。

 だが、不安に駆られている。

 ヴァルキュリアになるという事は、最後に、魂を捧げることになるだ。

 神を復活させるために。

 それは、死を意味する。

 過酷な戦いを強いて、しかも、死して、魂を差し出せなど、酷な事だ。

 カイリも、アマリアも、それを何度も見ている。

 何度も、心が痛んだ。

 それでも、自分達に言い聞かせていたのだ。

 神を復活させるためだと。


「見守ろう。彼女達を」


「ええ」


 カイリは、決意を固めた。

 二人の少女達を見守ろうと。

 そして、できる限りの事はしようと。

 アマリアも、強くうなずいた。

 彼女達の支えになろうと。

 その時であった。


「やあ。来てたのかい?」


 女性の声が聞こえる。

 カイリとアマリアは、誰の声なのか、知っている。

 ゆえに、警戒せず、ゆっくりと、振り向く。

 彼らの背後には、なんと、アライアが立っていた。


「アライア」


 アライアの名を呼ぶカイリ。

 アライアとは、幼い頃に知りあったのだ。

 もちろん、ダリアの紹介で。

 アライアは、笑みを浮かべて、手を上げる。

 まるで、姉のように。


「彼女達ね。なかなかいい力を持っているようだよ」


「やはり、あの子達が」


「うん」


 アライアは、カイリとアマリアに語る。

 いい力と表現しているが、おそらく、強い力、と言いたいのだろう。

 カイリは、確信を得た。

 やはり、少女達は、ヴァルキュリアになれるのではないかと。

 アライアも、確信を得ているようで、静かに、うなずいた。


「ダリア女帝には、話をしてある。そのうち、動きがあるだろうね」


 アライアは、二人の事は、ダリアに話してあるようだ。

 ゆえに、ダリアが行動を起こすと踏んでいるらしい。

 何をするつもりなのだろうか。

 カイリも、アマリアも、見当がつかない。

 アライアは、推測しているようで、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 カイリ達に、語ろうとはしなかったが。



 それから、数日後、カイリとアマリアは、ダリアに、呼ばれ、女帝の間へと入る。

 すると、ダリアが、アマリアに、ある依頼をした。


「え?あの子達と、ですか?」


「ええ。一緒に、暮らしてあげてほしいの」


 アマリアは、驚愕し、動揺する。

 ある依頼とは、ヴァルキュリア候補になるルチア、ヴィオレットと共に暮らしてほしいという依頼だったのだ。

 これには、さすがのカイリも、驚きを隠せなかった。

 アライアが、動きがあるとは言っていたが、予想もしてないことだったからだ。


「ヴァルキュリア候補は、ヴァルキュリアの元で、修行することになっていると思いますが」


 アマリアは、戸惑いながらも、問いかける。

 ヴァルキュリア候補は、本来、ヴァルキュリアの元で、暮らし、修行することになっているのだ。

 だというのに、なぜ、ルチアとヴィオレットは、アマリアと共に王宮で暮らすことになったのだろうか。

 アマリアは、見当もつかなかった。


「確かにそうよ。でもね、アライアから、聞いたわ。彼女達は、特別だと」


「特別」


「ええ。貴方のような力を持っているかどうかは、わからないけど」


 ダリアは、理由を明かす。

 アライアから聞いているのだ。

 ルチアとヴィオレットは、特別な力をその身に宿していると。

 詳しくは聞いていないが、他のヴァルキュリア達とは違う強い力だ。

 アマリアに似た力なのかは、不明だが。


「だから、王宮で暮らしてほしいの。ここなら、安全だからね。お願いできるかしら」


「はい」


 特別な力を持っている彼女達は、大事に育てたい。

 ダリアは、そう思っているのだ。

 もちろん、ヴァルキュリアの元で暮らす事も考えたが、より、安全である王宮の方がいいと、最終的には判断した。

 ダリアは、再度、アマリアに、懇願する。

 もちろん、断る理由はない。

 アマリアは、依頼を受け入れた。


「カイリには、ルーニ島に行ってほしいの」


「ルーニ島にですか?」


「ええ」


 カイリには、ルーニ島に行ってほしいと、依頼する。

 だが、なぜ、ルーニ島なのだろうか。

 ルーニ島は、エデニア諸島の中でも、最も、結界が強く、安全だと言われているのに。

 もちろん、妖魔が出現する事は稀にあるが。


「ルーニ島に、光と闇の双子がいる事は、知っているかしら?」


「はい」


 ダリアは、カイリに問いかける。

 ルーニ島には、強い双子がいるのだ。

 光属性と闇属性の双子が。

 もちろん、カイリも、知っていた。

 強い力を宿している双子がいると。


「あの子達は、騎士になる可能性が高いわ」


「そうだったんですか」


「ええ」


 ダリアは、アライアから聞いている。

 その双子も、騎士になる可能性が高いと。

 カイリにとっては、初耳だ。

 ゆえに、期待していた。

 その双子が騎士になってくれることを願って。


「けど、あの子達の命を妖魔が、狙っているらしいの」


 ダリア曰く、妖魔が双子の命を狙っているらしい。

 やはり、強いからであろう。

 妖魔にとっては、ヴァルキュリアも、騎士も、邪魔なのだ。

 だからこそ、双子の命を狙っているのだろう。


「だから、あの子達を守るためにも、ルーニ島にもらいたいのよ。騎士は、ヴァルキュリアを守るために存在するのだから」


 ダリアは、願っているのだ。

 カイリに双子を守ってい欲しいと。

 騎士は、ヴァルキュリアを守る力がある。

 だからこそ、騎士は誕生しなければならないのだ。

 双子の為にも、ヴァルキュリアの為にも、カイリを派遣し、守ってもらいたいと、ダリアは、強く願っていた。


「かしこまりました」


 もちろん、カイリは、断るつもりはない。

 ダリアの依頼を受け入れたのだ。

 こうして、カイリは、幼い双子、クロスとクロウと出会う事となり、二人を、騎士へと導いたのであった。

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