第五十六話 仮面の暗殺者
カイリは、叫び声のする方へと駆けていく。
ダリアとコーデリアのいる部屋へと向かっているのだ。
背後から、帝国兵達も、走っている。
危機を察したのだろう。
だが、帝国兵よりも早く、カイリが、二人がいる部屋にたどり着き、扉を開けた。
「母上!!姉上!!」
「「カイリ!!」」
部屋へと入るカイリ。
そこには、ダリア、コーデリア。
そして、仮面をかぶった男性が、二人に剣を向けていた。
「ちっ」
仮面の男は、舌打ちをする。
もし、カイリが、部屋に入ってこなければ、ダリアとコーデリアを殺していたのだろう。
間一髪と言ったところだ。
「貴様、何者だ!!」
「教えるつもりはない!!」
カイリは、剣を鞘から引き抜き、構える。
だが、仮面の男は、正体を明かすつもりはないようだ。
すぐさま、床を蹴り、カイリに斬りかかる。
カイリは、剣で、受け止めるが、仮面の男は、すぐさま、体をよじらせ、薙ぎ払うように、剣を振るう。
カイリは、後退して、回避するが、ギリギリのところだった。
「こいつ、強い!!」
「さすがだな。これは、少々、骨が折れそうだ」
カイリは、思わず、舌を巻く。
剣術は、自分よりも、上のようだ。
だが、仮面の男は、カイリを、殺すことができなかった。
それは、カイリの身体能力が、高いという事であろう。
仮面の男にとって、一筋縄ではいかない。
だというのに、仮面の男は、笑みを浮かべていた。
まるで、余裕だと言わんばかりに。
「だが、お前達も、葬ってやろう。あの男のように」
「まさか、お前が……」
仮面の男は、事実を明かす。
なんと、皇帝を殺したのは、この男のようだ。
カイリは、そう、推測するが、仮面の男は、一瞬にして、間合いを詰め、カイリに、斬りかかった。
「くっ!!」
カイリが、剣を前に出し、受け止める。
だが、カウンターを発動する事できず、吹き飛ばされてしまったのだ。
どうやら、買面の男は、腕力もあるようだ。
ダリアとコーデリアは、体を震わせている。
恐怖で、体が動かないのだろう。
傷を負ったカイリであったが、立ち上がる。
ダリアとコーデリアを守るために。
――こいつが、父上を……。
カイリは、仮面の男と死闘を繰り広げる。
死闘の中で、怒りが込み上げてきたのだ。
この男のせいで、皇帝が殺されたと思うと。
「許さない」
カイリは、感情を抑えきれなくなった。
その時だ。
カイリの体からまがまがしい力があふれ出たのは。
だが、カイリは、気付いていない。
無意識のうちに、出しているのだろう。
あっけにとられ、体が硬直してしまう科面の男。
カイリは、その隙を突いて、仮面の男を切り裂いた。
「かはっ!!」
仮面の男は、血を吐いて、仰向けになって倒れる。
一撃で仕留めたようだ。
カイリは、肩で、荒い息を繰り返しながら、仮面の男へと歩み寄った。
「一体、何者だったんだ……」
カイリは、仮面を外す。
正体を知るために。
だが、素顔を目にしたカイリ達は、目を見開き、驚愕した。
「なっ!!」
「へ、兵長!?」
「そんな……」
なんと、皇帝を殺し、ダリアとコーデリアの命を狙ったのは、当時の兵長だったのだ。
カイリ達を守る立場でありながら、皇帝の座を狙っていたのだろう。
「なんという事だ……。まさか、兵長が……」
カイリが、愕然とした。
予想していなかったのだ。
まさか、兵長が、自分達の命を狙っていたとは。
その後、兵長が、皇帝を殺したことは、大臣にだけ告げられた。
混乱を招かないように。
ダリアは、兵長は、暗殺者に殺されたと発表し、火葬した。
証拠を残さないように。
だが、カイリ達の心は深い傷を負っていた。
信じていた者が、裏切っていたのだ。
当然であろう。
「まさか、兵長が、あの方を殺したなんて……」
「ねぇ、これから、大丈夫かしら?私達……また、殺されたりしないわよね?」
「……」
ダリアは、愕然としている。
今でも、信じられないのだろう。
兵長が、自分達の命を狙っていたとは。
コーデリアは、ダリアに問いかける。
本当に、自分達は、安心して、過ごせることができるのかと。
また、命を狙うものは、いないのだろうかと、不安に駆られているのだ。
だが、ダリアは、答えられなかった。
「心配いりません」
「え?」
「私が、お二人をお守りします。必ず」
「カイリ……」
不安がる二人に対して、カイリは、優しく、語りかける。
これからは、皇帝の代わりに、自分が守っていくと。
心の底から、誓ったのだ。
誰も、殺させはしないと。
それ以降、ダリアとコーデリアは、命を狙われた。
その度に、カイリが、殺したのだ。
彼女達を殺そうとしていたのは、常に、内部の者であった。
――殺しても殺しても、キリがない。あの二人は、常に狙われている。どうにかしなければ……。
廊下を歩くカイリは、思考を巡らせていた。
何度も何度も、殺した。
命を奪ったのだ。
ダリアとコーデリアを守るために。
だが、彼女達は、常に狙われている。
どうすれば、彼女達が、安心できる日が来るだろうか。
カイリは、苦悩していた。
その時であった。
「カイリ?」
「アマリア」
「大丈夫ですか?」
アマリアが、カイリに声をかけてきたのだ。
カイリの様子に気付いたのだろう。
いつも違うと。
だからこそ、問いかけたのだ。
「私は、大丈夫だ」
「本当に、ですか?」
「ああ、心配いらない」
「なら、いいんですが……」
カイリは、大丈夫だと、答える。
アマリアに悟られないように。
知られたくないというのもある。
あまり、心配させたくないのだ。
それに、誰かが、どこで、聞いているか、わからない。
警戒しているのだろう。
「それじゃあ」
「ええ」
これ以上、心情を悟られないように、カイリは、アマリアから遠ざかる。
それでも、アマリアは、心配していた。
カイリが、無理をしていないかと。
アマリアと別れたカイリは、歩き続ける。
思考を巡らせながら。
――どうすれば、あの二人を、守れるんだ……。
カイリは、苦悩していた。
どうすればいいのかと。
いい方法が、見つからないのだ。
だが、その時であった。
「やっぱり、カイリ皇子が、邪魔ですな」
「本当にな」
部屋から声が聞こえる。
小さな部屋だ。
その声は、大臣や帝国兵の声だ。
「ん?」
カイリは、立ち止まり、聞き耳を立てる。
それも、周囲に警戒しながら。
何か、話しているようだ。
しかも、自分達の事だ。
嫌な予感がして、カイリは、息をひそめながら、会話を聞いていた。
「皇族を殺せば、帝国は、我々のものだというのに」
「なんとか、できないものだろうか」
「どうにかして、暗殺しなければな」
嫌な会話が聞こえる。
なんと、彼らは、自分達の命を狙っていたのだ。
カイリは、誰にも気付かれないように、そっと、扉を開ける。
よく見えないが、大臣や帝国兵達、数名が、部屋にいた。
――あいつらが、母上と姉上を……。
カイリは、怒りを露わにした。
皇帝を殺させ、ダリアとコーデリアの命を狙っていたのは、彼らだったのだ。
自分達が、皇帝になるために。
そう思うと、カイリは、憤りを感じた。
殺したいと思うほどに。
――どうする?あれだけの者達をどうやって……。
カイリは、扉を閉め、思考を巡らせる。
どうすれば、あの部屋にいる者達を全員、殺せるのか。
早く、対策を練らねば、ダリアとコーデリアが、殺されてしまうのだ。
愚かな者達の手によって。
「深夜、もう一度、ここに集まろう」
「そうだな」
大臣は、深夜に、この部屋に集まる事を提案した。
対策を練るためなのか、それとも、ダリアとコーデリアを殺すためなのかは、定かではないが。
この情報は、貴重だ。
おそらく、ダリアとコーデリアを守るためには、重要な情報であろう。
――深夜、あいつらが、集まる。その時に、殺さなければ……。
カイリは、部屋から遠ざかりながら、決断を下した。
深夜、あの部屋にいる者達を全員、殺す事を。
その日の夜。
カイリは、気配を消しながら、廊下を歩いている。
それも、仮面を手にして。
大臣達を殺そうとしているのだ。
ダリアとコーデリアの為に。
――気付かれないようにしなければ。私は、暗殺者。暗殺者だ。
カイリは、仮面をつけた。
自分は、皇子ではなく、暗殺者だと言い聞かせながら。
その頃、大臣達は、作戦を練っていた。
カイリを殺す作戦を。
だが、彼らは、知らない。
カイリが、情報を手にし、殺そうととしている事を。
作戦会議が終了したのか。
大臣達は扉を開ける。
だが、その時であった。
扉を開けた途端、金髪の仮面の男性が、立っていたのは。
あっけにとられ、体を硬直させてしまった大臣。
金髪の仮面の男性が、大臣を押しのけながら、短剣で、大臣の心臓を刺した。
「ぐはっ!!」
大臣は、血を吐き、仰向けになって倒れる。
殺されたのだ。
それも、一瞬で。
金髪の仮面の男性は、ゆっくりと扉を閉めた。
気付かれないように。
「な、何者だ!!」
部屋にいた者は、警戒し、鞘から剣を抜く。
金髪の仮面の男性は、答えなかった。
だが、彼は、カイリだ。
カイリが、暗殺者として、この部屋に乗り込んだのであった。
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