第五十三話 再会の果てに
数日後、神魂の儀が、行われることとなった。
クロスとクロウは、カレンに頼んで、王宮に泊まり込んでいた為、事前に情報を得ていたのだ。
と言っても、前日には、追い出されてしまい、王宮エリアの街の宿で、一晩過ごす事となった。
それでも、情報を得る事はできた。
カイリの居場所も。
故に、クロスとクロウは、王宮まで向かっていた。
カイリを殺す事を誓って。
だが、それは、敵わなかった。
なぜなら、王宮の前に、人だかりができていたのだ。
しかも、ほとんど貴族であった。
「押さないでください。今日は、王宮は入れません」
「どうしてよ。私は、ヴァルキュリア様に用があるのよ」
「私もよ」
「どうしてもです」
門の前に帝国兵が立っている。
それも、何人も。
王宮エリアは、閉まっているようだ。
貴族は、王宮エリアに入ろうとしたが、入れてはもらえない。
帝国兵は、理由も語ろうとしなかった。
いや、知らないのだろう。
なぜ、門を閉めなければならないのか。
「入れなくなってるのか?」
「儀式を行うからか……」
「よほど、知られたくないようだな」
「ああ」
クロスとクロウは、察していた。
なぜ、入れなくなってしまったのか。
儀式を行うためであろう。
誰にも、知られたくないようだ。
となれば、ダリア達が行う儀式は、自分達にとって、世界にとって、良くないことなのかもしれない。
そう思うと、クロスとクロウは、憤りを感じた。
今まで、彼女達は、騙していたのだから。
「ここに泊まれなくなったのも、儀式のせいだろうな」
前日、追い出されたのも、儀式のせいだと確信した二人。
だが、ここから、王宮に侵入する事は不可能であろう。
「強行突破は、難しそうだ」
「どうする?」
クロウは、強行突破を考えていたが、それすらも、不可能だと、判断する。
ならば、どうするつもりだろうか。
クロスは、クロウに問いかけた。
「地下に入れれば、うまく、侵入できるかもしれないな」
「ああ」
クロウは、地下から入る事を提案した。
王宮には、皇族専用の入り口があるとカイリから聞いたことがある。
場所も、こっそり、聞いたことがあるのだ。
その地下を通って、魔方陣の元へたどり着き、島に来ていたらしい。
それを覚えていたクロスとクロウは、地下の入り口を探した。
カイリに教えてもらった地下の入り口にたどり着いたクロスとクロウ。
もちろん、その入り口にも、帝国兵がいる。
念のため、見張りをさせられたのであろう。
クロスとクロウは、その帝国兵を気絶させ、地下へと侵入した。
その後、クロスとクロウは、王宮の広場へとたどり着く。
もちろん、帝国兵に気付かれないように。
「なんとか、入れたか」
「けど、ここからは、慎重に行かないとな」
クロスとクロウは、あたりを見回す。
広場は、帝国兵が多い。
異様に。
まるで、警戒しているようだ。
よほど、侵入させたくないらしい。
クロスとクロウは、帝国兵に気付かれないように、慎重に進んだ。
だが、進むにつれて、帝国兵が、あわただしくなっていく。
まるで、何かがあったかのように。
「なんだ?騒がしくないか?」
「そうだな」
クロスとクロウは、気付いたようだ。
なぜ、あわただしくなったのか、理由は、不明だ。
自分達が、侵入した事が知られてしまったのだろうか。
息を飲むクロスとクロウ。
ここからは、帝国兵を蹴散らさなければならないのではないかと、推測して。
「早く、探せ!!なんとしてでもだ!!」
帝国兵達は、走り回っている。
誰かを探しているのは、わかったが、一体、誰なのだろうか。
自分達なのか、それとも、別の人物なのか。
クロスとクロウは、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。
「一体、何が起こってるんだ?」
「わからない」
クロスとクロウは、困惑している。
王宮内で何かが起こっているのだと、推測したのだ。
だからこそ、あわただしくなっている。
自分達が、侵入したからではないようだ。
と言っても、油断は、禁物だ。
クロスとクロウは、慎重に進み、王宮に侵入しようとした。
だが、その時であった。
「お前達、何をしている!!」
「っ!!」
男性の声が聞こえる。
気付かれてしまったようだ。
クロスとクロウは、立ち止まり、振り向いた。
彼らの背後には、帝国兵が立っていた。
だが、クロスとクロウを目にした瞬間、帝国兵も、目を見開き、立ち尽くしていたのだ。
「なぜ、騎士様が、ここに?」
「……」
帝国兵は、困惑している。
予想もしていなかったのだろう。
まさか、騎士であるクロスとクロウが、王宮に入り込んだなどと。
王宮から追い出したはずなのに。
クロスとクロウは、答えられず、黙っていた。
その時だ。
王宮から、光が爆発するかのように、放たれたのは。
「あ、あれは!!」
帝国兵は、体を震わせて、見上げる。
クロスとクロウもだ。
光は、輝き、何度も、放たれている。
まるで、光が、暴走しているようだ。
クロスとクロウは、そう思えてならなかった。
「なんだ?何が起こっているんだ?」
クロウは、困惑する。
王宮で何が起こっているのか、見当もつかないのだ。
想像がつかないほどに。
「まさか、あの暗殺者が、また、何かしたというのか?」
「暗殺者?」
帝国兵が、困惑したまま、呟く。
しかも、「暗殺者」と。
クロウは、「暗殺者」に反応する。
それも、怒りに駆られたかのように。
クロウは、感情を抑えきれず、帝国兵の胸倉をつかんだ。
「うわっ!!」
帝国兵は、目を見開き、驚愕する。
抵抗を試みるが、クロウの手を振りほどくことはできなかった。
「暗殺者が、何をした!?答えろ!!」
クロウは、声を荒げる。
このままでは、クロスとクロウも、見つかってしまう。
だが、それどころではなかったのだ。
帝国兵は、暗殺者の事を知っている。
「また」と発言したという事は、すでに、暗殺者が、何かをしたという事だ。
だからこそ、クロウは、問いただした。
「け、研究者のアライアを殺したんだ」
「何?」
帝国兵が、身の危険を感じて、正直に、答える。
それも、声を震わせて。
なんと、研究室長のアライアを殺したというのだ。
クロウは、目をひそめた。
なぜ、暗殺者が、アライアを殺したのかは、不明だが。
何かを企んでいるのかもしれない。
「奴は、どこにいる?」
「わからない……」
今度は、クロウが、問いただす。
暗殺者の居場所を。
だが、帝国兵は、首を横に振った。
それも、必死に。
暗殺者は、どこに逃げたのかすら、わからないのだろう。
アライアが殺されたことしか知らされていないのだ。
クロウは、苛立ったのか、舌打ちをしながら、帝国兵を解放し、そのまま、手刀で、首を打ち、気絶させた。
「行くぞ、クロス!!」
「ああ」
クロスとクロウは、先を急ぐ。
帝国兵よりも、先に、暗殺者であるカイリを殺すために。
王宮の中には、入らず、広場や庭を駆け巡るクロスとクロウ。
堂々と、王宮の中に入るとは思わなかったからだ。
だが、暗殺者は、見つからない。
もしかしたら、皇族だけが、知っている地下へもぐりこんだ可能性もある。
クロスとクロウは、再度、地下へ戻り、カイリを探した。
その時であった。
「あれは……」
クロスとクロウは、目撃した。
ボロボロのフードをかぶった者を。
しかも、王宮の方へと目指していた。
彼を目にした二人は、違和感を抱いた。
皇族だけが知っている地下を見ず知らずの者が、通っているなど。
それも、怪我を負っているのか、足を引きずっている。
ゆえに、クロスとクロウが、フードをかぶった者が、誰なのか察した。
「カイリ!!」
クロウが、怒りに駆られて、その者の名を呼ぶ。
フードをかぶった者は、驚いたように、びくっと、体を跳ね上がらせ、振り向いた。
その者は、金髪に、仮面をつけていた暗殺者だったのだ。
「お、お前達、どうして……」
暗殺者は、驚愕し、動揺している。
予想もしていなかったのだろう。
まさか、クロスとクロウが、王宮に入り込み、自分の名を呼ぶとは。
クロスとクロウは、立ち止まり、にらんでいる。
まるで、怒りを抑えきれないかのようだ。
「やはり、暗殺者は、お前だったんだな。カイリ……」
クロウは、悟っていた。
彼の様子からして、わかってしまったのだ。
やはり、目の前にいる暗殺者は、カイリなのだと。
暗殺者は、すっと、仮面を外した。
その素顔は、間違いなく、カイリであった。
クロスとクロウの予想通り、カイリが、暗殺者だったのだ。
「なぜ、わかった……」
「右腕に怪我してるだろ?あれは、暗殺者に斬られたんじゃない。フランクに斬られたんだ。違うか?」
カイリは、クロスとクロウに問いかける。
なぜ、自分が暗殺者だと、知ったのか。
クロウは、静かに答えた。
だが、声は、震えている。
怒りを抑えているのだ。
必死に。
アマリアは、カイリが、暗殺者に腕を斬られたと言っていた。
だが、腕を斬ったのは、暗殺者ではない。
フランクだ。
フランクが、カイリの右腕を切ったのだ。
それに、気付いたクロウは、確信を得た。
カイリが、暗殺者だと。
「それに、金髪で、紋章を持ってる奴なんて、カイリくらいしか、思い当たらないよ。今、持ってないでしょ?落としたから」
「……知られてしまったか」
二人は、薄々、気付いていたのだ。
暗殺者は、金髪で、仮面をつけていると聞かされた時から。
しかも、紋章を持っている者など、少ない。
だからこそ、気付いてしまったのだ。
カイリしかいなかったと。
二人は、カイリが、今、紋章を持っていない事も、知っていた。
フランクとの戦いで、落としたのだから。
カイリは、観念した。
もう、隠し通せないと。
「そうだ。私が、暗殺者だ」
カイリは、二人に、正体を明かした。
自分が、シャーマンを殺した暗殺者である事を。
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