第四十三話 再会を願いながら

「そこまで、見抜かれてたんだ」


「へぇ、やるじゃない」


 クロウの言葉を聞いた二人の妖魔は、微笑む。

 見抜かれていたとは言え、余裕のようだ。

 まるで、自分達の方が、勝つと思い込んでいるのだろう。


「お前ら、何の目的で、ここに来たんだ。それに、どうやって……」


 クロスは、妖魔達に問いただす。

 なぜ、ここに来たのか。

 しかも、結界が張ってあるにもかかわらず、どのようにして、すり抜けたのか。

 知らなければならない事は、山ほどある。

 ゆえに、問いただした。


「教えたくない」


「どうせ、教えたって、殺すんでしょ~」


 妖魔の男性は、静かに、回答を拒絶する。

 教えるつもりなどないようだ。

 それに、妖魔の女性は、教えたとしても、すぐに、殺されるのではないかと、予想している。

 妖魔は、島の民や帝国の民にとって、危険な存在だ。 

 彼らは、その事をわかっているのだろう。


「その通りだ」


「ちっ」


 クロウは、静かに、答える。

 答えた後、殺すつもりなのだ。

 生かすつもりは、毛頭ない。

 わかっていたとは言え、苛立ったのだろう。

 妖魔の男性は、舌打ちをし、にらみつけた。


「なら、殺してやるよ!!」


 妖魔の女性は、構える。

 クロス達を殺すために。

 クロスとクロウは、古の剣を鞘から引き抜き構える。

 ルチアとヴィオレットは、すぐさま、ヴァルキュリアに変身した。

 二人の妖魔は、すぐさま、襲い掛かる。

 だが、ヴィオレットが、地面を蹴り、先陣を切って、二人の妖魔に斬りかかった。

 


 しばらくして、クロス達は、妖魔達を倒した。

 苦戦はしたものの、ルチアとヴィオレットが、固有技を発動してくれたおかげで、無事に任務を終えたのだ。

 

「やったな」


「うん」


 妖魔を倒せたため、クロスは、笑みを浮かべる。

 ルチアも、つられて、笑みを浮かべていた。


「皆、ありがとう!!」


「助かった」


 ルチアは、クロスとクロウに感謝の言葉を述べる。

 本当に助かったのだ。

 二人のおかげで。

 ヴィオレットも、感謝の言葉を述べた。

 クロスは、笑みを浮かべるが、クロウは、照れ隠しで、顔を背けた。



 その後、ルチア達は、フォウの家に戻り、妖魔を倒した事を報告した。

 それも、二人もいた事も、伝えて。


「そうか。倒してくれたか。本当に助かった。ありがとう」


 フォウは、笑みを浮かべて、お辞儀する。

 本当に、喜んでいるようだ。

 うれしいのだろう。

 妖魔が、いなくなった事ではなく、クロス達が、自分達を守ってくれたことに。

 クロス達が、成長したのだと、確信を得たのだろう。

 特にクロスとクロウは、幼い頃から見てきている。

 あれほど、幼かった彼らが、成長したのだ。 

 そう思うと、うれしくて、たまらないのだろう。

 クロス達も、つられて、微笑んだ。


「実はな、明日、祭を行うつもりなんじゃ。よかったら、参加してくれんかのぅ」


「なるほどな」


「それで、俺達を呼んだってことか」


「そう言う事じゃ」


 フォウは、クロス達に語る。

 明日、祭を行う予定だったのだ。

 だが、妖魔が、頻繁に出現していた為、中止を危ぶまれていた。

 クロス達を呼んだのも、実は、祭に参加してほしかったからなのだ。

 クロウは、静かに、納得していた。

 クロスも、同様に、理解したようだ。

 なぜ、フォウが、自分達を呼んだのか。

 祭は、大事な行事である事を知っている。

 今年は、それに参加できないと思っていたのだ。

 フォウは、どうしても、彼らを呼びたかったのだろう。

 妖魔を倒してもらい、祭に参加してもらう為。

 二人の予想通りのようで、フォウは、うなずいた。


「はい!!参加させてください!!ね、いいでしょ?ヴィオレット」


 ルチアは、嬉しそうに懇願する。

 祭に参加したいようだ。

 ルチアも、祭には参加している。

 クロスとクロウも、それを知っていた。

 その祭を思い出したのだろう。

 ルチアは、ヴィオレットにも、尋ねる。

 ヴィオレットにも、参加してほしいと願って。


「ああ。カレンには、私から、言っておく」


「ありがとう!!」


 ヴィオレットは、笑みを浮かべて、うなずいた。

 討伐が終わったら、帝国に帰る予定ではあったが、明日まで、残る事を決めたのだ。

 カレンと言うヴァルキュリアがいるらしく、彼女に事情を話せば、わかってもらえると推測しているようだ。

 もちろん、緊急事態がなければだが。

 それでも、ルチアは、うれしかった。

 ヴィオレットと祭に参加できるのだから。



 その後、ヴィオレットは、一旦、帝国に戻った。

 祭りに参加する事を報告するためであろう。 

 ルチアは、許可をもらえるのだろうかと、内心、不安に駆られていた。

 そんな彼女に対して、クロウとクロスは、ルチアを諭す。

 許可はもらえるはずだと。

 ルチアは、不安を取り除いてもらえたようで、笑みを浮かべてうなずいていた。

 しばらくして、ヴィオレットが、戻ってくる。

 ヴィオレット曰く、許可がもらえたようだ。

 ルチアは、うれしかったのか、ヴィオレットに飛びつき、喜んだ。

 彼女を見ていたクロス達は、穏やかな表情を浮かべていた。

 共に祭に参加できる事をうれしく思いながら。

 そして、翌日の昼、祭が、開催された。 

 ヴァルキュリア役と騎士役が、大任を果たし、結界が、強化される。 

 島の民は、喜び、ルチア達も、微笑んでいた。

 時間が経ち、夜になると、宴会が行われた。

 屋台が立ち並び、島の民が、踊ったり、歌ったりしている。

 それも、楽しそうに。

 クロス、クロウは、ルチア、ヴィオレットと共に祭を楽しんでいた。


「うん!美味しい」


「美味しいな」


 ルチアは、美味しそうにホットドッグをほおばる。

 それも、楽しそうに。

 そんなルチアを目にしたヴィオレットも、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 心の底から楽しんでいるのだろう。

 彼女達のやり取りを目にしたクロスとクロウは、微笑んでいた。

 穏やかな気持ちになって。


「昨日は、ありがとうね、クロウ」


「俺は、別に……」


「私達の事、心配してくれたんでしょ?」


「え?」


 ルチアは、クロウに感謝の言葉を述べる。

 だが、クロウは、何もしていないと答えようとする。

 不器用なのか、冷たい言い方をしてしまった。

 どうして、もっと、優しく言えないのだろうか。

 クロウは、いつも後悔していた。

 自分は冷たい男だと自覚していたから。

 それでも、ルチアは、知っていたのだ。

 自分達を心配してくれていた事を。

 見抜かれていたクロウは、驚き、ルチアの方へと視線を向けた。


「昨日、自分達だけで行くって言った時、私達を行かせようとしなかったのは、私達の事を心配したんだと思ったんだけど」


「……よく、わかったな」


「わかるよ、クロウは、優しいから」


「……」


 ルチアは、悟っていたようだ。

 なぜ、クロウが、自分とクロウだけで行くと言ったのか。

 ヴァルキュリアの力を借りずに、妖魔を倒そうとしたのは、自分達が、強いから、ヴァルキュリアの力を必要としなかったわけではない。

 ルチア達の事を心配していたのだ。

 大事に思っていたのだろう。

 ルチアは、その事を見抜いていたようだ。

 クロウは、あっけにとられている。

 読まれていたとは思いもよらなかったのだろう。

 いつも、冷たい印象を与えてしまうから。

 ルチアが、初めてだ。

 自分の心情を見抜いてくれたのは。

 ルチアの言葉を聞いたクロウは、目を背けた。

 それも、照れながら。


「ありがとうね、クロウ」


「……ああ」


 ルチアは、微笑んだ。

 クロウは、照れながらも、微笑んでいた。

 心の底から嬉しかったのだ。 

 クロス以外に、理解してくれる者がいるとわかって。


「怪我、大丈夫だった?」


「問題ない。ヴァルキュリアは、再生能力があるから」


「でも、何度も、傷つくのは、辛いと思う」


 クロスは、ヴィオレットに尋ねる。

 心配しているのだろう。

 ヴィオレットは、自分の事よりも、ルチアの事を大事にしていると見抜いているから。

 だが、ヴィオレットは、大丈夫だと告げた。

 再生能力があるから、死なないと言いたいのだろう。

 クロスは、その能力があるからこそ、ヴィオレットが、何度も、傷ついてしまうのではないかと、懸念していたのだ。

 ヴィオレットが無理をしていないかと。


「……そうかもしれないな。ルチアが」


「ルチアだけじゃなくて、ヴィオレットも」


「え?」


 ヴィオレットは、まだ、ルチアの事を心配しているようだ。

 だが、クロスが、ルチアだけではく、ヴィオレットのことも、心配しているのだ。

 それを聞いたヴィオレットは、あっけにとられていた。

 予想もしてなかったようだ。

 自分が、心配されていたなどと。


「だから、自分を大事にしてほしい」


「わかった。考えておく」


 クロスは、懇願した。 

 どうか、ヴィオレットが、無茶をしないようにと。

 それほど、ヴィオレットの事を大事に思っていたのだ。

 無意識のうちに。

 ヴィオレットは、照れながらも、静かにうなずいた。

 心配してくれる者がいるのだと、わかって、うれしくなって。

 その時であった。

 大きな花火が、空に打ち上がったのは。


「わあっ!!綺麗」


「本当だ。綺麗だな」


 ルチア達は、花火を眺めていた。

 花火は、何発も打ち上がった。

 まるで、ルチア達を祝福しているかのようだ。


「また、皆で、参加したいな」


「うん」


 ルチアは、心の底から願った。

 また、四人で、祭に参加したいと。

 それは、ヴィオレットも、同じだ。

 皆で参加したいと願っていた。


「約束、また、来年、皆で参加しようね!!」


 ルチアは、人差し指を差し出して、微笑んだ。

 約束を交わすかのように。


「そうだな。な、クロウ」


「……ああ」


 クロスとクロウも、うなずいた。

 また、来年、四人で、祭に参加しようと。



 翌日、ルチアとヴィオレットは、帝国に戻った。

 もう一度、会おうと。

 再会を約束して。

 彼女達を見送ったクロスとクロウも、レージオ島の船に乗った。

 フォウ達は、見送ってくれたが、寂しそうだ。

 当然であろう。

 孫と別れるのは、寂しい事だ。

 クロスとクロウは、そう思うと、心が痛んだ。

 だが、それでも、ルーニ島を旅だった。

 もう一度、ここに戻ってくることを決意して。


「楽しかったな」


「ああ」


「また、皆で参加したいな」


「そうだな」


 クロスとクロウは、祭の事を思い返しているようだ。

 それほど、楽しかったのだ。

 今までで一番。

 だからこそ、もう一度、彼女達と参加したい。 

 心の底からそう願っていた。

 だが、それは、叶わなくなる。

 クロス達は、まだ、その事を知らなかった。

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