第二十九話 異変
ルチアが、突然、倒れてしまった。
クロウがルチアを抱きかかえ、ヴィオレットとクロスは、帝国の研究所へたどり着いた。
「ルチア!!しっかり!!」
ヴィオレットは、ルチアへと必死に声をかける。
だが、ルチアは、眠ったままだ。
研究所に入ろうとしたヴィオレット。
だが、クロスとクロウは、止められてしまった。
関係者と許可を得た者以外は、入る事を禁じられているのだ。
ゆえに、ヴィオレットは、ルチアを抱きかかえ、研究所に入った。
すると、研究者が、ルチアとヴィオレットを待っていた。
ルチアをベットへ寝かせ、治療を始める。
ヴィオレットは、ただ、見ているしかなかった。
だが、その時だ。
女研究者が、部屋に入ってきたのは。
「アライア研究室長!!」
研究者達が、目を見開く。
なんと、入ってきた女研究者が、アライアだったのだ。
ヴィオレットは、初めて、アライアと対面した。
だが、アライアは、ヴィオレットに目を向けることなく、ルチアの元へと歩み寄った。
「ルチアは?」
「眠ったままです」
「そう」
アライアは、研究者達に状況を確認する。
ルチアは眠ったままだと知ったアライアは、ルチアの事を研究者達に任せて、ヴィオレットの元へと歩み寄った。
「君が、ヴィオレットだね」
「はい」
「あとは、私達に任せて。君は、カレンに報告しに行ってくるといい」
「ですが……」
「いいから」
アライアは、ヴィオレットに、カレンの元へと報告しに行くように、告げる。
だが、ヴィオレットは、躊躇したのだ。
ルチアの事が心配なのだろう。
当然だ。
ルチアは、家族同然なのだから。
だが、アライアは、戻るように告げた。
まるで、冷たく突き放すように。
アライアは、そのまま、ヴィオレットに背を向けた。
ヴィオレットの返事を聞くことなく。
「あの、お聞きしたいことがあるんです!!」
「何?」
ヴィオレットは、意を決して、アライアに問いかけた。
わかっている。
アライアは、ルチアの治療に取り掛かろうとしていることは。
それでも、知りたいことがあったのだ。
ヴィオレットに呼び止められ、アライアは、苛立ったように、振り向いた。
「ルチア、最近、具合が悪かったんです。あの子、何も言ってくれなくて……」
「……」
ヴィオレットは、語った。
最近、ルチアの具合が悪かったことを知っていたから。
頻繁に、研究所にも通うようになっていた事も、知っている。
ゆえに、問いかけたのだ。
アライアなら、知っているのではないかと。
だが、アライアは、黙ったままであった。
「何か、あったんですか?」
「大丈夫。その件については、こちらで、調べてるから」
「え?」
ヴィオレットは、再度、問いかける。
だが、アライアは、詳しく答えようとしなかった。
今、調べている最中だと。
ヴィオレットは、あっけにとられていた。
状況を理解できずに。
何か、知っているのではないかと思っていたが、違っていたのだろうかと。
ヴィオレットは、混乱し始めた。
「さあ、もういいかな?」
「あ、はい……」
アライアは、ヴィオレットに告げる。
今すぐにでも、ルチアの治療に取り掛かりたいと言いたいのだろう。
ヴィオレットは、察して、部屋から出た。
だが、ヴィオレットは、まだ、知らなかった。
アライアが、不敵な笑みを浮かべていたなどと。
ヴィオレットは、研究所を出たが、クロスとクロウの姿は見当たらなかった。
どこかに行ってしまったのだろうか。
ヴィオレットは、途方に暮れ、王宮の待機室へと向かった。
王宮の待機室へ入ったヴィオレット。
待機室には、カレンが、待っていた。
ヴィオレットを待っていたようだ。
「カレン……その……」
ヴィオレットは、珍しく口ごもってしまう。
なんと話せばいいのか、わからないのだろう。
まさか、ヴァルキュリア候補達が、妖魔になったとは、言えるはずがないのだ。
カレンは、ヴィオレットの心情を察したのか、穏やかな表情を浮かべて、ヴィオレットの元へと歩み寄った。
「話は聞いているわ。怪我はない?」
「私は、大丈夫だ。だが、ルチアが……」
カレンは、ヴィオレットを気遣う。
ヴィオレットは、うなずくが、ルチアの事を想うとやるせないのだろう。
後悔しているのだ。
やはり、強引に問いかければよかったと。
そうしていれば、ルチアは、倒れなかったかもしれない。
ヴィオレットは、自分に対して、怒りを覚え、拳を握りしめた。
「辛かったわね……」
「……」
カレンは、ルチアの事を聞かされている。
ゆえに、ヴィオレットの気持ちが、痛いほどわかるのだ。
カレンも、ルチアの様子に気付いていたが、それ以上は、問いかけられなかった。
後悔しているのだろう。
ヴィオレットは、唇を噛んだ。
悔しくて、悔しくて。
「彼らも、辛いと思うわ。自己防衛とは言え、彼女達を殺してしまった事を、悔いていたもの」
「え?」
カレンが、衝撃的な言葉を口にする。
なんと、逃げ出したヴァルキュリア候補達は、クロスとクロウが、違うというのだ。
事実とは、異なっている。
ゆえに、ヴィオレットは、驚愕し、動揺した。
「い、今、なんて……。クロスとクロウが、あいつらを?」
「ええ、本人達からそう聞いてるわ。一緒にいたんでしょ?」
「あ、ああ」
ヴィオレットは、戸惑いながらも、カレンに問いかける。
実は、カレンは、研究所に来ていたのだ。
ルチアの事を心配して。
その時に、クロスとクロウに遭遇した。
事情を聞かされたのだ。
ヴァルキュリア候補達が、自分達に襲い掛かったため、殺してしまったと。
説得を試みたが、通じなかったと。
もちろん、それは、偽りだ。
殺したのは、ヴィオレットとルチアなのだから。
だが、何も知らないカレンは、違和感を覚えたのか、ヴィオレットに問いかける。
ヴィオレットは、話を合わせる為、うなずいた。
「どうして……」
ヴィオレットは、拳を握りしめる。
何が起こっているのか、わからないのだろう。
なぜ、ルチアが、倒れてしまったのか。
クロスとクロウは、真実を隠してしまったのか。
ヴィオレットは、混乱していた。
その頃、ルチアは、目をきつく閉じる。
意識を取り戻したようだ。
「ん……」
「ルチア!!」
ルチアは、ゆっくりと目を開ける。
だが、意識は、ぼんやりとしているようだ。
彼女のそばにいたのは、アライアではない。
なんと、アマリアだ。
アマリアは、ルチアの顔を覗き込んでいた。
「アマリア様。どうして」
「貴方が、倒れたって、聞いたから……」
ルチアは、ゆっくりと起き上がる。
なぜ、アマリアが、ここにいるのか、状況を把握できないのだろう。
アマリアは、説明した。
ルチアが、倒れたと聞いて、研究所まで駆け付けたのだ。
ルチアを心配して。
「何があったのですか?」
「私……」
アマリアは、ルチアに問いかける。
何が起こったのか。
ルチアは、思い出し、説明しようとした。
だが、その時であった。
「あれ?」
「どうしたのですか?」
「思い出せない。クロス達と、あの子達を追いかけて、その後は……」
「……」
ルチアは、思い出そうとするが、思い出せなくなっていったのだ。
クロスとクロウと再会を果たしたことは覚えている。
その後、レジスタンスのアジトでヴァルキュリア候補を見かけて、追いかけた事もだ。
だが、その後の事が、どうしても、思い出せない。
何があったのかを。
アマリアは、悟ってしまった。
ショックを受けて、記憶障害が発生したのだと。
――私、何をしたんだっけ?なんで、倒れたんだっけ……。
ルチアは、思い出そうとする。
だが、どうしても、思い出せない。
あの後、何があったのか。
なぜ、倒れていたのか。
ヴィオレット達は、どうなってしまったのか。
思いだそうとするが、全く、思い出せなかった。
――違う。知りたいのは、そんな事じゃない。そうだ。私……。
何が起こったのかを、思い出す事も、大事だ。
だが、ルチアは、他に知りたいことがあったのではないかと、推測した
思考を巡らせるルチア。
その時だ。
自分の胸に手を当て、研究所を見回す。
なぜ、自分が、ここにいるのかを悟ったのだ。
自分の身に何か、あったのではないかと、悟って。
「あの、アマリア様、私、魂の方は、どうなって……」
ルチアは、アマリアに問いかけた。
今、自分の魂は、どうなっているのか。
気を失い、ここにいるという事は、何か、異変が起きたのではないかと悟った。
アマリアは、うつむいてしまう。
やはり、何かあったようだ。
ルチアは、息を飲み、覚悟を決めた。
どんな話を聞かされることになっても、受け入れると。
「ルチア、落ち着いて聞いてください」
「はい」
アマリアは、静かに声をかける。
まるで、ルチアの心を落ち着かせるかのようにだ。
ルチアは、静かに、うなずき、アマリアの答えを待った。
「……貴方の魂は、完全に、融合しました」
「え?」
アマリアは、重たい口を開ける。
なんと、ルチアの魂は、神の力と完全に融合したというのだ。
ルチアは、驚き、あっけにとられていた。
「神魂の儀をやる時が、来たんです」
ついに、ルチアが、死を迎える時が来てしまった。
神魂の儀によって。
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