第二十三話 ルチアの本心
「あの、それって……」
「神魂の儀が、近いってことよ」
ルチアは、戸惑いながら、問いかける。
動揺しているのだ。
女研究者は、静かに、答えた。
申し訳なさそうに。
神の力と融合した魂に、体が、まだ、耐えられないため、眩暈が、起きるようだ。
ルチアは、事情を把握したのか、黙ってしまった。
「怖いわよね?死ぬってことだもの。でもね、ヴァルキュリアにとっては、名誉な事なの。だって……」
「わかっています。死ぬのは、怖くありませんから」
女研究者は、ルチアを気遣う。
誇り高き事とはいえ、神魂の儀を行うという事は、死ぬという事だ。
死を受け入れられるものは、少ないだろう。
歴代のヴァルキュリアも、そうだったのだから。
決意を固めたものの、いざ、神魂の儀が近いと知らされると、死を恐れ始めたのだ。
それでも、受け入れ、神魂の儀を行ってきた。
だが、ルチアは、死を受け入れているようだ。
死ぬ事は、怖くなかった。
誰かを失う方が、怖かったのだ。
「ですが、なぜ、カレン達よりも、先に……」
「そうね、本来なら、こんなにも、早く、融合化が進むのは、あり得ない事だわ」
ルチアは、疑問を抱いていた。
カレン達の方が、先にヴァルキュリアになったのに、なぜ、自分の方が先に、神魂の儀を行うことになったのだろうか。
女研究者は、説明する。
たった、一年で、融合化が進んだ前例はない。
早くて、二年くらいだ。
「でも、貴方とヴィオレットは、強い力を持っているの。カレン達よりもね」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ」
女研究者曰く、ルチアとヴィオレットは、強い力を持っているという。
それゆえに、神の力と馴染んだのだ。
カレン達よりも、早く。
ルチアは、驚く。
女研究者は、静かに、うなずいた。
「だったら、神様は、復活するんですか!?」
「え?」
「知りたいんです、教えてください!!」
ルチアは、女研究者に問いかける。
もし、自分が、神様に、魂を捧げれば、神様は、復活するのかと。
知りたいのだ。
神様が、復活すれば、誰も、命を落とす事はない。
ヴィオレット達が、魂を捧げなくてもいいのだから。
「あのね、あと、一人の魂で、復活するらしいの」
「じゃあ、ヴィオレット達が、魂を捧げなくてもいいんですよね!?」
「え、ええ」
女研究者は、語る。
ルチアの魂で、神様は、復活するというのだ。
つまり、もう、ヴィオレット達は、魂を捧げなくてもいい事になる。
死ぬ事はないという事だ。
ルチアが、確認するように、問いかけると、女研究者は、うなずいた。
「妖魔達も、消滅するんですよね?」
「そ、そうよ」
神様が、復活するという事は、妖魔が、消滅することを意味している。
つまり、誰も、妖魔に殺されることはなくなるという事だ。
ルチアは、その事に関しても、確認するように、問いかけると、女研究者は、戸惑いながらも、うなずいた。
「……だったら、怖くありません。神様が、復活するんだったら」
「本当に、いいの?」
聞きたいことを聞き終えたルチアは、改めて、決意する。
全ての者達が、助かるのであれば、死など怖くないのだ。
自分の魂を捧げる事で、神様が、復活する。
それは、世界を守る事になるのだから。
女研究者は、もう一度、尋ねる。
無理をしていないかと、不安に駆られているのだろう。
「いいんです。後悔しません」
「……」
ルチアは、断言した。
後悔など、するはずがない。
ルチアは、すでに、死を受け入れているのだ。
女研究者は、黙ってしまった。
ルチアの魂を捧げるという事は、ルチアを犠牲にするという事だ。
ゆえに、心が痛むのだろう。
まだ、若い少女が、犠牲になるのだから。
「今後は、どうすれば、いいんでしょうか?」
「いつもと変わらずに過ごせばいいわ。任務があったら、出撃すればいい。変身したり、力を使うと、また、眩暈が起こるかもしれないけれど」
「そうですか……」
ルチアは、神魂の儀まで、何をすればいいのか、問いかける。
だが、何か、特別な事をするわけではないようだ。
神魂の儀まで、普通に過ごせるという事であろう。
ただし、眩暈が起こる事はあるが。
ルチアは、不安に駆られた。
もし、眩暈が起こって、ヴィオレット達に迷惑をかけてしまったらと思うと。
「アライア研究室長から、これを渡されてるわ」
「これは……」
女研究者は、ポケットから、小瓶を取り出し、ルチアに渡す。
アライアから、言われていたのだ。
もし、神魂の儀が近づいてきた者がいたら、渡すようにと。
小瓶の液体は、透明な色をしていた。
一体、何だろうか。
ルチアは、思考を巡らせるが、見当もつかないようで、問いかけた。
「魂を安定させる薬よ」
「ありがとうございます」
女研究者曰く、魂を安定させることができるようだ。
これで、眩暈が起こらなくなるのだろう。
ルチアは、お礼を言い、頭を下げた。
安堵しているようだ。
「今後は、定期的に、ここに来て頂戴ね」
「はい!!」
女研究者は、ルチアに告げる。
定期的に、健診に来るようにと。
ルチアは、うなずき、立ち上がろうとした。
だが、その時であった。
「あ、いい忘れてたことがあったわ」
「何でしょうか?」
女研究者が、ルチアを呼び止める。
一体、何を言い忘れたのだろうか。
「この事は、まだ、誰にも言わないでちょうだい。指示があるまでね」
「あ、はい……」
女研究者は、ルチアに、警告した。
神魂の儀が、近い事は、ヴィオレット達には話すなと、口止めされたのだ。
ルチアは、戸惑いながらも、うなずいた。
ルチアが、研究所から去った後、女研究者は、ため息をついた。
「もう、良いですよ。ルチアは、帰りました」
「そう」
女研究者は、呆れながらも、声をかける。
誰かが、隠れて、ルチアと女研究者のやり取りを耳にしていたようだ。
その者は、なんと、アライアであった。
アライアが、隠れていたのだ。
あまり、自分の姿を見せたくなかった。
なぜなら、自分の野望が、見抜かれてしまうのを防ぐため。
「ついに、来たんだね……」
「はい。とうとう、この日が着てしまいましたね。アライア研究室長」
「うん、ついに、ね」
アライアは、微笑んでいた。
ついに、時が来たと思うと、うれしくてたまらないのだ。
魔神が、復活することを知っているのは、アライアのみ。
他の研究者は、神様が、復活すると思っているのだ。
魔神ではなく。
ゆえに、アライアが、微笑んでいる本当の理由を、女研究者は、知る由もなかった。
ルチアは、部屋へと向かう。
小瓶を部屋に隠すためだ。
――もし、この事を知ったら、ヴィオレットは、どう思うのかな……。
ルチアは、不安に駆られていた。
もし、ヴィオレットが、この事を知ってしまったら、どう思うのだろうかと。
喜ぶとは、到底思えなかった。
自分が死ぬのだ。
それは、ヴィオレットにとって、辛い事だ。
誇り高きこととはいえ。
――やっぱり、言わないほうがよさそうだね。言うなって、言われてるし。
ルチアは、時が来るまで、隠し通す事を決意した。
ヴィオレットの為に。
その日の夜、アライアは、ダリアの元へと向かった。
ルチアの事を報告する為に。
アライアは、ダリアの部屋にたどり着き、ノックした。
「ダリア、いるかい?」
「ええ、いるわ」
「失礼するよ」
ダリアが部屋にいるか、確認するアライア。
ダリアの声がする。
ダリアは、部屋にいるようだ。
アライアは、部屋に入った。
それも、微笑みながら。
「どうしたの?嬉しそうね」
「ついに、時が来たよ」
「そう」
ダリアは、アライアの笑みを見て、微笑んだ。
何か、うれしい事があったのではないかと、悟って。
アライアは、ダリアに報告する。
端的に。
それでも、ダリアは、微笑んだ。
わかったのだ。
アライアが、何を言いたいのか。
「なら、邪魔者は、消さなければならないわね」
「どうやって?」
ダリアは、決意を固める。
自分達も、動く時が来たのだと。
魔神復活の為に、邪魔者を消さなければならないのだと。
だが、どうやって、消すつもりなのだろうか。
アライアは、ダリアに問いかけた。
「大丈夫よ。あの子に任せるわ。私のかわいい息子に」
「そう」
ダリアは、自分の手を汚すつもりはない。
ダリアの息子であるカイリにさせるつもりだ。
皇子であり、暗殺者と言う裏の顔を持つカイリに。
それを聞いたアライアは、微笑んでいた。
全てがうまくいくと、推測して。
「さすがね、ルチア。貴方なら、決めてくれると思っていたわ」
ダリアは、読み取っていたのだ。
ルチアの心情を。
一年前の謁見の時に、ルチアは、決意を固めていた。
その瞳は、迷いがなかった。
ゆえに、ダリアは、ルチアなら、死を受け入れてくれると確信を得ていたのだ。
「何も、知らずに」
本当に、ルチアは、知らなかった。
神に魂を捧げるという事は、何を意味しているのかを。
ゆえに、ダリアは、微笑んでいた。
ルチアのおかげで、野望を叶える事ができると、確信していたから。
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