File.12 ハーフという存在

「実際に話を聞くと噂以上の凄腕っすね、サクラ・アトワールって……」


 ブラックラットパークのライトファンタジーエリア。

 そのメインストリートにある喫茶店の一つ、クルール・ラパン。

 ウサギをモチーフにした調度品で統一された店内で、アイラとテレサはお茶を飲みながらサクラについて会話中。


「それにしてもナチュラルとのハーフっすか……。ただの噂かと思ってたっすけど実際にいるんっすねぇ。でも、そんな人が上司とかテレサっちは大丈夫っすか?」


「う~ん? 最初は少し驚きましたけど割といい人ですよ? まぁ、何度注意しても煙草をやめないのにはイラッとしますけど……」


「いやいや、そういうことじゃなくってっすね? 今の社会制度的に考えるとその人、明らかになにかしらの犯罪に巻き込まれてたじゃないっすか? あと本物の煙草っすか? それ、絶対に『外』と繋がりがあるっすよね?」


 アイラの疑念にどう答えるべきか困惑するテレサ。そして、逃げるように逸らした視線の先には笑顔で触れ合う親子の姿がありました……。


 現在、世界中のセントラルでは過度の人口増加を抑制するために産児制限、バースコントロールが導入されています。本制度と電脳仮想空間ザナドゥが存在するため、セントラルの管理下では子どもを作る男女の直接的行為は現実においてほぼなくなりました。


 今の時代、セントラルの新生児というものは18歳以上の男女から提供された精子と卵子を使い人工子宮を用いて誕生します。テレサとアイラも例外ではありません。

 

 あとの生活環境は様々です……。

 養子縁組みが実現すれば現実と仮想空間の両方で人の手によって育てられます。

 しかし、不可能な場合は専用のAIによるドローンとアバターを使用した育成プログラムが適用されます……。

 今、テレサが見つめる親子は果たしてそのどちらなのか……。


「テレサっち? 話、ちゃんと聞いてるっすよね? アタシ、これでも心配してるんっすよ? まぁ、とにかく、そのサクラとかいうハーフには十分に注意したほうがいいっすよ……。今でも片親のナチュラルと関係があるかもしれないんすから」

 

「…………」


「はぁ……。アタシ、少し席を外すっすね。10分ほどしたら戻るっすから……」


 黙って俯くテレサにそう言い残し席を立つアイラ。

 その姿が見えなくなったのを確認し、声を掛けます。


『大丈夫ですか、テレサ? だいぶ落ち込んでいるようですが?』


「……アイラ、怒ってましたね。これは嫌われちゃいましたかね?」


『心配ですか? でも、大丈夫だと思いますよ。アイラが優しいことはテレサもよく理解しているでしょう? 今回は色々と衝撃が大きかっただけですよ……』


「そう……ですかねぇ」


 呟くと冷え切ったお茶を口にするテレサ。

 

 セントラルへ過激なテロなどを行うナチュラルに対し、良い感情を抱かないアイラのようなアーティフィシャルは多くいます。そのため、ハーフであるサクラを疑ってしまう気持ちも理解できます……。

 ですが、サクラのようなハーフも被害者です。ナチュラルの非人道的な行為の結果として多くの場合、誰からも望まれず生まれるのですから……。


 こうした人種間の差別や偏見はいつになればなくなるのか……。科学技術が高度に発展しても解決の糸口がなかなか見つからない難しい問題です。


 けれど、だからと言ってそこで思考を放棄するわけにはいきません。

 テレサのためにもアイラとサクラが仲良くなる手段を考える必要があります……。3人ともいい子たちですからね……きっとなにか方法があるはずです。

 

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