第13話 脱出!
はぁ……ようやくいなくなってくれたわね……
でもこれで晴れて行動を起こせるわ。当然のことだけど明後日までここに居るつもりは微塵もなかった。第一、私が実は能力が使えないと分かった時に奴らにどのようにされるか分かったもんじゃない。激昂した兄にそのまま殺されてしまう恐れもあるのだ。逃げるのなら今しかなかった。
そう考えた私は再度格子の近くまで寄っていった。
それにしてもどうしたもんかしらね……どうすればこの籠から抜けられるのかしら……
再度格子の隙間から抜け出そうとしたが、やっぱりあと少しの所で突っかかってしまう。
ダメもとで、蹴りを入れて壊してみる……?先にこっちの脚の方がおかしくなりそうだけど……
他には能力使うとか……
……!
その瞬間私はあることをひらめいた。
そうよ……!
鳥かごにグロース、もしくは、私自身にミニマム掛ければいけるんじゃない?
鳥かご自体が大きくなれば、当然格子の隙間も大きくなる。私が小さくなればその分隙間にも入りやすくなる。本当は私自身にグロース掛けて逃げたいところだけど、鳥かごから脱出出来なければなんの意味もない。ここで使いましょう。
でも、自分自身にミニマム掛けるのはちょっと気が引けるわね……
これ以上小さくなるのはごめん被りたいから、今回はグロースで行きましょう。
…………
ところでどうすれば使えるのよ……?
そういえば能力の使い方についてはなにも説明がなかったわね。あの自称神が投げやりだったのもあるが、能力の使い方については聞いておくべきだったかもしれない。
まあ・・・いいわ・・とにかくやってみましょう。
そう思い立った私は手のひらを鉄格子に向けた。
このまま唱えればいいのかな?
「グロース!」
その瞬間……私の内から外に出ていく力の奔流をわずかに感じた。
ズゥン………
…………うん?
今、発動した?
なんとなく大きくなったような気もしないでもないが、一目には全然わかんない。
私はそこで本当に発動したのか確認する方法を考えた。
…………
もし、特殊能力を使えたのならMPも消費しているはずよね……?
そう思った私は巻物を取り出して自分のMPを確認した。
"MP:0"
減っている……
えっ……今ので発動したことになったの……?
嘘でしょう……?今のがグロース……?
これが”巨大化”の能力なの……!??
私は余りの衝撃的な事実に頭を抱え込んだ。
ぜんっぜん役に立たないんだけどおおおおぉぉぉ……この能力!!?
はっきり言って変わってないに等しい。
もしかしたら、少し大きくなったのかもしれないけどこんなんじゃバッドステータスの中和など夢のまた夢だ。
私はガクッと床にうなだれた。想像以上のショックだった。小さくなった私にとってこの”グロース”はかなり当てにしていた能力だった。
普段は小さくても、巨大化の能力で元のサイズに戻れるんならまだ何とかやりようはあったかもしれない。もし危機に襲われても、一時的に大きくなることができれば何とか回避できるかもしれない。
しかし、現実は残酷である。これで間違いなく私は小人になってしまった。
いざという時の能力としても使えない……
・
・
・
だが、それでも私は生きなければならない。
このまま死ぬのなんて御免だった。
なんとしてもここから抜けてやる……!!
以前から自分でも思っていたことだけど、私はとても負けず嫌いだった。諦めるという文字は私の辞書になかった。
私は格子に近づき再度体をねじ込んだ。
ぎゅっ……
あれっ!?
もしかして行けそう?
さっきより抵抗なく体を通している。これだったら抜けられるかもしれない……!
ほらもうちょいよ……!行って……!
あと少しなんだから!
スポッ!
ととととっ!
私は隙間から抜けた際勢いあまって倒れそうになったが、なんとか体制を立て直した。
行けた……!
行けたじゃない……!!
やったわよ!!!
私は思わずガッツポーズをした。
まさに先ほどまで籠の中の鳥状態だったところから抜け出せたのだ。嬉しくないわけがない。しかし、ここで喜んでばかりもいられない。まだ、鳥かごを抜け出しただけであって家から脱出できたわけではない。
こうしちゃいられない……すぐに逃げるわよ……!
私は喜びもつかの間、すぐに近くの窓に駆け寄っていった。幸いなことにこの窓には鍵が掛かっていないことは確認済みだ。このサイズだとちょっと力は入れることになるが開けることは出来るだろう。
私は脱出が出来るという高揚感を感じながら窓に近づいていった。
……!
……う……そ……
しかし、窓に近づくにつれそれは失望感に変わっていった……
確かに窓は開けることは出来る。外に出ることも出来るだろう。もし、”普段”の私の大きさだったら問題なかった。窓のヘリに手を掛けてぶら下がった状態から下に飛び降りれば2階からだったら着地できただろう。
だが、”現在”の私が眼下に見たものは高層マンションの屋上から下を眺めたものと同じだった。そこは余りにも高い断崖絶壁の窓辺だった。
窓を開けて落ちたら一巻の終わりだ……
残念だけどここから行くのは無理ね……
他の場所を探しましょう。
私は辺りを見回してみた。玄関は無理ね。とてもじゃないけどドアノブを捻って動かすなんて、この身体じゃ無理だった。
他の部屋にある窓からならどうかしら?
この窓は地面まで真っ逆さまだが、屋根づたいに繋がっている窓があるかもしれない。だが、隣の部屋は兄が眠っている。そこに侵入するのはかなり危ない。弟がいる部屋も同じだ。
彼らがいる部屋以外の窓から抜け出せるところを探さないと……!
私はテーブルの柱を伝って床に降りた後、家の探索を始めた。隣の部屋からはイビキが聴こえてきている。どうやら兄はもう眠っているようだ。
ノンキなものね……自分の命が掛かっているかもしれないのにあんなにぐっすり眠れるなんて凄いわ……
あまり見習いたくない相手だが、その度胸だけは認めざるを得なかった。小心者という汚名は返上しといてあげる。
そんなことを考えながら、私は各部屋を見ていった。弟が入っていった部屋からはまだイビキが聴こえてこない。
まだ、眠っていないのかな?いずれにしても早く探索した方が良さそうね……弟がひょっこりダイニングルームにでも行こうものなら私の脱走がすぐにばれちゃう。
さらに奥の部屋に進む。ここは書斎だろうか?
やっぱり家具は少ないが、本棚はあった。肝心の本はほとんどないけど……
書斎の更に奥を見る……
するとそこに窓があった。しかも幸運なことに屋根づたいで隣の家屋とも繋がっているようだ!
よしっ!
私はガッツポーズをするとともに駆け足で窓に近づいた。スライド式の窓だった。鍵はやっぱり掛かっていない。
不用心ね……。まあ、今回はそれで助かったんだけど。
私は窓の端を掴むと後ろに体重を掛けながら窓をスライドさせようとした。しかし、窓は想像以上に重たかった……
私は渾身の力を込めて窓を動かそうとする。窓は僅かだが、動き始めた。
あと、もうちょい、もうちょいよ……
ほら、動いて!動いてよ!
動け、動け、動け、動け……!
ガララッ
窓は音を立てて動いた。
私一人なら十分抜けられる隙間がそこには出来ていた。夜に照らす月明かりが眩しかった。
……やった……
やったわよ私……これで晴れてこの家からおさらばすることが出来る。
私は後ろを振り返って、あの二人が来ていないことを確認した。
よし……大丈夫ね
あいつらが気づくころには私はもう遠くに逃げている。私は最後にあの2人の兄弟について思いを巡らせた。
正直最悪な人たちだったわね……
異世界の人達の面識はまだほとんどないけど、あの二人は間違いなく悪い方だと思う。短い付き合いだったけど、これでお別れね。もう、会う事もないだろうけど。まあ、頑張りなさいよ。
私はそう言って夜の闇に消えていった……
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