第50話 ユウとリン 春が来た

4月になった。


ユウは2年生に、 リンは3年生になった。この時期、2、3年生は特に忙しいということもないが、3年生のリンは、そのうち就職活動などで忙しくなるのだろう。


いつもの木陰のベンチに2人で座って、前の桜の花が散るのを見ていた。


「そろそろ1年ですね。」ユウは言った。


「そうね、初めて会ってから1年。」リンが答える。


初めて会った時から、引っ込み思案だったユウはしっかり者になって、スチームローラーのダイエット効果か、ぽっちゃり気味だったのが引き締まったナイスバディになった。ユウには優しいが、それ以外の人にはつっけんどんな感じだったリンは、甘えん坊になってちょっと柔らかい感じになった。2人は親友というよりは、姉妹というか家族みたいになった。


それは、2人にとって1年前には予想もしなかったこと。


リンが言う。


「初めて駐輪場で、あのアイボリーのスチームローラーを見た時、どんな娘が乗っているんだろうって思ったの、やっぱりバリバリの体育会系の女の子かなって。」


「そうしたら、ふわふわの髪の可愛い女の子でさ。私思ったの、絶対この子と友達になるんだって。」


「私は初めてリンに会った時、怖そうな人だと思いました。」


「あの時は私も緊張していたのよ。早くしないとミトさんにとられるって。」2人は笑った。


2人のスチームローラーを眺めながら、ユウが言う。


「今年はちょっと遠出とかしてみたいですね。」


「私は、しまなみ海道とかお遍路とか行きたいな。」


「いいですね、『ワンスモア』のみんなで行きましょうか?」


「2人じゃないの〜?」


「きっと、もっと楽しいですよ。」


2人の話は尽きることがなかった。


スチームローラーの次のカスタムのこと。来週のポタリングのこと。『ワンスモア』のイベントのこと。ゴールデンウィークのこと。今週の週末にユウの両親がまたリンを食事に呼びたがっていること。ユウの家の猫が、リンと遊びたそうにしていること。


その時、2人の前に1人の少女が現れた。小柄ですばしっこそうな女の子。その子がユウとリンに向かって言った。


「あのっ、私、今年入学した、柏木かしわぎはると言います。私も先輩たちみたいな自転車に乗ってみたいんです。教えてくれませんか?」


ユウとリンは顔を見合わせた。2人は笑顔で答える。


「私たちで分かる事なら、喜んで!」




(シングルスピード第一部 完)

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