第48話 ユウ、雪の日は

その日はとても寒かった。


ユウとリンは、授業の後、『ワンスモア』の部室でミトとおしゃべりをしていたが、窓の外に雪がちらついてきた。ミトはタイヤの細いロードバイクなので、本降りになる前に帰ると言い出し、ユウとリンもとりあえずリンの家に場所を変えることにした。


リンの家で温かいお茶を飲みながら、くつろいでいたが暗くなっても雪はおさまる様子がない。リンは泊まっていけと言ったが、明日の授業に必要なものがあったので、家に帰ることにした。


ならバスと電車で帰りなさい、とリンが言うので、バス停を見てみたが雪でダイヤが乱れているらしく多くの人が並んでいた。これでは電車もどうなっていることやらということで、覚悟を決めてスチームローラーで帰ることにした。


リンに、何かあったらすぐ電話するのよ、と言われて、手を振ってリンの家を出た。スチームローラーをゆっくりと走らせる。雪明かりで道路は明るく、幻想的な光景だった。粉雪はあまりタイヤが滑らず、シャリシャリと音をたてる。


車も自転車も歩行者も、ほとんどいない。ユウの口から吐く息が白い。ユウはなんとなく楽しかった。ゆるゆると進んで行く。


帰路に結構急な下り坂がある。ここは車もあまり通らないのか、轍もなく一面雪だった。さすがに怖いので、この辺りで一番緩やかな坂まで迂回した。慎重に下って行く。落合川の遊歩道まで着いた。ここまで来れば家までもう少しである。


遊歩道はけっこう人通りがあるのか、足あとや自転車の轍があって雪が溶けていた。少し下り勾配のところでハンドルを取られる。ユウはそのまま滑って転倒した。手をついて四つん這いみたいな体勢で、ちょっとぼうっとする。我に返って、のろのろと立ち上がるとスチームローラーを起こして、点検した。特に破損や傷もないようだ。ほっとして、スチームローラーを押してそのまま歩く。


ユウの足がたてるサクサクという足音と、スチームローラーのタイヤのシャリシャリという音が静かな道路に響いた。いつもの3倍くらいの時間をかけて、ユウは家までたどり着いた。


家では、リンからメールをもらっていた母が心配していた。父は電車が止まってしまい、まだ帰って来ていない。夕食の前に着替えることにして、下着姿になって鏡を見ると、体のあちこちに青アザがある。たぶん転んだ時にできたのだろう。お風呂に入った後、湿布を貼らねばと思った、ユウだった。


次の日の朝、雪は止んだが道路は凍結してしまい、ユウはスチームローラーでの通学は諦めて電車とバスで大学まで行った。大学の駐輪場をのぞくと、リンのマシンが1台だけぽつんと停めてあったのだった。

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