第46話リン、車リンを組みたい

リンは正月明けに届いた荷物を見ながら、腕組みしていた。


荷物とは自転車用品のネットショップの年末セールでつい購入してしまった品物である。なんでこんなものを買ってしまったのだろう、滅多に使うものじゃないのに。ワインを飲みながらネットを見ていたのが、良くなかったのだろうか?


リンは箱から出した品物を見て、ため息をついた。その品物とは、振れ取り台とセンターゲージであった。


自転車の車輪は、中心部のハブという部品とタイヤがついているリムという部品が、スポークという細い棒とニップルという部品で連結され構成されている。


そのスポークが伸びたりしてネジが緩むと、車輪に狂いが出てしまう。そのため車輪を振れ取り台にのせて、修正するのであった。車輪を一から組み立てる時にも使用する。センターゲージとは、リムが車輪の中心に来ているか左右から当てて確認するための道具である。


通常、自転車の後輪は変速の多段フリーホイールが右側についている。そのため、リムが車輪の中心に来るように、おちょこというオフセットがある。オフセットのせいでスポークの長さが車輪の左右で異なるため、スポークのテンションのバランスが悪い。乗っている内に振動や衝撃でスポークが伸びるとネジが緩み、車輪に狂いが出るのである。


車輪に狂いが出ると、ブレーキをかけてないのにブレーキシューがリムに当たってしまったり、車輪がたわんで非常に乗りづらくなる。


そうは言っても、上手な人が組んだ車輪は、そうそう狂わない。ましてやシングルスピードの車輪はフリーホイールの幅が狭く、おちょこがないので、基本的に左右のスポークの長さは同じでテンションバランスがいいので、まず狂いが出ないと言っていい。


つまり、リンは自分で新しく車輪を組むのでなければ、必要のないものを買ってしまったということであった。一応、最初にスチームローラーを買った時についていた車輪を振れ取り台に乗せてみたが、全く狂いはなかった。ちなみに今使っている車輪は、ホワイトインダストリーズのハブとヴェロシティのリムという高級部品をショップのメカニックが念入りに組んでくれたもので、まず狂いはなさそうだった。


というわけで、利用することがなさそうなものを買ってしまったリンであった。オークションで処分してもいいのだが、どうせなら一度は使って見たい。それには、使うあてのない車輪を新しく作らなければならない。


その時、リンは閃いた。ユウのために作ればいい。リンが作った車輪のスチームローラーで走るユウ。リンはその場面を想像して、うっとりとした表情を浮かべた。


次に、ユウにプレゼントを渡せる名目のある日は、3月9日のユウの誕生日である。車輪の組み立てはミスをすると事故や転倒につながる可能性がある。その日までに完璧な車輪を組まねば、と思うリンであった。


誕生日のプレゼントにスチームローラーの車輪をもらって喜ぶ?ユウの顔を思い浮かべて、缶チューハイを飲みながら、ネットでハブやリムの品定めをするリンなのであった。


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