第34話 リン、対決する

ユウと水戸みとが振り向くと、リンがいた。腕組みをして、仁王立ちしている。


「あらあら、あなたたち本当に仲がいいのね。」水戸が言った。ユウが真っ赤になって、俯く。


「ロードバイクのサークルには入らないって、何度も言いましたよね。」リンがかまわず続ける。


紅尾べにおさんは、もう諦めたわ。でも、祖父江そふえさんは、ぜひ入ってほしい。」


水戸は立ち上がって、自転車にまたがり言った。


「今日は、これで失礼します。祖父江さん、また今度。」水戸は去って行った。



リンはユウに、待たせてごめん、あの人はしつこいから気をつけてと言った。

ユウは、水戸のこともそうだが、ロードバイクもちょっと気になっていた。




次の日、ユウは昼食を学生食堂で食べていた。


「ここ、空いてますか?」


水戸が立っている。ユウが黙ってうなづくと、水戸はユウの前の席に座った。水戸は可愛らしいワンピース姿であった。なるほど、この格好なら今まで気づかなかったとしても無理はない、昨日の服装とは全然違う。


それにしても、とユウは思った。水戸のトレーには、タンメンとミニ天丼、冷奴がのっている。リンもそうだが、自転車によく乗る人は、よく食べる。そして食べるのも速かった。すごい勢いでタンメンとミニ天丼、冷奴がなくなっていく。ユウと水戸は、ほとんど同時に食べ終わった。


ユウはお茶を飲みながら、自転車はどこに置いてあるのか尋ねると、サークルの部室に置いてあると水戸は答えた。いつもは早目に大学に来て、着替えてから授業に出ているそうだ。


ところで、と水戸が、リンはお昼は一緒ではないのか?と尋ねる。昨日ちょっとからかわれたので、は家が近いので、家に戻って食べているとユウは答えた。


水戸が、一度一緒にサイクリングに行きませんか? と言った。自転車もヘルメットもお貸しできます。もちろん、紅尾べにおさんの分も。それで、つまらないと思ったら、もうお誘いしません。


ユウは水戸に、何でそんなに熱心に誘うのか? 聞いた。水戸は、サークルの維持には部員が必要だが、女性でスポーツサイクルが好きな人は珍しいので、見つけたら熱心に声をかけるようにしている。と言った。


ユウは自分のどこがそんなに見込まれたのか、分からなかったが、水戸とロードバイクに興味があったので、リンに相談してみようと思った。


授業の後、ユウはリンに水戸たちとのサイクリングの話をした。リンは不機嫌だった。ロードバイクとシングルスピードは全く別のものと、ぼやく。最後にユウにお願いされて渋々承知した。ユウは水戸に話をして、次の日曜日に一緒にサイクリングに行くことになった。


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